滝沢カレン節のレシピ本『カレンの台所』はちゃんと使えるの? 話題の“鶏の唐揚げ”を作ってみた
分量の記載、いっさいなし。日本語のルールにも縛られない、自由すぎるレシピ本が誕生した。その名も『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)。タレント・モデルとして広く活躍し、大の料理好きとしても知られる滝沢カレンが4月7日に上梓した初のレシピ集となる。
「カレン節」の楽しさと、おいしく作れる実用性の高さ
ここで、「ああ、タレントの本か」と素通りするのはもったいない。
本来レシピといえば箇条書きが主流で、「砂糖大さじ1杯」や「水100ml」などの数字がつきもの。だが、ここは分量も段取りもコツもすべて「カレン節」によって語られる新世界。キッチンでおなじみの食材がひとたび滝沢に命を吹き込まれると、まるでおとぎ話のキャラクターのようにウキウキ、いきいきと動き出し、メルヘンチックにおいしい料理へと昇華する様子が描かれるのみ。この新しい読書体験によって、初心者から手慣れた人まで心くすぐられる料理の楽しさを得られるに違いない。例を挙げてみよう。
サバが泡風呂に沈まりかえり、気持ちよさそうに味噌もブツブツとサバと話していたら(サバの味噌煮)
どの葉がいちばん男として強いかを、見定めていきます(ロールキャベツ)
テカテカパックで帰り道が恥ずかしくなるほど潤いに満ちた手羽元がいたら大成功(鶏のさっぱり煮)
サバが風呂に入り、キャベツがたくましい男に? 手羽元にいたるや、いきなりエステから帰ってくる。コラーゲンの塊が美容好きとは、突拍子もない話だなあ!と爆笑しつつ、レシピの通りに調理を進める。
例えば、「味噌のブツブツ」は強火だとそうは聞こえないだろうから、私の手はおのずと火加減を調整することになる。ロールキャベツに使う葉は、より厚みがあって大きいものを選ぼうとする。つややかに照りが出て美しくなった手羽元を見て、料理の終わりとご馳走タイムの始まりに顔がほころぶ。こうして調理の段取りやコツをしっかり掴める流れの良さは、日々インスタグラムで料理を公開している滝沢の腕前と、表現力の高さの賜物だろう。
ふと、この滝沢の独特な言い回しセンスに、懐かしさも覚えた。かつて、東海林さだおが放った「チクワは疲れている(『昼めしの丸かじり』/文春文庫)」「アサリの悩みを聞く(『ケーキの丸かじり』/文春文庫)」などの名調子を思い出させるのだ。両者に通じるのは、時にクスッと笑いを誘い、ショートな言葉さばきで食べものへの想像力をかき立ててくれる感性の鋭さだろう。私はずっと、ネオ東海林さだおといえる書き手を待っていた。そんなところでふと出会った、食いしんぼうの滝沢カレン。彼女のことがすっかり大好きになった。