『チェリまほ』原作者・豊田悠が語る、“漫画のドラマ化”の面白さ 「100倍くらい期待を超えてきた」

欠点のない人間を描くことにあまり興味がない

――原作についても伺いたいのですが、「30歳まで童貞だったら魔法使いor妖精になる」という都市伝説をテーマとして落とし込んだ理由を教えてください。

豊田:7年くらい前に、ふと人に触れたら心の声が読めるという有利な能力を恋愛経験がない人が得たら、より心の声に振り回されて使いこなせないだろうなと考え、これをラブコメでやったら面白いだろうなと思ったんです。ただ急に主人公は心が読めると言われても、設定が入ってこないじゃないですか。だから何かフックはないかなと思った時に、「30歳まで童貞だったら魔法使いになれる」という話を入れたら、主人公に恋愛経験がないこともすぐに説明できるしわかりやすいなと思って、心の声が読めるという設定と合わせてみました。

――ちなみに、「チェリまほ」という略称は豊田先生がお考えに?

伊藤:たしか豊田先生でしたよね。ただ最初はふわっと、何か略称が欲しいよねとみんなで話し合っていたんです。

豊田:元々『魔法使いチェリー』というタイトル案もあったので、twitterで「まほチェリ」か「チェリまほ」かで読者さんに聞いて決めた記憶があります。こういった点でも、チェリまほは読んで下さってる皆さんと一緒に育ててもらった漫画だと実感しますね。

――「童貞」というタイトルにインパクトがあるものの「チェリまほ」という略称のおかげで話題にしやすいですし、設定も含めてバズる要素が色々と詰まっている作品だなと思ったんですが、そういったマーケティング戦略は当初からあったのでしょうか?

豊田:毎回続きが気になるように描こうと思っていただけで、特に戦略はなかったですね。ただ私自身応援上映が好きなので、応援したくなるような恋愛模様と作ろうと思っていました。今回ドラマになったことで、みなさんとリアルタイムで盛り上がることができてすごく嬉しいです。

――豊田先生の作品は、前作の『パパと親父のウチご飯』もそうですが、毎回物語の中で新しい関係性や愛の形を優しい目線で描いた作品が多く、なおかつ登場人物の心の動きを丁寧に描写されていると思ったのですが、作品づくりでテーマにしていることは何でしょうか。

豊田:『パパと親父のウチご飯』の時は「色んな家族の形があってもいい」というはっきりしたテーマがあり家族の多様性を軸に描いていたんですが、チェリまほでは一度シンプルに恋愛だけにフォーカスをあてようと思っていたので、あまりテーマは決めてないんです。ただ、チェリまほはキャラクターが重要な作品なので、話のためにキャラを動かすことはしていません。この人の性格だったら話通りに動いてくれないなと思ったら、試行錯誤した上でどうしてもダメだったら最悪、話の方を変えます。

――ご自身が生み出したキャラクターなのに、思い通りに動かせないことがあるんですね。

豊田:はい、特に黒沢が言うことを聞かなくて(笑)。話を盛り上げるために、一度は安達と別れさせたりしたいじゃないですか。なのに、絶対別れてくれない! 安達が人の心を読めるという事実を、黒沢に打ち明けるかどうかって本来一番盛り上がるところなんですよ。それが黒沢ったらあっさり受け入れてしまって。黒沢は自分の内面を相手に知ってほしいと思う人間なので、安達にそんな力があると知ったら「今まで俺の心を全部聞いた上で好きになってくれたの?」って喜んで全然悩んでくれなかったです。

――安達は豊田先生の言うことを聞いてくれますか?

豊田:そうですね。安達の方が黒沢よりも柔軟性があるキャラなので、行動にはわりと幅が効きます。だから安達が黒沢に能力を打ち明けるまでの葛藤を丁寧に描いて、盛り上げようと思いました。

――その情報を知った上で漫画を読み返すと、また違った発見がありそうです(笑)。ちなみに豊田先生が作品を描く上で、影響を受けた漫画や映像作品などはありますか?

