『水曜どうでしょう』はなぜ長寿番組になった? 藤村忠寿『笑ってる場合かヒゲ』が示す、その方法論

 2002年のレギュラー休止は、藤村たちスタッフが、『水曜どうでしょう』以外のこともやりたかったからという理由と、同番組を「すべて作りなおしたかったから」という理由とのふたつがあったからだという。そこで30分という枠のために泣く泣くカットした場面を再編集し、バラエティのDVDを売るという発想もなかった時代にDVDを販売、結果、異例の400万枚以上を売り上げることとなり、そのことが番組が独自のペースで続けられることにつながっている。

 藤村は、「新たなチャレンジに一番大きなブレーキをかけるのは、実は自社の組織なんです」「発想って、そもそもは個人の思いつきです。でもその思いつきを組織で共有するうちに、マーケティングによるとこうだからとか、コストを考えるとこうしたほうがいいとか、徐々に角がとれて凡庸なものになっていくのが常なんです」という。

 『水曜どうでしょう』を我々ファンがずっと観ることができるのは、作っている人たちが本気でおもしろいと思ったことを貫き、それに賭けてくれる会社というものがあるからだとこの本を読んでしみじみ思った。それは、ほかのビジネスでも必要なことではないだろうか。

 2019年、筆者は、藤村らレギュラーが全員で出演した『水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019』のライブビューイングを都内の映画館で鑑賞した。4人のレギュラー陣の中で、一番若い大泉洋ですら46歳となった今、これは、もう冗談めかしてではなく「一生どうでしょうします」をするのだなと思った。

 以前であれば、この言葉には「誓い」のような意味もあったのかもしれないが、これから、老いていく彼らにとって(そしてファンにとっても)、「一生」という言葉の重みは以前とは違う。本書には、この番組の最終回は「誰かが死んだときじゃないか?」(筆者は死んでも続いていくのではないかとも思っているが)と、藤村と大泉が2016年に飲んだときにやりとりしたと書いてあった。

 藤村は『水曜どうでしょう』のことを、「この番組はバラエティー番組だけれど、鈴井貴之、大泉洋、嬉野雅道、そして僕のこれからの人生を見せていく、長大なドキュメンタリー番組になるんじゃないか」と思いましたと、やはり2016年の段階でつづっているが、新シリーズを見て、その言葉がより現実味を持って実感されるのであった。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■書籍情報
『笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考1』/『笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考2』
著者:藤村忠寿 
出版社:朝日新聞出版
発売日:2020年1月7日/2月7日
定価:各1430円(税込)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21574 
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21695

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