家入レオ、〈未完成〉と歌う意味 『メビウス・ダスト』との共鳴から浮かび上がった“自分らしさ”を更新し続ける勇気

 家入レオが6月3日に配信リリースした楽曲「メビウス」。放送中のTVアニメ『メビウス・ダスト』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマとして書き下ろされた本作は、疾走感あふれるロックサウンドに乗せて、他者と関わりながら“自分らしさ”を獲得していく過程を歌った1曲だ。

『メビウス・ダスト』で描かれる“新たな可能性”と楽曲「メビウス」の呼応

 8月26日には、自身の年齢を冠した9枚目のアルバム『31』のリリースを控え、9月からは全国ツアー『家入レオ TOUR 2026 -Log:31-』も予定している家入。デビューから14年を経てなお、自らの歌詞や音楽性、歌声を更新し、新たな表現へ向かっている。「メビウス」はそんな現在の彼女が『メビウス・ダスト』の物語と出会い、初タッグとなる野村陽一郎と作り上げた楽曲である。

家入レオ - 「メビウス」(Official Audio)

 作詞・作曲は家入と野村の共作で、編曲は野村が担当。制作にあたり、家入はアニメの脚本と台本を読み込んで曲を書いたという。希望を何度も伝えながら、最後までこだわって楽曲を練り上げた。

 アニメ『メビウス・ダスト』の舞台は、隕石の落下から10年が経過した〈しんかつしか〉。巨大結晶が放つ謎の粒子〈メビウス・ダスト〉によって、一部の子どもたちは〈ラムス〉と呼ばれる特殊能力を得ていた。しかし、その力が発動するのは粒子の届く範囲だけ。能力者である〈ラムスキャリア〉は、町から出ることを禁じられている。高校生のアラキは、妹のステラや幼馴染のオルガらとチーム〈ポリスホッパー〉を組み、ほかのチームと〈ラムス〉を駆使したゲームに明け暮れている。そこへ研究者の湯田博士が現れ、能力のデータを提供すれば町の外へ出してあげられるかもしれないと持ちかけたことで、彼らのゲームと日常は少しずつ変質していく。

 この設定には、出口を目指すほど内側へ引き戻される迷路のような構造がある。〈ラムス〉は少年少女を“特別”な存在にする一方、その特別さこそが彼らを町へ閉じ込める理由になっている。さらに彼らは、大人たちから使用を制限された力をゲームという遊びのなかで解放するが、その自由な遊びさえ、博士の研究データとして回収されていく。解放は拘束へ、自由は管理へと裏返り、相反するものが切り離せない1枚の面を形作る。まさしくメビウスの輪である。

 だが、ゲームは大人たちに利用されるだけのものではない。仲間との連携、他チームとの対戦や交流、勝利の高揚と敗北の痛みを通して、彼らは自分の力と感情を知っていく。自らの能力を把握できず劣等感を抱えていたアラキは、力を証明しようとするあまり、仲間へ過剰な要求を向けてしまう。他者との比較は彼を傷つける一方、その関わりは、一人では見えなかった自分を映し出す鏡にもなる。

 身体の描かれ方も示唆的だ。身体の一部を隕石によって失った登場人物たちは、〈ラムス〉によって身体を補うだけでなく、それぞれに固有のかたちで身体を拡張し、その力をゲームに生かしている。ゲームという場では、身体を完全/不完全に分ける基準が組み替えられ、身体の差異が能力や戦術へと変換される。〈ラムス〉による身体の拡張は、“完全な身体” を目がけた治癒や克服というより、現在の身体を起点に新たな可能性を作り出す行為として映る。

 その姿と響き合うのが、自らの身体を〈未完成〉と歌う「メビウス」の一節だ。ここでの未完成は、特定の身体だけを不完全とみなす言葉ではないだろう。人間の身体も、自己そのものも、固定された完成品ではない。最後まで未完成だからこそ、人は出会いや衝突、失敗や痛みによって、自分らしさを何度でも更新できる。