豊田:子供の頃は叔母が所持していた白泉社や『ぶ~け』(集英社)の漫画をよく読んでいたので、その時代にあった多岐に渡るジャンルの少女漫画に影響を受けました。映像だと三谷幸喜さんが脚本された作品が好きで、一番見たのは大河ドラマの『新撰組!』。同じく大河の『真田丸』や、舞台だと『コンフィダント・絆』がすごく好きです。三谷さんは人間のダメな部分や欠点をすごく愛らしく描かれるんですよね。

――豊田先生の作品に出てくるキャラクターも短所や欠点を含めて愛おしいです。

豊田:多分欠点のない人間を描くことにあまり興味がないんだと思います。誰しも少なからず短所や欠点があって、それを隠したりコンプレックスに思っていて、でもそういう部分を愛おしいなと思うし、欠点も含めてその人自身だと思うので、その人の欠点を無理に修正したり無い物にせずに肯定したいなと思って描いています。

――ドラマ化される時も「BLや童貞を揶揄するような表現はしないでください」と製作陣に伝えたとおっしゃっていましたよね。

豊田:私は最終稿を読んで語尾やセリフを直すだけだったんですが、立ち上げからずっと作品に携わってくれている伊藤さんと河合さんが脚本のすべてを監修・修正してくださったんです。何度も修正をかけながら、表現に気をつけていただいたと伺っています。

伊藤:豊田さんが描かれる作品は、基本的に登場人物がみんな優しくて嫌な人がいないんですよ。黒沢も少し間違えると「この人グイグイ来るな」と思われかねないので、ちょっとした言動で視聴者に嫌悪感を抱かせないように河合さんと一緒に監修しました。

河合:安達の上司である浦部さん(鈴之助)も安達に仕事を押し付けがちですけど、「めんどくさいから仕事を押し付けてやろう」みたいな理由にするのはやめてほしい、豊田先生の漫画にはそういう嫌な人が出てこないから安心して読める世界なんだということは伝えてきました。

伊藤:豊田先生が三谷幸喜さんの作品に影響を受けられたというお話もありましたが、豊田先生自身がとても優しくて、ちょっと悪いことをしたキャラがいてもおまけページでフォローを入れてくださるんです。4巻で柘植にダンスバトルを申し込んだ相手もチェリまほにしては押しの強い人間ですが、最後は友達になってるんですよ。

豊田:でも度重なる修正にもドラマサイドは丁寧に対応してくださって、本当にありがたいなと思います。漫画はまだ続きますが、

オリジナル部分の最終回もドラマならではの演出ですごく素敵に作ってくださっているので楽しみにしててください。

――原作の方は1巻のあとがきで今後はちょっとエッチな展開も……と描かれていましたが、ズバリ安達と黒沢の距離はより近くのでしょうか?

豊田:はい(ガッツポーズ)! ネタバレになるので何がどうとは言えないんですが、6巻でかなり関係性が動くので期待していてください。

――特に注目してほしい点はどこでしょうか。

豊田:6巻では5巻までの伏線を一気に回収するので、6巻を読んだ上で1巻から5巻まで読み返すと面白いかもしれません。多分「……執念!」ってなると思います(笑)。

――最後にチェリまほを通して、読者に伝えたいメッセージやテーマを教えてください。

豊田:チェリまほはシンプルに読んだ方に楽しんでいただければいいなと思いながら描いているので、大きくメッセージやテーマを掲げてはいないのですが、一応2つだけ伝えたいことがあり、ひとつは「いくら心が読めても自分が動かなければ何も始まらない」ということ。ふたつめは最終話を描き終わったら話そうと思っています。先に提示しちゃうと読者さんの解釈の幅を狭めてしまうので。

――そこは私も一読者として待っています。

豊田:はい、どうか楽しみにしていてください!

■書籍情報
『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(ガンガンコミックスpixiv)1~6巻発売中
著者:豊田悠
出版社:スクウェア・エニックス
(C)Yuu Toyota/SQUARE ENIX

■ドラマ放送情報
木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』
テレビ東京ほかにて、毎週木曜深夜1:00~1:30放送
BSテレ東/BSテレ東4Kにて、毎週火曜深夜0:00~0:30放送
※放送日時は変更になる可能性あり
制作:テレビ東京 大映テレビ
製作著作:「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
(c)豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_cherimaho

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