「青春ブタ野郎」や「禁書」など、長く愛されるシリーズが堅調 ラノベ週間ランキング考察

本 ライトノベル 週間ランキング(2020年2月10日~2020年2月16日・Rakutenブックス調べ)
1位『薬屋のひとりごと9(ヒーロー文庫)』日向夏 主婦の友社
2位『青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない10(電撃文庫)』鴨志田一、溝口ケージ KADOKAWA
3位『創約 とある魔術の禁書目録1(電撃文庫)』鎌池和馬、はいむらきよたか KADOKAWA
4位『わたしの幸せな結婚3(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
5位『りゅうおうのおしごと! 12(GA文庫)』白鳥士郎、しらび SBクリエイティブ
6位『転生したらスライムだった件16(GCノベルズ)』伏瀬、みっつばー マイクロマガジン社
7位『ゴブリンスレイヤー12(GA文庫)』蝸牛くも、神奈月昇 SBクリエイティブ
8位『薬屋のひとりごと9 ドラマCD付き限定特装版(ヒーロー文庫)』日向夏、しのとうこ 主婦の友社
9位『妹さえいればいい。14(ガガガ文庫)』平坂読、カントク 小学館 
10位『Re:ゼロから始める異世界生活22(MF文庫J)』長月達平、大塚真一郎 KADOKAWA
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/1/

 140億円の興行収入を稼ぎ出した新海誠監督の『天気の子』を筆頭に、『夜明け告げるルーのうた』が2017年のアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリに輝いた湯浅政明監督の『きみと、波にのれたら』、伝統ある第74回毎日映画コンクールのアニメーション映画賞を獲得した渡辺歩監督『海獣の子供』、そして『キルラキル』の今石洋之監督によるオリジナル作品で、興行収入が15億円に達した『プロメア』と、2019年はアニメーション映画の傑作や秀作が相次いだ。

 その中にあって、ファンから熱烈な支持を集めたアニメ映画が『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』だ。東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2020で贈られるアニメ オブ ザ イヤーの劇場映画部門で、受賞が決まった『天気の子』とともに候補作に名を連ねたが、ここに並ぶために必要なのがアニメファンからの投票数。ベースとなっているのは、同名の原作小説を含めた『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(電撃文庫)から始まる、鴨志田一によるライトノベルシリーズの読者だろう。

 思春期特有の悩みが心だけでなく体にも作用し、他人から姿が見えなくなったり、体に傷が現れたり、誰かと姿が入れ替わったりする<思春期症候群>という現象を糸口に、若い読者の願いや悩みを描いて共感を得てきた。2018年に放送されたテレビシリーズの出来の良さも原作人気を押し上げ、視聴者を映画へとつないだ。

 ランキングで前週の1位に続き、2位に入った『青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない』(電撃文庫)は、そんな「青ブタ」シリーズの最新刊だ。高校生時代、桜島麻衣という芸能人の少女と出会い、付き合っていく中で、思春期症候群が起こす事件に遭遇して来た梓川咲太が大学に進んで半年。合コンに出たり塾講師のアルバイトをしたりして過ごしていたある時、以前から知り合いだったアイドルグループ「スーパーバレット」のリーダー、広川卯月に奇妙なことが起こる。

 思春期症候群のせいなのか。それとも成長しただけなのか。そんな謎解きに、メンバーのひとりだけ売れっ子になって揺れるアイドルグループといった芸能ネタも入れ、物語の世界を広げていく「青ブタ」シリーズをここで“卒業”なんてできないと、今までのファンも、テレビアニメのシリーズやアニメ映画を見て存在を知った人も、追いかけ続けているのがこの人気ぶりといったところか。

 ティーン向けと言われるライトノベルでも、今は20代から30代、そして40代だって手に取り読む時代。大学に入っても就職しても、解消されるものではない人生の悩みに答えをくれるシリーズで、なおかつ新たな謎も突きつけられては続きを手に取らない訳にはいかない。出ればランキング上位に入る状況は終わらなさそうだ。

 「青ブタ」と同様、人気シリーズの続刊ということで、3位に入ったのが鎌池和馬の『創訳 とある魔術の禁書目録1』(電撃文庫)。「とある魔術の禁書目録」「新訳 とある魔術の禁書目録」と続いて、文庫本だけなら1800万部、コミックなども含めたシリーズ累計では3000万部という驚異的なヒット作の最新刊だけに、売れない理由が見当たらない。

 とはいえ、小説だけで50冊近くに及ぶシリーズの最新刊。これだけ長大化すると、新しい読者が入りづらく、既存の読者もだんだんと離れていくものだが、基礎票の多さと、コミックとアニメで展開される御坂美琴を主役にしたスピンオフ作品「とある科学の超電磁砲」の最新アニメシリーズが1月から放送され、話題が絶えないこともランキング上位に食い込み続ける理由か。

 超能力でも魔術でも、異能の力なら打ち消してしまう右手を持った主人公の上条当麻、10万3000冊もの魔導書を記憶したインデックス、最高ランクのレベル5に位置づけされる超能力者の御坂美琴、そんなレベル5の第1位にある一方通行(アクセラレータ)といったいつもの面々が、学園都市を舞台にわちゃわちゃと絡み合う“無印”時代の楽しさが蘇った感じで読みやすい。ラストに謎めく新たなキャラクターも登場。いったいどうなる? といった引きは十分で、これなら続きも売れるだろう。

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