サカナクションが追求し続けた“総合芸術”としての音楽表現 映像・音響・アートを融合した挑戦と革新のバンド史

 6月13日に開催された『MUSIC AWARDS JAPAN 2026』。2回目を迎えたこの国内最大規模の国際音楽賞で“主役”の一組となったのはこのバンドだった。2005年に北海道で結成されて以来20年以上、日本のロックシーンにおいて新たな地平を切り拓き続けてきた5人組、サカナクションである。彼らは昨年リリースした楽曲「怪獣」で「最優秀楽曲賞」「最優秀ロック楽曲賞」「最優秀アニメ楽曲賞」「最優秀ミュージックビデオ作品賞」「最優秀アートワーク賞 in association with 日本グラフィックデザイン協会」の5冠を獲得。さらにバンドとしても「最優秀ロックバンド/ソロアーティスト賞」を受賞したのに加え、ライブスタッフに対する表彰でも、昨年のツアー『SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”』で「最優秀ライブ照明スタッフ賞 in association with 日本舞台技術スタッフ団体連合会」「最優秀ライブ音響スタッフ賞 in association with 日本舞台技術スタッフ団体連合会」という2つの賞に輝いた。楽曲はもちろん、MVやライブでの表現に至るまで、彼らがスタッフを含めたチームで追求したものが、あらゆる角度から高い評価を得た証だ。

 「最優秀楽曲賞」を受け取った直後のスピーチで、山口一郎(Vo/Gt)はこんなことを言っていた。「サカナクションは3年前に活動休止をしました。僕がうつ病を患ったからです。その間メンバーやファンのみなさん、チームサカナクションのみなさんに支えられながらなんとか復活しました」。活動休止から復活に至るサカナクションの物語は、まさにチームプレイと呼ぶにふさわしいものだった。「怪獣」はサカナクションというバンドの強固な絆を物語るとともに、アートワークやMVを含めて一貫したコンセプトとメッセージを伝えるチームの総力戦の成果でもあったのだ。だからこそ、山口はセレモニー後の囲み取材で、ライブスタッフへの表彰について「僕らにとってすごく大きい」と口にした。「イベンターであったり、マネジメントであったり、レーベルなどがライブにお金をより使って、いい音で、いい演出でライブをやっていこうというモチベーションになると思うんです」。そうした視点は、サカナクションが音楽を単に曲を作り演奏するだけにとどまらない総合芸術として捉えていることを示している。

早い段階から映像表現の可能性を見出していたサカナクション

 2007年にメジャーデビューを果たしたサカナクションは、その初期から、アートワークやMVにおいてもこだわり抜いてきた。たとえば2010年の「アルクアラウンド」。4作目のアルバム『kikUUiki』からの先行シングルとしてリリースされたこの楽曲のMVは、関和亮をディレクターに迎え1シーン1カットの長回しで撮影されている。山口が夜の街を歩く道中にはバラバラになった文字のオブジェが配置され、それらがカメラワークによって読めるようになり、また読めなくなっていく。同作品は『第14回文化庁メディア芸術祭』のエンターテインメント部門で優秀賞を受賞。その贈賞理由には「映像スタッフたちがビジュアルのライブセッションをやっているようだ」(※1)とあるが、「歌詞をテーマに映像を作りたい」(※2)という山口からのリクエストから生まれたコンセプチュアルな映像は、“音楽を説明するもの”というそれまでのMVの常識から離れ、映像表現自体が楽曲のメッセージを背負うものとなりうることを示していた。

サカナクション / アルクアラウンド -Music Video-

 以降、サカナクションはさらにMVにおける挑戦を続けていく。翌2011年の「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」では、現在に至るまでサカナクションの映像表現やライブ演出の主軸を担っている田中裕介と初めてタッグを組んでMVを制作。山口にそっくりな4体の人形を山口自身が操ってダンスを繰り広げるというインパクト大の映像は、音楽ファンに楽曲の存在を強烈に印象付けるものとなった。「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」のMVは『第16回 SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS』にて最高賞となる「BEST VIDEO OF THE YEAR」および「特別賞」を受賞。この2010年代前半という年代は、日本でスマートフォンが普及、また2007年に日本語でのサービスを開始したYouTubeが一般的な認知度を高め、誰もが日常的に動画コンテンツに触れるようになった時期と符合する。動画を通して音楽を聴くという体験は今では当たり前のものになったが、サカナクションはきわめて早い段階からそこに着目していたことがわかる。

サカナクション / 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』 -Music Video-

 また、ライブでの定番演出となった「夜の踊り子」の踊り子ダンサーによるパフォーマンスが象徴的なように、MVでの表現がライブ表現とリンクしていくような仕掛けもサカナクションならではのものとして進化していった。近年では「新宝島」でMVのコンセプトをそのままライブやテレビでのパフォーマンスに持ち込んでいるが、それらはサカナクションが「楽曲は楽曲」「映像は映像」「ライブはライブ」と別個に表現を考えているのではなく、すべてを貫くコンセプトのもとに総合的なアウトプットを考えていたことを物語るものだといえるだろう。

 たとえば、「忘れられないの」や「怪獣」など数々のMVを作り出してきた田中が総合演出を手がけた2020年のオンラインライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』は、“ライブミュージックビデオ”というコンセプトで作られたもので、全編生配信でありながら映画や演劇のような要素を取り入れた挑戦的なものだった。コロナ禍で発展したオンラインライブだが、それをそれまでのライブの代替ではなく新たな表現フォーマットとして捉えることで、サカナクションのライブはさらに進化していったのだ。そんな、あらゆる表現形態をリンクさせていく彼らのクリエイティブは、2025年、12年ぶりに出演した『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)での「怪獣」のパフォーマンスにも表れていた。MVとつながるようなリアルタイムの演出には、サカナクションの総合芸術としてのスタンスがはっきりと表れていたのだ。

サカナクション / ワンダーランド from 「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」

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