#KTCHAN「かっこいい自分を見せることだけがすべてじゃない」 2年ぶりの復活劇――MCバトルを離れて見えたもの
6月20日に開催された『戦極MCBATTLE第42章 KING ONES ONLY at CLUB CITTA'』で、女性初の準優勝という快挙を成し遂げた#KTCHAN。この大会は、2024年の『戦極MCBATTLE 第34章 -The 32MCs王道in横浜- at KT Zepp Yokohama』以来、約2年ぶりとなる復帰戦だった。その間はアーティスト活動に全力を注ぎ、今年3月には“自分自身と向き合うこと”をテーマにしたEP『to face』をリリース。バトルから距離を置いた2年間で、彼女のラップや表現、考え方はどう変わったのか。復帰の舞台で感じた手応えから、これからのMCバトルとの付き合い方、10月のバースデーイベントや、アーティストとして描く未来まで、たっぷり語ってもらった。(猪又 孝)
再び向き合ったMCバトル「決勝まで行く想像を毎日してました」
ーーまずは『戦極MCBATTLE第42章』を振り返って、どんな手応えを感じていますか?
#KTCHAN:今の自分をちゃんと映し出せた戦いだったなと思います。自己ベストだし、ずっと勝てなかったたまちゃん(DOTAMA)にも勝つことができたけど、でも優勝はできなかったっていう。ラップの底力みたいな部分で、まだ自分には可能性はあるんだって思ったし、今の自分が客観的に見えた大会でした。
ーー『流派-R SINCE2001』(テレビ東京系)の密着映像では、決勝後「あ〜あ、負けちゃったあ」と楽屋に戻る姿が印象的でした。あの口調や様子を見ると、意外と心のなかはすっきりしていたのかなと。
#KTCHAN:そうですね。あれ以上はできなかっただろうなってくらい、出し切った感覚はありました。「悔しいわー!」って笑顔で言える感じというか。ちゃんと今の自分を見せられたという納得感はありました。
ーー2年前、2024年の『戦極MCBATTLE第34章』でなぜバトルから離れる決意をしたんですか?
#KTCHAN:フリースタイルって即興のアートじゃないですか。それより、長い時間をかけてひとつひとつの言葉や感情と向き合って楽曲制作に注力したい気持ちが強くて。同時進行だとどうしてもエネルギーが半々になっちゃうので、自分自身に100%のエネルギーを注いでリリックを書きたくて、一度距離を置こうと思ったんです。
ーー当時は学業に励みながらアーティスト活動をしていましたが、そのうえ、バトルも続けるのは大変だった?
#KTCHAN:時間より心の余裕ですね。バトルがあると、2、3カ月前から自分をバトルモードにして、生活のなかにフリースタイルが常にあるような状態になるので意識がそっちに向いちゃうんです。いわゆる“バトル脳”になっちゃう。
ーー実際にバトルから離れて、最初はどんな気持ちになりました?
#KTCHAN:穏やかだなって(笑)。心が凪いでいる。周りへの攻撃性みたいなものから離れられた感覚でした。MCバトルは相手と競って結果が出るから、常に人と比べてる。“周りがいての自分”から、“自分がどう思ってるか”にフォーカスするようになって、私って普段こう思ってるんだっていうことに気づく瞬間が増えました。バトルから離れていた期間は、自分がどういう表現をしたいか、自分は何が好きなのか、みたいなことをわがままに考えられた時間だったなって思います。
ーーバトルへの復帰を考えたのは、いつ頃どんなきっかけからだったんですか?
#KTCHAN:『戦極MCBATTLE』を主催しているMC正社員さんが、バトルに出ていない間もずっと誘ってくれてたんですけど、今はアーティスト活動に専念したいからってお断りしていたんです。そしたら、『第42章』の前月に私が出たイベント(『戦極MCBATTLE feat 伏見サイファー祭』)のステージ上で直接、「シーンを一緒に盛り上げてほしい」って熱いオファーをいただいて。そのときの私は『to face』を作って「自分自身に向き合えた」と心が昇華されたタイミングで、次は人や外の世界と向き合いたいと思っていたんです。で、ひと晩じっくり考えて出場を決めました。
ーー復帰戦に向けて、ラップの練習は?
#KTCHAN:しました。ひとりで深夜にスタジオにこもって、ビートに乗せてひたすらフリースタイルしたり、「今、大会に出たらこんなことを言われるだろうな」ってイメトレしたり。復帰するからにはダサい姿を見せたくないじゃないですか。そしたら想像するのはもう優勝しかないんですよ(笑)。だから決勝まで行く想像を毎日してました。
ーー当日、ステージに立ったときはどんな自分がいましたか?
