KATSEYE、更新し続ける“自己最高” ポップかつ奇妙――オリジナリティが覚醒した新EP『WILD』で再びのグラミー賞なるか

KATSEYEが、次々と自己最高を更新し続けている。それは、今年の『グラミー賞』で2部門にノミネートされ、『第52回アメリカン・ミュージック・アワード(AMA)』で3冠に輝き、最新EP『WILD』が自身初となる全米アルバム・チャート(Billboard 200)1位を獲得し、同EPを携えたアリーナツアーがリリースを待たずにソールドアウトしているといった、数字の面でも明らかだ。だが、それだけではない。彼女たちが更新している自己最高は、まずもってそのクリエイティブに表れている。人気が拡大するほど、KATSEYEというグループの個性が鮮明になってきているのだ。
KATSEYEのグループとしての独自性
前提の背景から押さえておこう。KATSEYEは、単に世界で成功したK-POPグループとは少し異なる。2021年、BTSなどを擁する韓国のHYBEと、米大手レーベルのGeffen Recordsが共同で始動したプロジェクトから誕生したグループで、世界規模のオーディションを経て選抜されたメンバーは、ロサンゼルスを中心にK-POP式のトレーニングを受け、2023年の公開オーディション『The Debut: Dream Academy』(日本ではABEMAで放送)を経て現在の6人が決定した。アメリカ、韓国をはじめ、スイスやフィリピンにルーツを持つメンバーで構成されているが、アメリカ人メンバーにもラテン、南アジア、東アジアのバックグラウンドがあり、6人を通して多様な文化的ルーツが広がっている。こうした多文化性を結成当初からグループの設計そのものに組み込んでいる点も、KATSEYEの特徴だ。
国籍やルーツだけでなく、表現のアプローチにおいても新しい点がある。BLACKPINKやTWICEのように韓国で生まれたK-POPをそのまま世界へ届けるのではなく、K-POPが培ってきた育成やダンス、チーム編成、ビジュアル、ファンダム形成といったグループを作る方法そのものを、アメリカのポップ産業へ移植しているのだ。かつてSpice GirlsやTLC、Destiny's Child、Fifth Harmonyらを生んだ英米のガールグループ文化が2010年代後半から停滞する一方、そのフォーマットを独自に進化させてきたK-POP。そのふたつの歴史が合流した地点にKATSEYEはいる。いわば「K-POP以後の多国籍/多文化ガールグループ」と言えるわけで、K-POPのグローバル化というよりも、K-POPのノウハウが世界のポップの作り方そのものを変え始めたことを象徴する存在である。
そんな彼女たちだが、デビュー当初の「Debut」や「Touch」といった楽曲に見られたのは、K-POPと英米のストリーミング時代のポップ、その最大公約数を巧みに捉えたような作風だった。短い尺に明快なフックを配置し、端正なボーカルと軽快なビートでまとめた、完成度の高いグローバルポップ。ところが、その流れを大きく変えたのが、2025年の「Gnarly」である。歪んだ電子音、唐突な展開、チャントや会話のようなボーカル、そして〈gnarly〉という言葉の反復。従来のガールグループに求められる“良い曲”の基準から意図的にはみ出し、ハイパーポップ以降の刺激的な電子音や、インターネットカルチャー特有のユーモア、悪趣味すれすれの感覚までをメジャーポップへ持ち込んだのだった。
面白いのは、「Gnarly」が一度きりの実験で終わらなかったことだ。続く「Gabriela」ではラテンポップやR&Bへ接近し、強いメロディと歌を前面に出す一方、MVではテレノベラ(ラテンアメリカを中心に制作/放映されている、情熱的でドラマチックな連続形式のメロドラマ)の過剰さを遊び心たっぷりに引用。音楽だけでなく、振付やファッション、映像まで含めて、「ちょっと変だけれど猛烈にポップ」というKATSEYEならではの人格を形づくっていった。さらに、LE SSERAFIM、ILLITとのコラボレーションシングル「ICONIC BY MISTAKE」もリリースし、新たな一面も見せたばかりだ。
『WILD』で聴かせるアーティストとしての振れ幅
そしてこの度リリースされたのが、EP『WILD』である。これが、実に面白い。初期の彼女たちが持っていたポップネスやボーカルの魅力と、「Gnarly」以降に獲得したミーム的で奇妙な感覚が、ここでは自然と共存している。KATSEYEが使える表現のレンジが、さらに広がった感があるのだ。その振れ幅は、5曲のなかでも大きい。たとえば「Bel Air」は、チャーリーxcxが10年以上前、『SUCKER』を制作していた時期に書いた楽曲を原型とする、ノスタルジックで切ない王道のポップソング。一方、「Hootie Frutti」まで行くと様相は一変する。ブラジリアンファンクに着想を得たリズム、重いベース、電子音、チャントのようなボーカルが目まぐるしく入れ替わり、〈hootie frutti〉という意味の掴めない言葉自体が打楽器のように反復される。奇妙なのに、猛烈に身体を動かしたくなる曲だ。
その一方で「Animal」では、ボーカルやメロディ、グルーヴを前面に出した比較的オーソドックスなポップへと回帰する。エド・シーランがソングライティングに参加し、オマー・フェディとブレイク・スラットキンがプロデュースしたこの曲は、メンバー同士が歌を受け渡していく構成が印象的だ。
そしてラストの「That Way」では、ボーカルそのものが主役になる。滑らかでグルーヴィーなトラックの上で、声を重ね、細かなフレーズを交わしていく繊細な楽曲。リリース直後の英語圏リスナーの反応でも、ボーカルの強さを評価する声が目立ち、「EPでいちばん好き」といった声も挙がっている。派手な仕掛けで驚かせるというより、メンバー全員がそもそも優れたシンガーであることを思い出させるような一曲だ。
「PINKY UP」や「Hootie Frutti」の奇妙さと、「Animal」「That Way」の歌の強さ。その両極を一枚のなかに収めていることが、『WILD』の面白さでもある。こうして並べてみると、『WILD』には全曲を貫くひとつのジャンルやサウンドがあるわけではない。むしろ、ポップであることも、奇妙であることも、歌をしっかり聴かせることも、悪ふざけのような表現に踏み込むこともできる、その振れ幅自体が作品を貫いている。
彼女たちは、「KATSEYEってユニークでポップ!」と思わせる固有のアイデンティティを獲得しはじめている。しかも個性を強めるほどニッチになるのではなく、それと並行して人気も拡大しているというのが面白い。成功するほど安全になるのではなく、むしろ表現できることを増やしていく。KATSEYEが更新し続けている“自己最高”とは、数字だけでなく、そんな自由さを体現していることでもあるのだろう。
■リリース情報
EP『WILD』
発売中
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