『進撃の巨人』は差別と革命を題材にした政治劇だーークライマックス目前、壮大な物語を振り返る

 諫山創の手掛ける漫画『進撃の巨人』(講談社)の30巻がついに発売された。『別冊少年マガジン』(講談社)で月刊連載されている本作は、2010年代にもっとも盛り上がった少年漫画と言って間違いないだろう。

 物語の舞台は三重の壁に囲まれた城郭都市。今からおおよそ100年前。人類は巨人たちに食い尽くされた。わずかに生き残った人類は50メートルの城壁に囲まれた街に引き籠もり、偽りの平和を享受していた。

 しかし、突如現れた“超大型巨人”と“鎧の巨人”によって第一の壁が壊され、巨人たちが街に進行。人類は第二の壁に囲まれたトロスト地区まで後退することになる。その時、エレンは両親を巨人に殺される。

 それから5年後、両親の敵を討つために第104期訓練兵団に入団したエレンの前に再び超大型巨人が現れる。第二の壁が破壊され市街に進行する巨人たちに、エレンたち兵士は巨人と戦うために開発された立体機動装置を装着し、戦いに挑む。しかし兵士たちは次々と命を落とし、エレンも巨人に食い殺される。しかしその時、エレンは巨人化する力に目覚め、その力で巨人を駆逐する……。

 『進撃の巨人』は2010年に1巻が発売されるとすぐに漫画好きの間で話題となった。1~4巻で描かれたトロスト区防衛・奪還戦では、エレンたちが巨人との戦いで次々と命を落とす姿が描かれ、不気味な巨人たちの圧倒的な暴力に蹂躙される人類の絶望感が、読者を圧倒した。

 その後、物語はエレンたち調査兵団の群像劇となっていく。エレンが巨人化したことで「巨人の正体は人間ではないか?」という疑惑が人類の中に生まれる。そこから物語は兵士の中に、巨人化できる能力を持ったスパイが紛れ込んでいるのではないか?というミステリーと、調査兵団という組織を舞台にした青春ドラマの両輪で進んで行き、エレンを中心とした調査兵団の個性が際立っていく。中でもエレンの幼馴染である女性兵士のミカサと、兵団長のリヴァイは人気となり、読者の関心は、人間ドラマと巨人の正体をめぐる謎解きに向かうようになっていた。

 『進撃の巨人』を読んでいて感心するのは、小出しにされる謎と群像劇のバランス感覚の絶妙さだ。そして、残酷な暴力描写の連続で見せていく巨人と人類の戦いは圧巻の一言で、ページをめくる手が止まらない。やがて、13巻以降になると、調査兵団が王政打倒を目論むクーデターモノとなり、壁に囲まれた世界と巨人の謎が明らかになっていく。そして18~21巻では、超大型巨人たちと人類の最終決戦が描かれる。ここまでの展開は、誰もが納得する少年漫画としての面白さだったと言えるだろう。

 だが、『進撃の巨人』の真価は21~22巻の過去編を経て視点が反転する23巻以降にあるのではないかと思う。そこで明らかになるのは、世界の真実の姿だ。実はエレンたちが暮す「壁に囲まれた世界」は、パラディ島という閉じた世界にすぎず、人類は滅びていなかったことが明らかになるのだ。そして海の向こうにある大国マーレでは、エレンたちと同じ「ユミルの民」の血を引くエルディア人たちが不当な差別を受けていた。

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