“間違った教育”が生んだ至高の才能 シンガーソングライター・KeNN、ルーツを音楽へと昇華させる自らの証明

皮肉も込めたタイトル『From Miseducation』=“誤った教育”の真意
――そうしてついに完成した『From Miseducation』ですが、自分ではどんな作品になったなと感じますか?
KeNN:これまで聴いてきた曲が多くて、それを全部吸収して音に出すタイプなので、やる曲ごとにジャンルが変わっちゃうんです。「メマイ」みたいなボカロっぽい曲もあれば、がっつり洋楽みたいな曲もあって。でもそれを“KeNN”としてまとめたい想いがあったんです。ジャンルっていう面ではまったくまとまってないんですけど、生まれてから今まで感じてきたものを、いろんなジャンルに投影して、それがひとつになった、みたいな。なので、自分が聴いてきた曲の影響をピュアに受けてる感じの曲が多いなっていう感じですね。
――今までKeNNさんの曲を聴いてきた人からすると、1曲目で「メマイ」がくると結構びっくりしますよね。この曲はどのようにできた曲だったんですか?
KeNN:これは東京来てからできた曲です。オリジナル曲を作り始めてから最初の方は、海外テイストで作っていたんですけど、ここ最近はジャパナイズさせた思考で曲を作ることが多くて。その中で漠然と「日本っぽい曲を作りたい」ってなった時に、一発目、二発目に出たのが、こういうジャンルの曲だったんです。こういうタイプのメロディの曲って、ボカロ曲では結構あったりするかもしれないけど、男の人が歌うパターンだとあまりなかったりするので、そこは新しいかなと思います。
――アッパーな曲だけど、歌詞に着目するとちょっと切ない恋愛模様みたいなものが描かれていますよね。「脱兎」とか「RUST」、「sad dance.」とかもそうですけど、そういうところにフォーカスしがちなのはどうしてだと思いますか?
KeNN:自分はそこまで恋愛体質じゃないので、実体験で書くことはあまりないんです。だからこういうテーマの曲を書く時は、「自分がもしこうなったら」って考えるんですよ。たとえば「sad dance.」だったら、自分がもし彼女と別れたらどうなるんだろうって考えて、1本の映画みたいなストーリーを作って、その主役を自分にする。それで、その映画を観たあとに曲を書くつもりで書いてますね。そうなった時に、想像しやすいのが失恋というテーマなんだと思います。
――「sad dance.」は全編日本語詞ですね。これは新しい挑戦だと思うんですが、やってみてどうでした?
KeNN:「sad dance.」は「J-POPを書こう」と思って書いた曲で。完成してからちゃんと聴くと、「やっぱり自分は日本人なんだな」って思うというか。英語を使う方が耳にすっと入る感じはするし耳ざわりはいいんだけど、日本語独自の温かみももちろんあるし、それを自分も証明できたんじゃないかなって思います。これはこれで楽しいですね、日本語だけで書くっていうのも。
――なるほど。そういう切ないラブソングが多い中で、デビュー曲「Something Wrong」はちょっと毛色が違いますよね。一見ラブソングだけど、これは音楽のことを書いているんですよね?
KeNN:そうですね。この曲を最初に出すにあたって、「ここから自分には音楽の道しかないんだ」という覚悟をしたというか。自分の決意表明でもあるし、音楽とともに生活をしていくんだっていう覚悟の曲ですね。音楽に助けてもらったから今の自分があるし、これからも音楽と一緒に生きていくんだっていう気持ちを込めて書きました。恋愛っぽいニュアンスが入っているところはあるけど、音楽に恋をするぐらい好きだっていうことなんですよね(笑)。
――この曲に〈We're all right when it's something wrong〉、つまり「間違っても大丈夫だ」っていう歌詞が出てくるじゃないですか。そこは今回のEPのタイトルの『From Miseducation』というテーマともリンクする部分がある気がします。このタイトルはローリン・ヒルのアルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』から取ったそうですけど、どんな意味を込めてその言葉を選んだんですか?
KeNN:「miseducation」っていうのは“誤った教育”や“間違った教育”っていう意味。自分はDJとHIPHOPの界隈の両親のもとで育って、父親はタトゥーがたくさん入っていて、母親は当時アフロでドレッドみたいな感じで、他の友達には絶対いないような親だったんですよ。そこから受けている影響というのは、世間的には一般的ではない環境だったかもしれない。でも、その“間違った教育”があったから今こうやって音楽っていう、人生で一番やりたいことができている。そういう皮肉的な意味も込めてこのタイトルをつけました。あとはローリン・ヒルのアルバムは両親が好きなアルバムでもあって。自分が今回出した曲たちは親からの影響を受けたものが多いので、このタイトルにしようと思いました。
自分が過ごした“環境”への肯定
――無責任に他人事としていうと、そんな両親、めちゃくちゃかっこいいじゃんと思うけど、実際には、特に地方だと少し感覚が違うでしょうしね。
KeNN:そう。だから、小学校に入った時に、他の親とか生活環境とかを見ると「うちはちょっと違うんだな」と思ったりしました。聴く曲が他の人と全然合わないとか、テンション感が合わないとか、そういうのも感じていましたね。着る服や髪型からしても全部「浮いてる」感じはありましたし。
――少し大げさに言うと、KeNNさんにとってネットでもリアルでも音楽をやるということは、「浮いている」と思っていたものの正しさを証明するようなプロセスでもあったんだろうなと思います。
KeNN:ああ、そうですね。確かにそうだと思います。でも札幌の大学に行ったら、そこにアメリカンバイブスの人たちがたくさんいて、そこで初めて音楽の趣味とか同じような人たちに出会えたんです。これが都会っていうことなんだなって思いましたね。田舎だったから浮いてただけなのかな、とか。東京に来てからはますますそう思うようになりました。みんな「DJの親って羨ましい」とか言ってくれるし、「親がそういう音楽やってたからいろんなジャンル作れるんだね」とか、そういうことを音楽をやってる人から言われるようになると、自分のいた環境が肯定されている感じがして、「人と違っていて良かったな」って身に染みて感じる瞬間が増えました。

