名将・野村克也はベストセラー作家でもあったーービジネス書ランキングから読む社会的功績

週間ベストセラー【単行本 ビジネス書】ランキング(2月18日トーハン調べ)
1位 『FACTFULNESS』ハンス・ロスリングほか 日経BP
2位 『人は話し方が9割』永松茂久 すばる舎
3位 『Think Smart』ロルフ・ドベリ/安原実津 訳 サンマーク出版
4位 『2030年の世界地図帳』落合陽一 SBクリエイティブ
5位 『メモの魔力』前田裕二 幻冬舎
6位 『嫌われる勇気』岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社
7位 『食べる投資』満尾正 アチーブメント出版
8位 『リーダーとして覚えておいてほしいこと』野村克也 PHP研究所
9位 『Think clearly』ロルフ・ドベリ/安原実津 訳 サンマーク出版
10位 『自分でパパッと書ける確定申告』平井義一 監修 翔泳社

 野村克也氏ほど、「憎まれ役」と自らを称しながら、その死を惜しまれる人物はそう多くない。野球選手としては戦後初の三冠王、王貞治に次ぐ歴代本塁打など数々の記録を持つ。「名選手、名監督にあらず」とも言われるが、監督としては1990年代のヤクルトスワローズや、創設間もない楽天イーグルスなどの弱小チームを率い、長嶋巨人ら時の人気チームを敵に回し、名勝負を私たちの前で繰り広げてくれた。

 今回のランキングで8位に入った『リーダーとして覚えておいてほしいこと』(PHP)は遺作となってしまったが、名選手であり名将であった野村克也氏は、またベストセラー作家でもあった。今回はその著作に触れつつ、野村氏が野球を通して社会へ残した功績を考えたい。

 確かに、スポーツ選手によるベストセラーは他にも存在する。同じく野球選手ならば、松井秀喜の『不動心』、サッカーの長谷部誠の『心を整える』などを読んだことのあるビジネスパーソンも多いことだろう。野村氏の教え子の古田敦也は技術書のみならず精神論や野球観戦術についての著作もあるし、イチローに関してなら名言集なども多く出版されている。それでもジャンルの幅広さと、ビジネスにも応用できるリーダー論・組織論の書籍をこれだけ残しているのは、スポーツ界において評論家、監督としても長く活躍した野村克也氏を差し置いて他にはいないだろう。

 野村氏は選手時代から、天賦の才では敵わない相手の傾向を分析し、球史に残る様々な記録を打ち立てた。そして当時の弱小スワローズの監督時代には「ID野球=インポート・データ野球」を掲げて日本一に輝いたことからも分かるように、チームを率いては「弱者が勝者になるため」の戦い方を追求していた。

 これらに先立つのは、まさに置かれた社会で生き抜くための彼我の戦力分析、つまりはビジネスで言うところのSWOT分析である。状況を的確に把握し、大局的な戦略を実行するため、有効な戦術を選択することについては、ビジネスもスポーツも学ぶところは何ら変わらないのである。孫子の兵法がビジネスパーソンの必読書であるように、この彼の持つノウハウをビジネスにも応用できると多くの人が支持をした。

 もちろん、長嶋茂雄やイチローのように、天才的なプレーやファンを魅了する言動はプロスポーツ選手の仕事であり、彼らスター選手がいるからこそのプロ野球だ。しかし、その選手たちを打ち破るため、野村氏は試行錯誤した結果、データにも新たな意味が付加され、野球の更なる楽しみ方も産まれた。

 ただでさえ、プロ野球は確率のスポーツである。セットプレーの連続は、スポーツ文化論としても日本人に好まれ、頭を駆使しながらプレーをする者が勝ち、その間に蘊蓄をたれながら観るのが楽しいのだ。野球が、データを駆使した科学的な現代スポーツへと成長する過程に寄与したことと、データを見ながらオタク的観戦をするファン層を掘り起こしたことだけでも、野村氏の日本野球発展への貢献度は高く評価されるべきである。

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