“かわいいアイドル”を演じて生まれたファントムシータの新表現 メンバーの卓越したアプローチが生む世界観

 ファントムシータが8月13日、KT Zepp Yokohamaにて『ファントムシータ Zepp TOUR 2026「ふぁんとむ♥らんど」』の追加公演を開催した。

 「レトロホラー」をコンセプトに掲げ、歌やダンスだけでなく、ビジュアルや映像も含めた独自の世界観を築いてきた彼女たち。今回のツアーでは、4人が“シュガーパレット”というアイドルグループとして登場する設定のもと、その強みを最大限に活かしたライブが展開された(ツアー直前には公式YouTubeではシュガーパレットとしての映像が公開され、ファンである“シュガーズ”に向けて『ふぁんとむ♥らんど』への来園を呼びかけていた)。

 開演前から場内のスクリーンには、『ふぁんとむ♥らんど』と題したテーマパークを思わせる映像が映し出されていた。そこで登場するのは、普段のファントムシータとは異なる、明るくキュートなアイドル・シュガーパレットの4人だ。華やかな映像を眺めていると、いつの間にか彼女たちのいるテーマパークへ迷い込んだような感覚になる。だが、その楽しげな雰囲気には少しずつ違和感が混ざり始める。そして迎えた開演時間。スクリーンには4人の少女が失踪したことを伝えるフィクション映像が映し出され、「『ふぁんとむ♥らんど』が開演します」というアナウンスとともに、いよいよライブがスタートした。

 ステージ上にはマネキンやゴシック調の小物、パンダの置物、目玉を模したオブジェなどが並び、ひと目で『ふぁんとむ♥らんど』の世界へと引き込まれる。そんな中、「キミと××××したいだけ -かわいいりみっくす-」でライブは幕開け。続く「botばっか」では、もなが「みんな声出せるー?」と呼びかけ、客席から大きな声が返ってくる。昭和歌謡を思わせるメロディや歌唱に、現代的なアイドルパフォーマンスが重なる独自のスタイルも、ステージ上ではより鮮明に映った。

 「Velvet Phantom」でのそれぞれの自己紹介を経て、4人がサビに入ると同時に表情をガラリと切り替える場面も印象的だった。この日の4人はシュガーパレットとして、普段のファントムシータ以上に王道アイドルらしい笑顔や仕草を随所に見せていく。一方、その明るさの奥にはどこか不穏さが漂い、ライブが進むにつれて『ふぁんとむ♥らんど』の異変が少しずつ表面化していった。

もな

 MCを挟んで披露された新曲「にんぎょひめのうた」では、もな以外の3人がステージ上に倒れ込む演出を展開。その後、スクリーンには『ふぁんとむ♥らんど』が徐々に荒廃していく不気味な映像が映し出され、「魔性少女」「もーいーかい?」へとつながっていく。

 ここまで観ていて気づかされたのは、ファントムシータのライブでは映像やセットが単なる装飾として存在していないことだ。ひとつの映像が次の楽曲へ意味を持たせ、ステージ上で起きた出来事がその後の映像につながっていく。曲を1曲ずつ楽しむライブというよりも、『ふぁんとむ♥らんど』で進行するひとつの物語を楽曲を通じて追体験している感覚に近い。

美雨

 もちろん、その世界を成立させているのは4人自身の表現力だ。それがより明確に表れたのが、それぞれのソロ曲だった。

 もなは「私だけしか愛せないビョーキ」で「私たちに夢中になっちゃえ!」と客席へ呼びかけながら、笑顔や視線を巧みに使ってフロアを惹きつけ、その高いアイドル性を見せつける。凛花は「どうしよう!」で歌詞に合わせて細かく表情を変化させ、主人公の感情を目線や口元まで使って表現。百花は「逝人に咲く」で高い歌唱力と巧みなラップを披露し、キレのあるダンスでも存在感を放った。力強い声の響きには、一言で言えば圧巻。そして、美雨の「わたしかくれんぼ」では、無表情で歌い始めたかと思えば、不気味な笑みを浮かべ、静かな歌唱から激しく感情を爆発させる場面、さらにはシャウトまで、数分のなかで目まぐるしく表現を変化させていく。その姿は、ひとつの劇を観ているかのようだった。4人それぞれ異なるアプローチながら、歌唱だけでなく表情や身体表現まで含めて楽曲の人物像を立ち上げていくところにファントムシータの強みがあるのだと、ライブを観ていて思った。