#KTCHAN:かなり冷静でした。メラメラ燃えてる自分と、それを遠くから客観的に見てる自分が同居している感覚。2年前とは違う心の重さというか、心の体重が増えて地に足がついてる感じでした。前はもっとたぎって、突っ込んでいってたんですよ。
ーー肩をぶん回す感じで(笑)。
#KTCHAN:そう(笑)。「行くぞ!」「行ったるー!」って気合いが前面に出てたけど、今回はステージ上でも裏でもテンションが変わらない。冷静に「仕留めるぞ」っていう、ハンターみたいな気持ちでした(笑)。
ーー復帰戦ということで、初戦の第一声が大事だったと思いますが、「ヤッホー」でしたね。
#KTCHAN:はい。ヤッホーでした(笑)。ギリギリまで迷ったんですけど、YouTubeに「バトル復帰します」っていう動画を上げたときに、「ヤッホー待ってます」というコメントがたくさんあったことを思い出して。待ってくれた方にも初めて知る方にも、「私が戻ってきたんだぞ。シーンをぶち上げるんだぞ」っていうインパクトを与えたくて。「最初にドカンと行ったろ!」と思ってのヤッホーでした。
ーーステージ上の動きも以前と変わった印象を受けました。特に相手の目を見るようになったと思ったんです。
#KTCHAN:踊らないで、相手と対峙してる時間が長かったですね。
ーー以前は、観客の方を向いて自分の物語を繰り広げる“KT劇場”が注目されましたが、今回はその世界観を保ちながら相手の言葉にも返していました。
#KTCHAN:今回の目標が「ちゃんと相手と向き合う」ことだったんです。『to face』で自分自身と向き合った今の私で、相手と本気でぶつかるなら、目を見て、体も向けて、全身で言葉を浴びたいと思って。
ーー今回の大会で、バトルから離れていた2年間の成長が最もはっきり表れたと思う試合は?
#KTCHAN:1回戦のテトリス戦ですね。ステージに立ったとき、「私、こんなに落ち着いてることがあるんだ」って自分でも驚きました。それと、今までは自分がチャレンジャーで噛みつく側だったのに、自分にこんなに噛みついてくる後輩がもういるんだなっていう変化をひしひしと感じて。2回戦、3回戦も後輩にあたる子だったので、時の流れとともに自分の立ち位置が変わってきているぞって。だからこそ、言うことも変わってくるなって、生ですごく感じていました。
ーーそして、BEST 4でDOTAMAさんと対戦。決まったとき、どう思いましたか?
#KTCHAN:第42章のフライヤーを見たときから「たまちゃんと当たるかも」と思ってたんです。縁が深い相手だし、MCバトルってドラマや奇跡が起こるから。いつでも戦う準備はできていたので、決まったときは「来た!」って。「絶対負けないわ」って、勝つ前提くらいの気持ちでした。
ーー自己分析すると、DOTAMA戦の勝因は何だったと思いますか?
#KTCHAN:人間が剥き出しになったからかな。魂のコアな部分がいちばん出た試合だったと思います。逃げない、諦めないとか、ストレートな言葉で自分の意思を伝えることができたし、最後に〈私が進めばシーンはバラ色、この大会のクイーンは私よ〉ってちゃんと落とせた。あのフレーズはその場で出たものなんですけど、ゾーンに入ってて、もう脳ミソが「今日は私のための日だ」って思い込んでたんですよ。試合中、ずっとその意識でヴァースを蹴っていたんで、それがファンや会場に来てくれた人に伝わったのかなって。
ーー試合後、DOTAMAさんとは話しましたか?
#KTCHAN:少しだけ。「強かった!」って、すごい認めてくれました。
ーー先行のDOTAMAさんが繰り出すラップは、#KTCHANへのディスでありながら、全部いいパスになっていたように思うんです。ある種、DOTAMAさんなりの愛だったんじゃないかなって。
#KTCHAN:それはすごく感じました。あれは、たまちゃんが本当にリスペクトを送ってくれた試合。言ってることはディスでも、「ずっと行けよ」って応援してくれてるのをすごく感じて。あと、たまちゃんが下ネタを言ってこなかった(笑)。だからガチだな、私をひとりのラッパーとして見てくれてるんだなと思って。自分のテーマにしていた「人と向き合う」が相手にも伝わってるのを感じたし、ありがとうって思いました。
ーー対戦後、DOTAMAさんが小さく拍手して、#KTCHANもうっすら涙ぐんでいました。やっぱり感極まりました?
#KTCHAN:はい。制服を着て天真爛漫だった頃から今に至るまで、ずっと見てくれていた人だから。私の楽曲にも長文のメッセージをくれたり、本当にいつも見てくれていた。そんなたまちゃんと復帰戦のBEST 4で戦えて嬉しかったです。
ーーその長文メッセージは、どの曲について?
#KTCHAN:「私の幸せは私が決める」っていう『to face』のリード曲です。YouTubeにMVを上げたときに、「大変素晴らしいと思いました」みたいな、たまちゃんヴァイブスあふれる熱い長いメッセージをくれて。聴いてくださいって伝えたわけじゃないのに、聴いてくれていて嬉しかった。
ーー復帰した今、#KTCHANにとってMCバトルはどんな場所ですか?
#KTCHAN:自分自身と対峙する場所ですね。失敗しちゃったり、恥をかくことだってあるわけじゃないですか。でも、めげずに逃げずに立ち向かっていく姿勢自体が自分との勝負だし、そこで言う言葉がアーティストとしての確認にもなる。だから挑むこと自体に意味があると思ってます。
――相手に言葉を返しながら、自分を確認できると。
#KTCHAN:そう。テトリス戦で、数字や再生回数を言われたときに、〈自分の価値は自分で決めな〉って返していたから。
ーー「私の幸せは私が決める」で書いたことが、自然に出たんでしょうね。
#KTCHAN:ほかにもそういう場面があって。リリックを書くときに自分で疑問に思って考えたことだから、言われたときにすっと言葉が出るんです。それはこの2年間の賜物だし、成長を確認できました。