『ハッピーマムアン』が描く日常の彩り 読む人によって違うマムアンちゃんが問いかけ

 『ハッピーマムアン』(5月23日発売)は、ちょっと昭和を思い起こさせるレトロちっくでほのぼのとしたタッチで描かれている漫画だ。作者はタイ人のウィスット・ポンニミット氏。「タム」という愛称で知られている。

 マムアンちゃんはSNSをきっかけにブレイクしたキャラクター。日本だけでなく、作者の母国であるタイでも人気だ。2013年に六本木ヒルズで開かれた個展には25,000人を動員した。マムアンファンには著名人も多く、過去に発売されたファンブックには多くの著名人からのメッセージが掲載されていた。

心の隙間にすっと入ってくるマムアンちゃんの魅力

 マムアンちゃんは魔法を使ったり冒険をしたりといった特別なことは何もしていない。平穏な日々のワンシーンを切り取った漫画だ。食事をする。友人と会う。ベッドで眠る。

 そんな風にマムアンちゃんの生活は私たちとそう変わりはない。しかし、なぜだか自分では感じることのないあたたかさを日常の中から見つけ出すことができる作品だ。昨日出ていなかった芽が今朝出ている。ごはんを食べると嬉しくなる。そんなちょっとした日常の彩りを思い起こさせてくれるのだ。

 マムアンちゃんの日常を見ていると、忙殺され、感じ方を忘れてしまった心が再び活性化したように感じられた。

 「マムアンちゃんはただの絵」と作者は語る。マムアンちゃんはただの絵であって誰のことでもない。けれど、読んだ人はマムアンちゃんに自分を重ねる。誰のことでもないけれど誰のことでもある。誰でもどこかに自分を感じるところが見つかる。それがこの漫画の不思議なところだ。

あなたはどう感じる? 一人ひとりのマムアンちゃん

 本書の中にこんな描写がある。「場所が変わるだけで感じることが変わる 平和なところへハートを連れていこう」。このお話は、自分にとってツライと感じてしまう環境にいなくても、心が安らぐ場所へ自ら動いていいのだと思わせてくれる漫画だった。

 わざわざ道路の真ん中のように危ない場所にいなくたっていい。あえてトゲだらけのところに立っている必要はない。自分のココロが危ない・痛いと感じているのなら、自らそこを離れて平和なところへ行ってもいいのだ。

 筆者はこの漫画に自分の問題を重ねてしまった。朝からツライ満員電車に乗る。行きたくもない会社に行く。そんなことで自分のココロを傷つけなくても、自分のハートが穏やかでいられる場所に好きに行っていいのだと、そう言われたように感じた。それと同時に「なぜそんなことをしているの?」と小首をかしげたマムアンちゃんに問いかけられているようにも感じられた。

 「僕の読者はだいたいマムアンちゃんの絵を見て、想像する」と作者の言葉にもあるように、これはあくまで筆者の想像だ。満員電車がツライのも会社に行きたくないのも筆者であって、マムアンちゃんではない。きっと同じ漫画を読んでいても、マムアンちゃんが問いかけてくることは人によって違っているのだろう。いつか機会があったらいろんな人のマムアンちゃんを聞いてみたい、と思った。

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