歌声分析 Vol.15:大泉洋 生身の人間性が滲む歌声 確かな歌唱力と説得力、“語り”に近い無二の質感に迫る

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 第15回目となる今回は、大泉洋を取り上げたい。

俳優の発声が宿す説得力、放射状に広がる朗らかな響き

 大泉洋は、日本のエンターテインメント界において、極めて特殊なポジションにいる存在である。俳優やタレント、昨今では司会者と活躍は多岐にわたるが、一方歌手であり、シンガーソングライターとしての顔も持つ。北海道発のローカル番組『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)で見せた、ぼやき、自虐、リアクションを織り交ぜたキャラクターは、彼のパブリックイメージを決定づけた。万人を笑わせる才能は、コメディアンにも通ずるものでもあると言えるだろう。要するに、非常に肩書きが多く、演技の幅も広い。ただ、そんな大泉が、誰が聴いても上手いと感じられる歌唱力を持っていることは、まだあまり広く知られていないのではないだろうか。

 大泉のキャラクターは非常に濃いが、その歌声は、言葉に説得力を持たせる。聴いていると、歌っているというよりもメロディを介して、持ち前の大きな声で言葉を発しているという形に近い。

芸能生活30周年記念!!大泉洋リサイタル2-リベンジ- Teaser Movie

 まず特徴的なのは、一般的なシンガーとは異なる、俳優として培われた発声だ。メロディを滑らかに流すよりも、言葉を前方へ真っ直ぐ届ける発声がベースになっている。子音の立ち上がりも自然で、母音は楽譜上でのロングトーン以外はあまり伸ばさない。そのため“歌”でありながら、どこか“語り”に近い質感を持っているのだ。

 ほかにも目立つのが、朗々と響くロングトーンである。喉を開いて声を放つため、空間の中で放射状に広がっていく印象になる。体の奥で息を支えながら、自身の中で溜めた空気を通して歌い上げる様は、舞台俳優的な腹式呼吸とも地続きに感じられる発声と言えるだろう。その響きは、少しだけオペラを彷彿とさせるほど時にクラシカルだが、大泉の歌声には人間味が滲み、オペラというより合唱団の独唱に近い温かみのある印象になる。

 また興味深いのは、ピッチは非常に安定している一方で、アップチューンのリズムでは“頑張っている”のが垣間見えるところだ。しかし、そこを弱点として聴き手に残さない。大泉は、リズムを完璧に揃え切るよりも、言葉を発することを優先しているのだ。

 本稿では、“ボーカリスト・大泉洋”が持つ説得力の理由を、楽曲をピックアップしながら分析していきたい。

 「本日のスープ」(2004年)は、大泉がDJを務めていたラジオ番組の企画からスタートした曲だ。スターダスト☆レビューとのコラボレーションシングルとして「北海道限定盤」と「全国盤」がリリースされた。クワイアを取り入れたスケール感あるミディアムチューンで、大泉は実に丁寧に歌を紡いでいる。声量、声質も一定で、まるで隣で歌っているような距離感さえある。フレーズとフレーズの繋ぎも滑らかで、生活の延長線のような自然な間を作り、この曲の切なくも美しいメロディをしっかり言葉で表現している。

 「ハナ~僕とじいちゃんと」(2006年)は、大泉の“語り部”としての資質がよく表れた1曲だ。自身が作詞曲を手掛けたゆえに、感情を乗せやすい曲だと思うのだが、彼は感情を前景化するアプローチをしておらず、自然な温度で物語を手渡していく。秀逸なのは歌い出しの〈夏が来れば〉の“なつ”で、そっと置くように歌い始め、その質感のまま母音を綺麗に伸ばしている。丁寧に描かれた1本の線のような存在感で、最初の単語で曲の世界を提示している点が見事だ。

関連記事