『鬼滅の刃』ノベライズはなぜ支持された? 新刊『風の道しるべ』から読み解く、スピンオフとの相性

 以来、『鬼滅の刃』本編で描かれるように、実弥は玄弥の自己犠牲的なやさしさに対しては厳しい姿勢をつらぬいた。また、(竈門家と不死川家とでは鬼にされた家族への向き合い方が正反対だったという理由も考えられるが)やさしすぎる炭治郎に対しても、彼の人柄をわかっているからこそ、強く当たっていたのではないのか。実弥は、友のやさしさに頼りきっていたことを知り、自身の未熟さを痛感したために、やさしさをはねつけられるほどに己を鍛え上げたのだろう。

 『鬼滅の刃』はそもそも細かな裏設定が満載の作品で、各々のキャラクターに深いバックボーンがある。漫画で描ききれないバックボーンは、コミックスのおまけページなどで書かれていた。それぞれに壮絶な運命を背負ったキャラクターが己の信念を貫こうと生き、戦うところに『鬼滅の刃』の大きな魅力があったとすれば、スピンオフは必須のコンテンツだったといえよう。

 また、j BOOKSは、『鬼滅の刃』ノベライズ以前よりジャンプ漫画のスピンオフに力を入れてきたレーベルだ。ノベライズがこれほど支持されたのは、単に『鬼滅の刃』の人気が凄まじかったというだけではなく、作品の特徴とスピンオフの相性がよかったこと、原作の魅力を最大限に活かそうとするj BOOKSの編集方針が貫かれていたことが影響しているだろう。ノベライズを読んでから『鬼滅の刃』本編を再読すると、より奥行きのある物語として楽しめるはずだ。

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