新型コロナウイルスはなぜ、あっという間に感染拡大したのか? 地図で見る伝染病の歴史
かくも恐ろしい新型コロナウイルスだが、本書から得られる教訓はある。感染地図に添えられた、感染経路に影響を与えた出来事の解説は、人類の過ちの歴史でもあるからだ。例えば、15世紀末にヨーロッパで蔓延した梅毒では、どこの国がこの病気を持ち込んだのか、責任のなすり合いが起こった。フランス人はこの病気を「ナポリ病」あるいは「スペイン病」と呼び、イギリスやイタリアやドイツでは「フランス病」、ロシアでは「ポーランド病」、ポーランドとペルシャでは「トルコ病」、そしてトルコでは「キリスト教徒の病」というあだ名がつけられた。インドやポルトガル、日本では中国人のせいだとされた。未知の伝染病への恐怖が差別と結びついた例である。また、梅毒が性感染症であることから、15世紀のヨーロッパでは売春への厳しい取り締まりが行われたほか、梅毒は「神の罰」であり梅毒患者は厳しく扱われるべきだとの見方もあった。一方、梅毒の流行に対し、18世紀頃には避妊具が使用されるようになるなど、有効な予防策も生まれてきた。人類が未知の伝染病と闘うために知識を蓄えてきた歴史もまた、本書には記されているのである。
伝染病の感染経路を時間軸と合わせて視覚的に表現した感染地図は、その印象的なエピソードとともに、人類の歴史のダイナミズムを想像させてくれる。巨視的な観点を持つことは、新型コロナウイルスの流行に対して冷静な判断と行動を促すことにも繋がるだろう。
■書籍情報
『ビジュアル パンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史』
著者:サンドラ・ヘンペル
日本語版監修:竹田誠、竹田美文
出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:¥2,860(税込)