『左ききのエレン』が描く、“凡人”として生きるための覚悟 「お仕事漫画」としての魅力を考察

 原作のかっぴー氏は広告代理店出身とのこと。特に光一のパートで描かれる業界のエピソードが生々しいのはそのためだろう。「入稿直前にクライアントからダメ出し」「万全を期したはずのはずのカタログに誤植」など、現場を知る人には胃が痛くなるような出来事の描き方が、本作を「お仕事漫画」としても楽しめるものにしている。そして、このリアルさが“凡人”たる光一のドラマを輝かせている。NYで覆面アーティストとして華やかな活躍を見せるエレンはもはやファンタジーだ。泥臭く仕事に食らいつく光一に、多くの読者が共感を覚えるのも、彼が私たちと同じ場所にいるからだろう。彼は“凡人”として生きる覚悟の体現者なのだ。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

■書籍情報
『左ききのエレン 1』
nifuni かっぴー 著
出版社:集英社
価格:400円+税

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