松原タニシが語る、事故物件のリアルな怖さ 「人の怖さだったり、土地の怖さもある」
曰く付きの事故物件に住む――大抵の人は恐怖心から踏み切れないものだが、芸人・松原タニシは2012年よりテレビ番組の企画で否応なく住むことになった。そして“事故物件住みます芸人”として人気を博し、2018年に上梓した『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)が大ヒット。8月28日には、亀梨和也主演で映画『事故物件 恐い間取り』が公開される。監督は『リング』『スマホを落としただけなのに』などで知られるホラー映画の巨匠・中田秀夫だ。
これまで大阪、千葉、東京、沖縄など10軒の事故物件に住んできた松原に、先月上梓した『事故物件怪談 恐い間取り2』執筆秘話を聞いた。(尾崎ムギ子)
霊的に特殊な土地・沖縄の事故物件
――2冊目を出すことになった経緯は?
松原:ありがたいことに1冊目の売れ行きがよくて、その流れで「2冊目も」というお話がありました。でも無理だと思いました。1冊目は5年間で5軒の事故物件に住んで、いろんな人の話も集めたんですけど、それで空っぽになっちゃったんです。しかし去年、『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)という紀行本を出しまして、その間に借りた物件も増えていったので、2年後に2冊目を出すことができました。
――いま何軒の事故物件を借りているんですか?
松原:いまは4軒ですね。大阪、東京に1軒ずつと、沖縄に2軒。沖縄はコロナの影響で全然行けてなくて。半年くらいほとんど帰らずに、家賃だけ払っています。沖縄の1軒目は3カ月くらい行ったり来たりしてたんですが、2軒目は1回しか行けていない状態。「台風だけは気をつけてくださいね」と不動産屋から言われてるんですけど、どうしようもないですよね。
――本書を読んで、沖縄は霊的に特殊な土地というか、人々の生活の中に霊的な考え方や習慣が溶け込んでいると感じました。
松原:沖縄では当たり前のことが、僕たちにとってはまったく知らないことだったりするんですよね。寄合みたいな集まりに呼んでもらったとき、「○○さん、サーダカーよね~」という話をされていて。「サーダカーってなんですか?」って聞いたら、霊感持ちという意味だそうです。そういうのが、普通にあるのが面白かったですね。霊感のある人が、本人か、その人の知り合いというレベルで必ずいる。
――本書でも出てきましたが、街中なのにマンションがお墓に囲まれていたり、異様な雰囲気の場所もありますよね。
松原:そういうのが沖縄には点在していて、奇妙です。他にも公園が心霊スポットという場合が多いんです。発想が逆というか。森があって、お墓があって、祠(ほこら)があって、御嶽(うたき)と呼ばれるものがあって、土地開発できないから公園にしている。こっちだったら、余った土地だから公園にしてるとか、住宅地だから公園があったほうがいいだろうということになっていると思うんですけど。沖縄では、神聖な場所だから公園になってるんですよね。
――沖縄にはかなり行かれているんですか?
松原:これまでに10回くらい行きました。沖縄本島と宮古島の違いも面白くて、本島のほうがジメっとしている感じがします。いろんな要素が複雑に絡み合って。宮古島は生えている植物もなんですけど、もっとサラっとしていて、単純に元から不思議な場所みたいなイメージです。
――宮古島にも部屋を借りているんですか?
松原:宮古島には借りていないです。番組のロケで、上里洋志さんという宮古島出身のミュージシャンの方と一緒に行きました。上里さんはユタ(霊媒師)の孫で、ご実家が狩俣という宮古島で一番古い集落にあるんです。村の入り口に石垣の門があるんですけど、元々は村の周り全部、石垣で囲まれていたらしくて。資料で見たら、『進撃の巨人』の街みたいなんですよ(笑)。それだけ閉ざされた村だったみたいですね。
その村の中に、ムトゥと呼ばれる精霊を祀る建物があるんです。小さい村なんですけど、4つのムトゥに分かれていて、水のムトゥ、土のムトゥ、風のムトゥみたいな。それぞれのムトゥを守る地区があって、上里さんのおばあちゃんは水のムトゥを守っていた。なんなん、その風習?っていう。
――魔法陣みたいですね(笑)。
松原:自治体の行政の管理もあって、ムトゥが古くなってるから建て替えようという話があったらしいんですけど、ユタの人が「壊したらダメ」って言うもんだから、行政もムトゥを壊せなくて。その向かいに新しい仮のムトゥを作っても、前のムトゥは崩せない。ユタの言うことが絶対なんですよね。ユタが行政より上なんて、こっちではあり得ないじゃないですか。それが面白かったですね、宮古島は。
村の真ん中にザーというのもあって、選ばれた女性しか入れないんです。男性は絶対に入ってはいけないし、近づいてもいけない。見すぎてもいけないということで、「あんまり見ないでください」と言われました。なんじゃ、いまのこの時代に、っていうね。