直木賞『熱源』に学ぶ、“多文化共生”の難しさ 1月期月間ベストセラー時評

1月期月間ベストセラー【総合】ランキング(トーハン調べ)
1位『The WORLD SEIKYO ワールドセイキョウ 2020年春号』聖教新聞社
2位『鬼滅の刃 片羽の蝶』吾峠呼世晴 矢島綾 集英社
3位『鬼滅の刃 しあわせの花』吾峠呼世晴 矢島綾 集英社
4位『こども六法』山崎聡一郎/伊藤ハムスター(イラスト) 弘文堂
5位『田中みな実 1st写真集「Sincerely yours…」』田中みな実 宝島社
6位『鋼鉄の法 人生をしなやかに、力強く生きる』大川隆法 幸福の科学出版
7位『反日種族主義 日韓危機の根源』李栄薫編著 文藝春秋
8位『ポケットモンスターソード・シールド公式ガイドブック』元宮秀介ほか オーバーラップ
9位『DVDでよくわかる! 120歳まで生きるロングブレス』美木良介 幻冬舎
10位『熱源』川越宗一 文藝春秋
11位『一切なりゆき 樹木希林のことば』樹木希林 文藝春秋
12位『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治 新潮社
13位『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社
14位『見るだけで勝手に記憶力がよくなるドリル』池田義博 サンマーク出版
15位『乃木坂46 山下美月1st写真集「忘れられない人」』山下美月 小学館
16位『はじめてのやせ筋トレ』とがわ愛、坂井建雄 監修 KADOKAWA
17位『70歳のたしなみ』坂東眞理子 小学館
18位『清明 隠蔽捜査(8)』今野敏 新潮社
19位『映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ ストーリーブック』サンエックス監修 主婦と生活社
20位『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』ハンス・ロスリング他 日経BP

 2020年1月の月間ベストセラーで10位にランクインした川越宗一『熱源』は第162回(2020年上半期)直木賞受賞作であり、4月7日に発表される本屋大賞2020にもノミネートされるなど話題沸騰の一作だ。

サハリン=樺太を両サイドのマイノリティ視点から描く

 『熱源』は、明治から太平洋戦争終戦時までのサハリン=樺太を舞台に、「アイヌが日本政府によって北海道宗谷に送られた際に故郷の島から引き離され、18年ぶりに帰るとそこがロシアが支配する村になっていたアイヌの男」と「ロシア国籍だが流刑されてサハリンへ来たリトアニア生まれのポーランド人の男」を軸に描く歴史小説である。

 一方では日本政府や和人による意識的・無意識的を問わないアイヌに対する抑圧や差別を描き、もう一方では帝政ロシアあるいはその後のソ連からの独立を長く望みながらもなかなかそれが果たせないポーランド、リトアニア独立運動側の勢力を描く。

 といってもどちらも独立闘争や政治の中心を描くのではなく、そこからやや離れた人間たちの生活や仕事に焦点を当てることで、彼らの複雑なアイデンティティを掘り下げ、「故郷とは?」と問う。

北方領土で何が起こってきたのか、私たちは知らない

 北方領土についてニュースでは「四島返還か、二島返還か、はたまたもう日本には還ってこないのか」ということが取り沙汰されがちだ。「ロシアのものか、日本のものか」という二者択一の問題としてフォーカスされることが大半だ。

 しかし、19世紀から20世紀半ばにかけてそこにどんな人たちが住まい、交流してきたのか、そしてまた地政学的理由からどれほど奪い合いの標的となり、先住民や近隣諸国の市井の人間たちの人生を翻弄してきたのかについて、いったいどれほどのことを知っているだろう? ここにはそれらをめぐるドラマがある。

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