――きっとKeNNさんは奥底でそれをずっと求めてきたんだと思います。「これで合ってるんだ」っていう証明を必死にしようとしてきたんだなって。そうでなければ1日10時間もギターを弾かないし、独学でDTMもマスターしないし、曲作ろうとも思わない気がするんですよね。このEPはその最初の集大成ですよね。
KeNN:そうですね。遠軽から出てきて、こうやって東京で音楽をして曲集を出せるっていうのは、本当に嬉しいことです。先生になりたいと思ってたこともあったけど、実際に東京に来て、「一番やりたかったのは音楽なんだな」って改めて思うことができました。曲を出せるだけで嬉しいですけど、自分のルーツを入れながら、DJだった両親のこともこうやって話すことができる。すごく幸せなEPになったなって思います。
――ところで、音楽をやるなかではいろいろなフェーズがあるじゃないですか。曲を作るのも、歌うのも、楽器を弾くのもそうだし。あるいはライブをやるとか。KeNNさんは、その中でどの瞬間が一番楽しいですか?
KeNN:自分がこれまでやってきたことを見せることができるライブはすごく楽しいなと思います。あとは曲を作っている時。このふたつが一番楽しい瞬間ですね。自分でアレンジしてギターを弾いて、4、5時間かけて作ったものをでっかいスピーカーで聴いて、「わあ、俺やば!」って思う瞬間が好きだし、ライブでも……自分、ライブで踊ったりアクロバットしたりもするんですけど。
――アクロバットもするんですか?
KeNN:そうなんです。そういうのをした時に盛り上がってくれてるのを見ると、曲を作ってる時とはまた違うドーパミンが出て楽しくて。そういうことに生きがいを感じてますね。ライブを始めた頃はアコースティックなライブが多かったんですけど、海外でライブをしたり、アクロバットとかをするようになって気付いたのは、自分はステージ上ならエンターテイナーになれるんだなっていうことで。それをやるとすごい楽しいし、自分を偽らなくていいし、しかもそれを見てみんなが楽しんでくれるっていう。だから、いろんなことができる最近のライブはすごく楽しいですね。
■リリース情報
KeNN
『From Miseducation』
2026年4月8日(水)デジタルリリース
配信リンク:https://lnkfi.re/KeNN_FromMiseducation_260408

<Track List>
1. メマイ
2. 脱兎
3. Something Wrong
4. One in a million
5. Moonlight
6. RUST
7. sad dance.
8. One in a million (Acoustic)
■関連リンク
KeNN リンクファイヤ:https://lnkfi.re/KeNNmusic





















