伝説のヤクザが主夫道を極める『極主夫道』 『よつばと!』とも共通するおもしろさとは?

 先日、「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」の結果が発表された(https://realsound.jp/book/2020/06/post-571081.html)。読者投票のみで選出された今大賞は遠藤達哉の『SPY×FAMILY』に決定。入選した作品は10位まで発表され、各作品がより注目を集めることになるだろう。本稿では、5位に入賞し実写PVも話題になった、おおのこうすけの『極主夫道』にフォーカスし、なぜ”ネクストブレイク”する作品として選ばれたかを考えてみたい。

 新潮社より現在5巻まで発売されている本作は、WEB漫画サイト「くらげバンチ」で連載されている。どの作品も無料連載されている漫画サイトであるため、本作も第1話から複数話無料で読むことができる。1話完結なのでどこから読んでもこの漫画の魅力がわかるはずだ。

 背中一面に龍の刺青が入った体に黒いスーツを着用、オールバックで固めた髪に強面を隠すような大きいサングラス。腰に挟んでいたドスを鞘から出したその瞬間、すっすっと出来上がったばかりのほかほかのだし巻き卵を手際よく切り、キャラ弁を完成させ写真に収める。主人公・龍(タツ)は、絶対に職務質問されてしまう見た目ながら、完璧な専業主夫をやっているのだ。

 かつては”不死身の龍”と呼ばれた伝説のヤクザだが、結婚を機にすっぱりとやめ、愛妻・美久と暮らしている。料理・洗濯・掃除をこなしつつも、言葉や行動から前の稼業がまったく抜けていないところがチャームポイント。元弟分や元抗争相手など様々な人物も登場するにも関わらず、ほのぼのとした日常が描かれるハートフルコメディである。

 この作品が面白くなっている土台として、主人公の龍が元ヤクザとしてちゃんと主夫をやっていることにある。元ヤクザで専業主夫という成り立ちそうもない設定を成立させているのは、ヤクザ業と同じくらい主夫業に本気で向き合えるような龍の純粋な天然っぷりにある。命を削ってシノギをしていたように、命懸けで主夫をやる。家事に命がかかるところなどほとんどないのだが、それくらい真剣なところが可笑しい。

 チャカやシマなどの物々しい言動やすぐに抗争を想像してしまう癖と、愛妻家で目上の人を重んじつつ一生懸命家事をする姿とのギャップに思わずクスッと笑いながらもほのぼのしてしまう。

 しかし実は、龍がなぜヤクザだったのか、なぜ突然やめることになったのか、なぜ美久と出会い専業主夫になったのかはきちんと描かれていない。謎の多いキャラクターだが、テンポのいい物語の流れとオチで作られたコメディ世界が龍を違和感なく存在させている。そしてボケ過多な龍についてくる登場人物たちもまた魅力的だ。喧嘩相手などもでてくるが、突っ込んだり一緒にボケたりする彼らによって、龍の憎めない愛されキャラが引き立っている。

 龍を考える過程でどうしても無視できなかった存在がいる。大人気ハートフルコメディ漫画『よつばと!』の主人公・小岩井よつばである。『よつばと!』は、よつばのマイワールドが作品全体の雰囲気を作っており、現実にはいそうでいない不思議なキャラクターだからこそ愛されている。そのよつばと龍、2人には意外にも様々な共通点がある。

関連記事