『ドカベン』は野球界における“予言の書”か? 漫画のプレイが現実になった瞬間
野球漫画のパイオニア、『ドカベン』。山田太郎、岩鬼正美、殿馬一人らが所属する明訓高校が数多くの強敵を相手に戦うストーリーは多くの野球少年に影響を与えた。
また、『ドカベン』に加え『球道くん』『一球さん』『ダントツ』など水島新司作品の登場人物が総登場した『大甲子園』もファンが多い。
そんな『ドカベン』と『大甲子園』は、作中に描かれたことが、後に現実になることが少なくない。そこで今回はそんなシーンを振り返ってみよう。
5打席連続敬遠
『ドカベン』が現実になったプレーのなかで多くの人に強いインパクトを与えたのが、山田太郎の5打席連続敬遠だ。山田が2年の春の甲子園大会で、明訓高校は江川学院と対戦。そこで先発したのは、控え投手の中二三男だった。
2回戦でノーヒットノーランを達成した中は、山田太郎との勝負を徹底的に避け、3打席連続敬遠。さらに8回には1点リードの満塁でありながら敬遠し、同点に追いつかれてしまう。山田は延長戦に入った10回にも歩かされ、5打席連続となった。明訓高校は殿馬の活躍でサヨナラ勝ちしている。(ドカベン28巻)
5打席連続敬遠が現実になったのが、1992年の甲子園·明徳義塾高校対星稜高校戦だ。当時山田太郎にも匹敵する打者として名を馳せていた星稜高校·松井秀喜選手に対し、明徳義塾が全ての打席で勝負を避け、敬遠する。星稜高校が負けてしまったことから、5打席連続敬遠はニュースなどに取り上げられ、議論を巻き起こした。
この連続敬遠では、松井選手と山田が一度もボールに手を出すことなく一塁に歩いている。ボール球に手を出さず、ひたすらストライク待つ姿勢を貫いたことで、「スラッガー松井秀喜」の評価が高まった。そしてプロ野球に入り、歴史に名を残す大選手になったのだ。その点も共通しているといえるだろう。
ルールの盲点
山田太郎が2年だった夏の甲子園神奈川大会。不知火守率いる白新高校との試合は、山田が超スローボールを武器にした不知火に手も足も出ず、大苦戦する。
10回表、1アウト満塁のチャンスを迎えた明訓高校は、5番の微笑三太郎がスクイズを敢行。しかしピッチャーフライとなり、飛球を捕球した投手はランナーが飛び出していた一塁に送球し、ダブルプレーでチェンジ。得点は認められないものと思われた。
ところが一塁がアウトになる前に、スクイズのためスタートを切っていた三塁ランナーの岩鬼がホームベースを踏んでいたのだ。ここで白新高校がアウトを3塁走者で成立するようアピールしていれば0点だったのだが、一塁でアウトを取ったうえ、アピールせずベンチに戻ったため、1点が認められた。(ドカベン35巻)
非常に難解なルールを描いたことに、掲載当時、賛否両論。現実ではありえないプレーとされていたが、2012年にこのプレーが甲子園で再現される。済々黌高校対鳴門高校戦で、済々黌が1アウト1塁3塁からショートライナーを放った際、ショートがライナーを捕球後、ボールを1塁に送球。1塁ランナーがアウトになる前に3塁ランナーがホームを踏み、アピールもなかったため、得点が認められたのだ。
試合後、済々黌の三塁ランナーが「漫画のドカベンで知っていた」と話し、『ドカベン』を参考にしたことを告白している。このプレーは「ドカベンプレー」とも呼ばれ、現在は野球選手や関係者に周知されている。