女子サッカーの未来を紡ぐ『さよなら私のクラマー』 ゴールシーンのエモーショナル
こだわり抜いたゴールシーン
※以下、ネタバレあり
筆者が特に好きなのは、浦和邦成高校の安達太良アリスと天馬夕のエピソードである。魔法少女に憧れる、でもその見た目から“死神”と呼ばれていたアリスが、見た目まんま天使(だけど口がめっちゃ悪い!)天馬夕に出会ってサッカーを始めることになる。天馬という天使と出会ったアリスはサッカーという魔法をかけられて物語の主役になる。勝ち越しゴールを決めて天馬と抱き合うアリスの姿にグッときた読者は多いはずだ。
サッカーの魅力とはなにか、なぜ人はサッカーに惹かれるのか。もちろん人によって理由はさまざまだが、おそらく万人に共通しているのはゴールの瞬間のなんともいえない感情の爆発に気持ちが揺さぶられることだろうと思う。おそらく作者もそこに関してはかなりこだわりを持って描いているのではないかと思う。それだけゴールシーンで気持ちが揺さぶられるのだから、そのキャラにも感情移入してしまうのもしょうがない。なによりひとつのボールを必死に、楽しく、かわいく追いかけているその姿を見れる幸福感はこの作品でこそ味わえるものだろう。
物語はまだ始まったばかり、曽志崎と周防はその能力を発揮しているが、恩田に関してはまだその全てを読者にも披露していない。サッカー界でも絶滅危惧種になっている”ファンタジスタ”という存在。恩田のプレーにはそのファンタジスタの香りがする。見るものに喜びとサッカーの楽しさ、素晴らしさ、美しさを伝えるファンタジスタ。恩田には現在のファンタジスタとして、女子サッカーを志す全ての選手に夢と希望を与えてほしいと思っている。恩田のプレーに憧れた女子がサッカーを始めて、いつしかリアル恩田希みたいなプレーヤーが生まれてくれたら、日本の女子サッカーとっても希望のひとつになると思う。だからこそ、そろそろ全力全開の恩田のプレーが見たいと切に願う! 新川先生、そろそろいいんじゃないですかね?
■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。
■書籍情報
『さよなら私のクラマー(11)』
新川直司 著
価格:本体450円+税
出版社:講談社
公式サイト