「少年ジャンプ+」編集長が語る、画期的マンガアプリ誕生の背景 「オリジナルマンガで行くという戦略は間違っていなかった」
「少年ジャンプ+」出身の「週刊少年ジャンプ」本誌連載作家も複数登場
――新人と言えば「ジャンプルーキー」も画期的でしたよね。マンガアプリサービスにCGMの投稿機能を付けているところはその前からありましたが、単なる人気ランキングではなく紙のマンガ誌も出している「週刊少年ジャンプ」「少年ジャンプ+」編集部の編集者が読んでコメントします、担当に付く可能性がありますと謳って始まったものは当時、初でした。
細野:「ジャンプルーキー」は2014年に始めましたが、今では新人マンガ家の投稿先の選択肢のひとつとして想定していただけるようになったかなと。投稿者に声をかけて担当になり、いっしょにマンガを作っていく動きも今や普通のことになっています。「ジャンプルーキー」発で連載までいく作家も出てきました。直近だと“少年ジャンプに絶対載るラブコメマンガ賞”(Twitter ラブコメマンガ賞)に非常に反響があり、投稿者・閲覧数ともに増えました。また、「アナログ部門」というあえて「紙に描いたマンガ限定」の新人賞もやっていますが、こちらもおもしろい作 品が集まっています。「ジャンプルーキー」の存在が「『少年ジャンプ+』は新人作家を大事にする」というメッセージになり、コミティアなどの出張編集部にもたくさん持ち込みに来てくれる流れができたのではないかと思います。
――「ジャンプルーキー」発の作家で一番の成功というと……?
細野:一番というと難しいのですが、「超速!連載グランプリ」(「少年ジャンプ+」での連載&ジャンプコミックス化確約のグランプリを1本以上必ず選出するマンガ賞)出身で、現在「少年ジャンプ+」で連載中の『生者の行進 Revenge』原作者のみつちよ丸さんですね。1作目の『生者の行進』 はご自身で作画もしていますが、連載終了後もデジタル版が売れ続けている累計60万部のヒット作品で、続編も期待しています。
――「少年ジャンプ+」では「週刊少年ジャンプ」電子版の定期購読もできますが、お得感がすごいですよね。電子版には『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴・著)のフルカラー版もプラスされ、増刊の「ジャンプ GIGA」が読め、さらに特別増刊的な号の配信もある。やはり購読者は増えていますか?
細野:右肩上がりで定期購読者が増えています。『鬼滅の刃』効果もあり「コミックスから入ったが最新話に追いつきたい」という読者もいて伸びました。
――「週刊少年ジャンプ」に与えた影響はありますか。
細野:「少年ジャンプ+」で連載や読切を載せた作家が何人も「週刊少年ジャンプ」に連載をしています。『チェンソーマン』の藤本タツキ先生、『ぼくたちは勉強ができない』の筒井大志先生、『ミタマセキュ霊ティ』の鳩胸つるん先生は「少年ジャンプ+」の連載経験者です。ジャンプ系の編集者が「少年ジャンプ+」という場をうまく使えるようになってきたと思います。
『SPY×FAMILY』人気の理由は?
――「ジャンプルーキー」「少年ジャンプ+」発の人気作家がみんな移っていったら「少年ジャンプ+」に有力連載がなくなってしまうのでは、と疑問に思っていましたが、『SPY×FAMILY』が出て杞憂だったと感じています。細野さんは「『少年ジャンプ+』発の単巻100万部作品を作ることが目標」と以前おっしゃっていましたが、『SPY×FAMILY』はこの勢いでいけばその第一号になりそうですね。
細野:コミックスが紙と電子合わせて3巻累計発行部数200万部突破と好調なので、期待しています。メディア化していないのにこれだけ売れているのは驚きで、ジャンプ史上『暗殺教室』(松井優征・著)に次ぐ勢いだと聞いています。賞もたくさんいただいて驚いていますが、それくらいおもしろいのは間違いないので、マンガ好きなら絶対に読んでもらいたいです。そして、最新話は「少年ジャンプ+」で追いかけてほしいですね。
――人気の理由をどう考えていますか。
細野:ウェブとかアプリとか関係なく、非常に総合力が高いマンガですよね。作家の遠藤達哉さんは連載デビューが『ジャンプ SQ.』で、今回で3本目の連載作品になりますが、お話の構成、絵の巧さ、コメディのおもしろさの総合力が高い描き手です。編集担当は「家族」というテーマが時代にマッチしたんじゃないかと何かのインタビューで言っていました。それに加えて「明るいものが見たい」という時代の空気があったのかなと。「スパイ」のロイドと「殺し屋」のヨルと「孤児院にいた子ども」のアーニャという暗くなってもおかしくない背景を持った疑似家族ですから、いくらでもダークにしようと思えばできる。でもそうせずに、コメディの面白さで読者を構えさせずに楽しませているのが人気の理由だと思っています。
それからマンガの構造的なことで言うと、とてもいい初期設定だな、と。秘密の持たせ方がうまい。お互い秘密を持ってるけれど、超能力者のアーニャは心が読めるので、お話を進めることができる。でも子どもだからロイドとヨルにはそのことがバレない。さらに、「秘密がバレたらどうなるんだろう?」などいろいろ妄想できる関係性がある。それぞれの背景を使って、お話がいくらでも展開できる形になっています。