いくえみ綾『G線上のあなたと私』が、“なんでもない日常”を描いた意義

 それが実現しているのは、年齢の近い異性と見れば恋愛対象、おばさんとみれば自分とは無関係、女同士はぎすぎすするもの……などという、悪しきステレオタイプな要素を一切廃除しているからだ。

 しかし、それがない物語を描くのは最近まで難しかった。なぜなら、そんな要素がないと、物語がドラマチックに展開しないという思い込みがあったからではないか。

 本作ではなぜそれができたかというと、漫画というものが、個人的で身近なテーマについて、少しずつ描写を重ねていけるメディアだということもあるし、いくえみ陵という作家に作家性と実績があり、信頼されているということもあるだろう。

 現在、TBSでドラマ化され、放送中の本作であるが、こうしたなんでもない日常は、いきなりドラマのオリジナルで描くことは難しいからこそ、原作を読んでみて、こうした漫画が生まれていることがうれしく思えた。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

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