凛花

 「乙女心中」「薔薇色の月」とライブが進み、後半に入ると、『ふぁんとむ♥らんど』を息を切らしながら歩く男性の主観映像が流れる。園内では大勢の人間が倒れ、メリーゴーラウンドの前には4人の少女。その少女たちはやがて化け物のような姿となり、男性へ襲いかかる。さらに「ノア」「花喰み」「そっくりさん」と続くブロックでは、物語性の強い演出とはまた異なる、4人の歌唱技術そのものにもあらためて驚かされた。

 「おともだち」に続く「すき、きらい」でも、美雨の表現力は存分に発揮される。冒頭、美雨は「すき、きらい」という同じ言葉を異なる感情で何度も繰り返し、「これは私とあなたの物語」と一言。同じフレーズでも声色や表情によってまったく異なる意味を持たせられることは、ファントムシータのライブにおける大きな武器と言えるだろう。

百花

 そして、オープニングでも披露された「キミと××××したいだけ」を再び歌唱すると、メンバーから『ふぁんとむ♥らんど』の閉園が告げられる。「私たち、ファントムシータ、でした。ご来園ありがとうございました」という挨拶を経て、「ホラークイーン」で本編は終了した。

 アンコールでは、これまで4人が歩んできた道のりを振り返る映像が流れ、そのなかでメンバーが何かに変身していくような演出も。やがてセーラー服の要素を取り入れた衣装に着替えた4人が姿を現し、「輪廻る」を披露する。〈何度生まれ変わっても〉という歌詞とも重なるように、シュガーパレットとして描かれてきた世界を抜け出し、ここからはファントムシータ本来の姿だ。

 さらに、もなから「にんぎょひめのうた」のMV公開がサプライズで発表され、その場でハイネ(ファンの呼称)とともにワンコーラスを鑑賞するという特別な時間も用意。その後は新曲「とおりゃんせ」を披露した。「とおりゃんせ」というタイトルから想起される和風で怪しげなイメージに反して、サウンドは意外なほどにポップ。だが、歌詞にはやはりどこか不穏な気配もあり、ファントムシータらしい二面性は健在だ。ミラーボールが会場を照らすなか、4人も軽やかにパフォーマンスし、最後は「ゾクゾク」でこの日のライブを締めくくった。

 今回の公演から感じたファントムシータの面白さは、「レトロホラー」というコンセプトを楽曲や衣装だけで終わらせていない点にある。さらに今回は、普段のファントムシータとは対照的なシュガーパレットという王道アイドル像をあえて前面に押し出した。そのキラキラとした世界がライブの進行とともに少しずつ歪み、荒廃し、やがて本来のファントムシータへとつながっていく。開演前の映像からステージセット、楽曲の並び、メンバーの芝居にも近い表情表現までが有機的につながることで、ひとつのアトラクションのようなライブを成立させていた。

 何より興味深いのは、“かわいいアイドル”を演じること自体がファントムシータにとって新たな表現になっていることだ。もともとレトロホラーとアイドルという相反する要素を同居させてきた彼女たちだが、今回はその振れ幅をシュガーパレットという架空の存在によってさらに広げてみせた。かわいければかわいいほど、その世界が崩れていく瞬間の不気味さは増していく。そのギャップこそ、『ふぁんとむ♥らんど』をただのコンセプトライブでは終わらせない面白さだったのだ。

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