『イタズラなKiss』多田かおるが少女漫画界に与えた影響 30年経った今でも愛される理由とは?

幻の最終回

 原作で未完となっていた琴子たちのその後についても触れておきたい。音楽プロデューサーである多田の夫との相談のもと、アニメ版(08年)、日本ドラマリメイク版(13~14年)、台湾ドラマ版(07~08年)の3パターンが用意されている。

 アニメ版は急逝した作者の構想メモを基に製作され、原作のラストで妊娠が発覚した琴子が、娘・琴美を無事に出産。数年後、入江くんに行ってきますのキスをめぐって成長した娘と争う琴子の様子が描かれている。このような幸せな光景が毎日続いているのだろう。

 日本ドラマ版では、妊娠発覚後のエピローグとして、娘を間に挟んだ親子3人で手を繋いで川辺を歩く短いシーンが挿入される。

 台湾ドラマ版では、琴子の鳥目の理由が色素性視網膜炎と判明し、お腹の子供にも遺伝する可能性を告げられるも、原作で「ブラックジャックといい勝負」と評された入江くんが全力でサポートする事を誓う。入江くんが学会で発表した遺伝子についての報告が伏線となっていて、琴子や子供の行く末が明るいものである事を、読者の想像に託している。

 アニメ版は原作のノリの良さがそのまま、台湾版はよりシリアスに仕上がっており、見所は多い。

 『イタKiss』が切り開いた少女漫画の30年間は、本作を振り返ってみる事で改めてその影響の大きさが分かる。記念となる節目を機に、作者に「ありがとう」を伝えたい。

■井上郁
言語学者、フリーライター。英文学・言語学・メディア記号論を専攻。マンガ・アニメ・ゲームを総合文化研究の俎上に載せ、記号論の観点から考察しています。

■書籍情報
『イタズラなKiss(1)』文庫版
多田かおる 著
価格:本体600円+税
出版社:集英社
公式サイト

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