 こうした読みと呼応するように、家入は、主人公のアラキが他者と関わることで自分自身と向き合う姿から、〈君になる準備はできたかい〉という言葉が浮かんだと明かしている。“らしさ”は生まれた瞬間から備わっているものではなく、生きながら手に入れ、磨き続けるもの――それが彼女のこの曲に込めた思いだ。

TVアニメ「メビウス・ダスト」ノンクレジットOP映像

歌とサウンドが織りなすコントラスト

 家入のこの発想は、“本当の自分を見つける”という成長物語の定型をも反転させる。完成形としての“本当の自分”が、あらかじめ心の奥に隠れているのではない。アラキたちは他者との関係のなかで、その都度、今の自分を知り、選び直し、作り続ける。自分を見つけるのではなく、自分になっていく。この“なる”という動詞には、自己が常に途上にあり、変化し続ける時間が刻まれている。

 歌詞に登場する、生まれたときから刻まれた〈シリアルナンバー〉も印象深い。生まれや身体、能力といった自ら選ぶことのできない条件や、社会から与えられる分類は、一人の人間を識別することはできても、その人の“らしさ”までは決められない。誰かと比べる痛みも、未来を見つめる辛さもなくならない。それでも他者と笑い、争い、涙を流しながら、自分らしさを形作っていく。その終わりのない過程を、曲は肯定している。

 こうしたメビウス的な二面性は、サウンドにも表れている。中島美嘉やChara、wacciなど、幅広いアーティストの作品を手がけてきた野村は、ギタリストとしての生身の演奏感と、打ち込みや多重録音を駆使するポップスの構築力を併せ持つ音楽家だ。「メビウス」でも、前へ押し出すビートとギターが疾走感のあるロックサウンドとなって鳴り響き、ゲームを駆け抜ける少年少女の身体感覚を立ち上げる。

 一方、その上を進む歌のメロディは、サビへたどり着くまで、足場を探すように浮遊する。サウンドは迷わず走っているのに、心はまだ行き先を定められない。力を解放して戦いながら、自分が何者かを掴めずにいるアラキたちの姿が、推進力と浮遊感のコントラストに映し出される。サビに入ると旋律には1本の芯が通り、切なさを残しながらも、問いかけを遠くへ運ぶ力強さを帯びていく。

 その中心にあるのが、透明感と意志を併せ持つ家入の歌声だ。密度のあるロックサウンドのなかでも言葉の輪郭を失わず、聴き手へまっすぐ届く。しかし、その歌声は感情の意味を一つの答えに固定しない。家入は歌う際、思いを込めすぎず、“誰かの曲”になるための余白を残すことを意識しているという。その余白があるからこそ、〈君になる準備はできたかい〉は完成を迫る命令ではなく、聴く者それぞれに開かれた問いとして響く。

 一周して同じ場所へ戻ったように見えても、誰かと関わり、喜びや痛みを知った自分は、もう以前と同じではない。完成という終点はなくても、変化は確かに存在する。「メビウス」は、いつか完全な自分になれると約束する歌ではない。『メビウス・ダスト』の少年少女たちの歩みに寄り添いながら、未完成なまま他者と関わり、自分らしさを更新し続ける勇気を歌う1曲なのだ。

家入レオ「メビウス」

◾️リリース情報
家入レオ「メビウス」
作詞:Leo Ieiri・野村陽一郎
作曲:野村陽一郎・Leo Ieiri
編曲:野村陽一郎

配信:https://jvcmusic.lnk.to/Mebius

◾️作品情報
TVアニメ『メビウス・ダスト』
2026年7月9日(木)よりTOKYO MX、BSフジ、MBSほかにて放送中

<キャスト>
アラキ:竹中悠斗
ステラ:稗田寧々
オルガ:佐藤榛夏
ショウセイ:坂 泰斗
カイ:市川 蒼
ハルト:堀金蒼平
クルス:松田颯水
スピカ:三上枝織
ユダ博士:河瀬茉希

