丸山ゴンザレス×八尋美樹が語る、インド旅行の不思議な魅力 「帰ってきたら経験者同士の共通言語になる」

インド人の意識の変化

丸山:八尋さん、インドに行き始めて23年とのことですが、変わったなと思うところ、変わらないと思うところは?

八尋:ガンジス川の景色は変わらないなと思うんですけれど、川沿いは変わったなと感じます。昔は牛のウンチが落ちていて、よく踏んだりしたじゃないですか? 遺体が転がっていたりすることもあって。それがいまはゴミ箱が設置されていたりするんです。

丸山:現地の人がゴミ箱なんて使うわけがないじゃないですか。

八尋:それがナレンドラ・モディ首相がモデル都市的に再開発を進めていて、路地裏のごちゃっとしていたところが綺麗なモールみたいに作り変えられていたりするんです。それは寂しいことでもあるんですけれど、ちゃんと住人たちの意識改革も進んでいて、立ちションはしてはいけないとか、ゴミはゴミ箱に捨てるとか、だんだんと浸透しているみたいです。私も最初は「こんなのみんなが使うわけない」と思っていたんですけれど、意識の高い観光客が使っているのを見て、徐々に変わってきているのかなって。川も綺麗になってきています。ガンジス川に入ってみたんですけれど、昔入ったときに比べるとまとわりついてくるものが少なくて、臭いもそれほどではありませんでした。

丸山:インドの上流階級の人たちが海外からの目を気にするようになって、たしかに変わってきたところもありますね。ムンバイのスラム街もすっかり片付けられていました。インドに行った時に通訳を頼んだ女性から、「お昼はどうしますか? マックにしますか?」と言われたときは驚きましたね。空港のセキュリティチェックもすごく厳しくなって、2時間前に行ってもフライトに間に合わないこともあります。もちろん変わらない部分もあると思いますが、八尋さんは今後はどうなっていくと思いますか?

八尋:変わるんじゃないかなと思います。特に若者の意識が昔とは全然違うなと、私は肌で感じていました。ファッションひとつ取っても、以前は股上の長いジーンズを履いて金のバックルのベルトを付けているのがかっこいいみたいな感じで世界のファッションと乖離していましたが、今のムンバイの若者とかは普通におしゃれです。

丸山:インド人って、実は男性も女性もかっこいい人が多いですよね。ニューヨークのクラブに行った時に、今この街で一番ホットなのはアメリカ生まれのインド人だって聞きました。でも、インドで生まれ育つと、いわゆる我々がイメージするインド人になる。

八尋:インドで生まれ育った方とのコミュニケーションは、面白いけれど難しさはあります。文化の違いや環境によるところが大きいのだと思いますが、現地の方と普通に友達として付き合うには、どうしても人を選んでしまうところはありますね。本当に仲の良い友達もいますけれど、お互いに腹を割って話せるようになるのに5~6年はかかりました。おたがいの収入とか、家族のこととか、センシティブな部分を共有できないと、同じレベルで友達として話すのはやはり難しいです。例えば、新しいiPhoneを買ったとか、そういう些細なことでも相手からすると「この人は最新のiPhoneを買えるくらいお金を持っているんだ」となり、壁ができてしまう。逆に向こうの裕福な人は庶民とはかけ離れた生活をしていたりするので、今度はこちらが壁を作ってしまう。簡単にわかりあえるものではないです。

丸山:インドに移住しようと考えたことはないのですか?

八尋:考えたことはありますが、移住は結構ハードルが高いと思います。まず土地が買えませんし、仕事を探すのも大変です。家族がいて、ある程度セキュリティがしっかりしたところに住みたいと思ったら、向こうの水準でかなり高い賃金を得る必要があります。会社ひとつ作るのにも現地の方の協力が必要になるので、配偶者がインド人だったり、現地で高収入の仕事に就けるアテがあるなら良いと思います。

インドは旅行者の共通言語になる

丸山:一昔前のインド旅行は1~2カ月滞在するような感じで、現地で次にどこに行くのかなどは数日かけて考えていました。交通機関も遅れたりするから予定が2日とか3日とか狂うのは当たり前で、スケジュールなんてあってないような感じだったと思います。それが5日間のツアーを組んで行ける国になったのは、すごい進化だなと。

八尋:もちろん、思い通りにはいかないことはまだまだありますが、今はネットでいろいろな情報を調べられるし、映画館の情報もちゃんと載っているし、Uberなどのサービスも使えます。『地球の歩き方』みたいなガイドブックを開くことは残念ながらなくなりましたね。

丸山:だから僕は、普通のガイドブックではなくてこういう本を作ったんです。インドって、帰ってきたら経験者同士の共通言語になるじゃないですか。そういう面白さを詰め込みたかった。

八尋:すごくどうでも良いことでこんなに笑いあえる国って、他にないんじゃないかなと思います。「あの時に買ったアイスがこんな風で……」って、日本だと別に面白くないんだけれど、インドだとものすごく面白いエピソードに変わったりする。そういう共通言語としての魅力がありますよね。

丸山:この本のメモのところとか、全く本文と関係ないんですよ(笑)。

八尋:良いですね(笑)。電気が消えちゃった夜とかに、ろうそくの光で読みたい本です。昔の旅行本を思い出します。

丸山:帰ってきてからもエピソードを思い出して楽しめる国という部分は、これから先も変わらないインドの魅力なのかなと思います。

八尋:私もそう思います。インド人はただ汗水たらして一生懸命に生きているだけで、別に私たちを面白おかしい気持ちにさせようとしているわけではありません。大真面目に面白いことをしているのがインドで、そういうところに私は敬意と魅力を感じています。

丸山:この本の最後に書いているのですが、僕はインドに行くと疲れちゃって、「もう絶対に行きたくない!」ってなるんですよ。でも、しばらくすると一番話のネタになっているのはインドで、とにかく話題が尽きないんです。だから、なんだかんだでまた行ってしまうという(笑)。

八尋:扱いの難しい恋人みたいな(笑)。もういいやと思いながらも「やっぱりあいつは良い女だった」みたいな感じかもしれませんね。

『旅の賢人たちがつくったインド旅行最強ナビ』

■書籍情報
『旅の賢人たちがつくったインド旅行最強ナビ』
丸山ゴンザレス&世界トラベラー情報研究会
出版社:辰巳出版
価格:1,650円(税込)

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