受験の神様・和田秀樹 × イスラム法学者・中田考が語る、“変わり者”だった灘高時代 「灘は校則もなかったし、本当に自由だった」

仮面浪人で早稲田から東大へ

−−『灘校物語』では中田さんは早稲田大の政治経済学部に進学するところで終わっていいて、まだイスラムの話は出てきませんよね。その後、東大を受け直されたそうで。

中田:仮面浪人で東大に入れるとは思ってなかったけど、大学生のほうが受験生よりも教養があって頭がいいはずなんだから、入れないわけがないというふうに考えたんです(笑)。でも、早稲田にはけっこうまじめに行ってたんですよ。政治学とかを勉強して、今も好きなハンス・ケルゼンという法哲学者に出会ったので、その意味では本当によかったと思いますね。

−−東大に入ってから中東に興味を持たれたんですか?

中田:そうですね。もともと宗教論が子供の頃から好きだったし、当時のイラン革命が映像的にもすごかったんですね。東大では和田さんとは学部が違うから、なかなか会わなかったね。

和田:中田さんがイスラム青年会議の日本代表になった時に会ったんじゃなかったっけ。

中田:そう、そのことも関係して、和田さんの企画で、一度だけ社会学者の小室直樹先生にお会いできたんだよね。週刊プレイボーイかなにかの連載で、イスラム関係の話で。和田さんは大学ではアイドルプロデュース研究会をやってたんだよね。オーディションとかもして。あれはなんで開催したの?

和田:あれは僕の映画の主演オーディションのつもりでやったんですよ。16ミリの映画を撮ろうと思ってたときに、和田秀樹の作品の主演女優ってことじゃ誰もこないからさ、山口百恵の次の東大のアイドルにしてやるって言ったら1600人来たんですよ。でも、僕はもともとアイドルのこと知らなかったのよね。映画狂いだったけどテレビはほとんど見なかったから。好きなのはラジオと映画で、テレビは映画の敵だと思ってたからさ。

−−ラジオと映画への愛は『灘校物語』でも熱く語られていますね。

中田:実は私もラジオ好きだったんだけど、和田さんがラジオ好きでハガキ職人だったなんて、知らなかったなあ。

和田:ぜんぜん読まれてなかったからね。北口とかがすごい読まれてたの。彼こそ本当に、すごいと思った人で。成績が優秀だった西川さんとかのノートをコピーしてまとめたものをみんなに売って大儲けしたり、横山プリンのラジオでしょっちゅう読まれたりしてさ。影響を受けたわけじゃないけど、すげえなあと思ってた。

−−キタノ、ニシサワとして作品にも登場するおふたりですね。

中田:西川さんも典型的な発達障害だったよね。

和田:うん。彼は裁判官になって、今でも変な判例を出すので知られてるみたいよ。

中田:ホームレスがテントを張ってる公園を住所として認めた判決で有名になったんだよね。特に社会派だとかではなく、彼のなかでは、論理的にそうなるべきだから、というだけのことだったはずだと思う。

和田:彼は損得を考えない人だったよね。みんな彼のノートを借りるから、彼の手元にノートがあったことがなかったくらい。本当は理Ⅰに行くつもりだったのに理Ⅲに行けって言われて、反発して文Ⅰに行ったんだよね。あれだけ論理的にやれる人だから、彼こそ理系の学者になってたらけっこう大成したと思う。

日本に必要なのは空気に水を差せる人

和田:たとえば東大の場合、先生の言いなりにならないと出世できないんだけどさ、そうすると研究者としてつまらない人間になるわけですよ。官僚も同じなのに、今は政権に忖度してばかりでしょ。この国がいかに危険な状態にあるかみんな気づいてなくてさ。矢内さんが言ってたように、発達障害しか世の中を変えられないかもしれないね。

中田:忖度ができないんでね。昔、山本七平先生が日本は空気に支配されていて、空気に水を差すことだけがそれを変えられる方法だって。水を差せる人間って、発達障害の人なんですよね。

和田:まわりに合わせられる人を健常者と呼んでるだけなんだよね。自分で正しいと思うことが言える人を上手にパージするために障害者というレッテルを貼ったり、入試面接で大学に入れなくしたりしちゃってる。医学部なんてついに入試面接のない大学がなくなっちゃうんだよ。

中田:和田さんには、若い頃の夢を叶えて、矢内くんのしょぼい政党からぜひ立候補してほしい。若い子にYouTubeで和田さんの声を届けてよ。いくらでもしゃべれるでしょ(笑)。

和田:いや、供託金もないからさあ。実は、僕は発達障害の子向けの塾を開こうかと思ってるの。

中田:それはいいね。

和田:その子が得意なことを見つけて、それを徹底的に伸ばすことで、ある程度名前のある大学に行かせるっていう。発達障害の子に必要なのは自己肯定感だからさ、自分ができるという錯覚を持たせることが大事なわけですよ。

中田:学問はだいたいそういうもんですからね。特に語学はそう。自分ができると思うからしゃべれるんだよね。

和田:僕は割とこの本も若い子向けに書いたつもりではあるんです。児童文学として、中学生や高校生が読んでくれたらいいですね。今の子供たちは、さっさと自分の人生を諦めてる気がするんですよ。だから、たとえば成績が悪くても逆転できるんだよとか、ちょっと変わっててもいいじゃんとか、仲間外れにされてもいいじゃんとか、そういう感覚を持ってもらえたらいいなと。子供が浮いてるとか、子供の成績がいまいちだという親御さんに読んでもらえればとも思っています。

■書籍情報
『灘校物語』
和田秀樹 著
価格:1760円(税込)
出版社:サイゾー
単行本(ソフトカバー): 312ページ

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