『呪術廻戦』アニメ版は複雑なバトルをどう描く? 「ジャンプ」本誌とコミックスの関係性から考察

それで、アニメ版ではどうするのか

 『呪術廻戦』に見られるような連載版とコミックスの関係は(どれだけ意図的にやっているのかは不明だが)、これに対するひとつの回答だろう。

 バトルマンガは本質的には技や能力の設定、各キャラの優劣が中核にあるのではない――もちろん、重要ではあるが。

 そうではなく、キャラクターの感情の流れに納得感があれば、設定的に多少の矛盾や不自然さ、よくわからない現象が描き込まれていても、多くの読者はそこまで気にしない。それこそコミックスでくりかえし読まれると気づかれはするが、作品の致命的な欠点として評価されることはまれだ。

 『呪術廻戦』は「反転術式」や「無下限術式」とは何ぞやという話や、なぜ真希が呪具らしきものを折っているのかという設定の説明は、コミックスにアウトソースしている。

 だがそれらがわからなくても、キャラクターたちの感情の流れは理解できる。

 バトルの設定上の理屈が説明不足であったり、さらっと描かれているがよく考えると何なのか謎な戦闘描写があっても、人物の気持ちのアップダウンはわかり、それによってキャラクター同士の関係性は十分伝わる。

 作中で明示されず、1回読んだだけではわからないくらいの情報量があるくらいのほうが、毎話語り甲斐がある。

 作家と読者の一対一のコミュニケーションだけを前提とすると、連載版ですべて説明されていないのは不親切であり不十分ということになる。しかしSNS上などでの読者間のコミュニケーションの存在を前提にすると、そうした特徴は話題の「燃料」に転ずる。

 とはいえ送り手側がずっと放置しておくのは読者間コミュニケーションに参加していない人には不親切なのでコミックスで補完する。コミックスでの説明の補完自体がまた、読者間の話題のネタになる。

 『呪術廻戦』はこういうやりかたで「雑誌を買いたいと思わせる」と「コミックスを買いたいと思わせる」を両立させているのではないか。

 しかし10月から始まるTVアニメ版では、コミックス版で行われているような設定解説はどう処理するのか。マンガでは「このコマで描かれていたのはこういう意味」という後出しの解説が成立するが、アニメでも同じことをどこかでするのか、スルーするのか。そもそもマンガと同じ解説をアニメで再現するべきなのか、アニメではコミックスでも書かれていない部分を補完するほうがファンは嬉しいのではないか。

 ……といったもろもろが気になり、アニメ放映が待ち遠しいのだった。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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