“韓国の『グラミー賞』”から、BLACKPINK×国立中央博物館の歴史的遭遇まで――韓国トレンドレポート 2026年3月号
「Nike」が「Air Max 95 Seongsu」をローンチ
過去に靴職人の工場や自動車整備工場、印刷所がひしめき合っていた産業地帯から、現在では数多くのブランドショップや飲食店が軒を連ね、毎日のようにポップアップストアが大盛況を呈して客足が絶えない、韓国トレンドの最前線となった場所。いわゆる「ソウルのブルックリン」と呼ばれる聖水洞のダイナミックなナラティブが、アイコニックなスニーカーに刻み込まれた。「Nike」がブランドを代表するヘリテージモデルに、ソウルの特定地域のアイデンティティを結合した「Air Max 95 Seongsu」を2月8日にローンチしたのだ。
このスニーカーのデザインは、聖水洞という地域が抱く哲学と視覚的要素を解体し、再構築している。過去の工場地帯の荒々しいコンクリートや鉄骨構造物を連想させるフォトンダストやダークスモーキーグレー、メタリックシルバーカラーがメインとして使われ、古い外壁の質感を表現した素材のミックスマッチが際立つ。伝統的な産業資材の感性にルーツを置きつつも過去に留まらない、韓国デザインの現在地を示すとも解釈できるだろう。特にソールに刻まれた“211”のラバーパーツは、ソウル地下鉄・聖水駅の固有駅番号を意味し、ローカルエディションとしてのアイデンティティを確固たるものにしている。
今回のローンチが注目を集めた何よりの理由は、単にスニーカーという製品を超え、その町特有の歴史を尊重する“ハイパーローカル”マーケティングの真髄を見せてくれたからだ。「Nike」は華やかなデジタル掲示板の代わりに“町内新聞”というアナログな媒体を選んだ。2月初旬、聖水洞のあちこちにあるニューススタンドを通じて配布された地域新聞城東新聞の特別版には、「Air Max」のニュースだけでなく11のローカルブランドの物語とバウチャーが収められた。また、「マックス印刷所」というコンセプトスペースを通じて、かつての聖水洞の印刷業の歴史にスポットを当てる体験型ローンチイベントも展開。巨大グローバルブランドが聖水というディープな街に局地的に捧げるモデルをリリースし、彼らの過去と現在を丁寧に記録してみせた意義深い瞬間であった。
「PUMA」と「JiyongKim」の初コラボレーション
注目を集めるデザイナーズブランド「JiyongKim」と「PUMA」による初のコラボレーションコレクションが2月28日、韓国、中国、日本の3カ国で同時発売された。新進デザイナーの登竜門でもあるアワード『LVMHプライズ2024』のセミファイナリストに選出され実力を証明したキム・ジヨンによる「JiyongKim」は、化学的な人工染色の代わりに、織物を数カ月間日光や雨風にさらして自然な脱色を促すサンブリーチ技法で独自の名声を築き上げたデザイナーだ。今回のコレクションは、「PUMA」の由緒あるサッカースパイクのアーカイブと、「JiyongKim」特有の美学が遭遇した記念碑的なプロジェクトである。
「JiyongKim」は数あるアーカイブの中から、サッカースパイク「V-S1」が持つスポーツ的ヘリテージと、実験的なアプローチが可能なシルエットに注目した。彼は、アトリエに長く保管されていた残反から、歳月の痕跡として残った汚れや色褪せを単なる欠陥ではなく生地固有の美学として捉え、これをデザイン要素へと昇華させることに注力したそう。キャンバス素材のアッパーがアウトソールへと滑らかに繋がるのではなく、切断面を意図的に露出させるローエッジ仕上げを採用して粗い質感を果敢に強調し、「JiyongKim」のシグネチャーであるサンブリーチ技法から着想を得た表現を加えた。また、ブランド特有の一点モノとしての価値を込めるべく特殊素材を開発し、すべての製品が微妙に異なるパターンや質感を持つように仕上げたという。
「JiyongKim」の実際のアトリエのムードを再現した空間では、「V-S1」の初期アーカイブからコラボモデルが誕生するまでの過程を振り返る展示が行われた。一般的な視点では排斥されやすい欠陥やエイジングを高度なファッション芸術に昇華させる「JiyongKim」の美学が、大衆的なスポーツブランドと融合して作り上げられた特別なコラボレーションの誕生である。