<スタッフ>
原案/キャラクター原案:品川一(Project ANIMA 第三弾「キッズ・ゲームアニメ」部門 大賞)
監督:岩崎太郎
シリーズ構成:冨田頼子
キャラクターデザイン:小嶋はつめ
サブキャラクターデザイン:市原圭子
ラムス能力デザイン:永田杏子
プロップデザイン:小倉寛之 永田杏子
総作画監督:小嶋はつめ 板倉 健 栗原 優 曾我篤史 本谷 愛 熊谷勝弘
アクションアニメーター:橋本敬史 孫 威軍
美術監督:中尾陽子
美術設定:小野寺里恵
色彩設計:真壁源太
撮影監督:杉浦誠一
編集:木村佳史子
音響監督:高寺たけし
音響効果:和田俊也
音楽:DÉ DÉ MOUSE
アニメーション制作:動画工房

オープニングテーマ:家入レオ「メビウス」
エンディングテーマ:冨岡 愛「ジレンマ」

◾️アルバム情報
家入レオ『31』
8月26日(水)リリース
予約:https://www.jvcmusic.co.jp/leo-ieiri/31/

【通常盤】CD/VICL-66165
価格:3,500円(税込)

<収録曲>
1. Overture(Log:31)
2. Echoes
3. We Could Be Something
4. Walk
5. Adieu
6. Rain Song
7. Remember
8. Too Late
9. Melt
10. Muse
11. Mirror(Edition 31)
12. Love In Me

【初回限定盤A】CD+Blu-ray/VIZL-2545
価格:8,250円(税込)

<収録曲>
CD:通常盤と同内容

Blu-ray:『TOUR2025 ~bulb~ @LINE CUBE SHIBUYA』
・Opening
・雨風空虹
・もし君を許せたら
・未完成
・恍惚
・Neon Nights
・love & hate
・Overflow
・パパの時計
・ラブレター
・君がくれた夏
・Silly
・祈りのメロディ
・Hello To The World
・Bless You
・Shine
・純情
・Pain
・Mirror feat.斎藤宏介
・サブリナ

・Documentary Film(TOUR2025 ~bulb~)

 【初回限定盤B】CD+Photobook/VIZL-2546
価格:5,500円(税込)

<収録曲>
CD:通常盤と同内容+Photobook

【VICTOR ONLINE STORE限定セット】通常盤+レザーチャーム-Overture(Log:31)-
価格:5,260円(税込)

初回限定盤A+レザーチャーム-Walk-:価格:10,010円(税込)
初回限定盤B+レザーチャーム-Echoes-:価格:7,260円(税込)
全形態+レザーチャーム3種セット:価格:22,530円(税込)

◾️ライブ情報
『家入レオ TOUR 2026 -Log:31-』
2026年9月12日(土)神奈川 厚木市文化会館 大ホール
2026年9月22日(火祝)静岡 静岡市清水文化会館マリナート大ホール
2026年9月26日(土)福岡 福岡市民ホール 大ホール
2026年9月27日(日)兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
2026年10月4日(日)香川 レクザムホール 小ホール
2026年10月10日(土)宮城 電力ホール
2026年10月12日(月祝)北海道 共済ホール
2026年10月16日(金)愛知 岡谷鋼機名古屋公会堂大ホール
2026年10月17日(土)広島 広島JMSアステールプラザ 大ホール
2026年10月25日(日)京都 文化パルク城陽 プラムホール
2026年11月5日(木)東京 LINE CUBE SHIBUYA

<チケット情報>
LEPYシート:13,500円(税込)
指定席:8,500円(税込)

◾️家入レオ 関連リンク
オフィシャルHP:https://leo-ieiri.com
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