千葉"naotyu-"直樹、作家と経営者の独自メソッド 双葉湊音プロジェクトと劇伴制作で貫く“面白さ”の探究

あえて「ピッチを外して歌う」遊び心、音声合成ソフト・双葉湊音から広がるIP展開
――音楽作家の仕事を続ける一方で、2021年6月にガソリンアレイという会社を立ち上げられました。こちらの経緯は?
千葉:理由はいくつかあるのですが、ひとつは個人事業主だとやり取りしにくい規模の案件が2020年頃から増えてきたこと。あとはコロナ禍で、自分の今後の5年、10年先を考えた時に、法人組織を持っておいた方がやれることが広がるんじゃないかと思ったんです。音楽制作自体は今まで通りSMPに一元管理してもらっていますが、その周辺のことも含めて、いろいろやれたらなと。
――その中で、現在はCeVIO AIおよびVoiSonaの青春系音声合成ソフト『双葉湊音(ふたばみなと)』プロジェクトがメイン事業になっています。
千葉:音声合成にはもともと興味があって。といっても初音ミクのようなVOCALOIDや歌うソフトよりも、喋る「トークソフト」のカルチャーが好きだったんです。ニコニコ動画でバイクの車載動画にボイスロイドで喋らせている動画をよく観ていて。僕は北海道出身で、自分の知らない北海道をあちこち旅している動画が面白いなと思って観始めたのが始まりだったんですけど、それがきっかけでトークソフトを歌わせるというニッチなジャンルを知り、趣味で自分でも作ってみたりしていました。2019年頃には、十数年ぶりに音声合成ソフトの同人即売会に参加したりして。実際に会場に行くと、半分知り合いしかいないくらいの規模感で、それこそVOCALOIDや『東方Project』のアレンジが流行る前の、その界隈の黎明期のような雰囲気が楽しくて惹かれたんです。
――面白いきっかけですね。
千葉:その後、仕事でソニーの研究者の方々と関わる機会があって。たとえば音源の分離や逆に混ぜる技術を研究している方、音楽を作るプロではない技術者の方に、作る側の視点から実用的なアドバイスをしたりする中で、音声合成のソフト開発をしているテクノスピーチさんという会社と繋がりができました。最初は裏でお手伝いするくらいのつもりだったのですが、自分でキャラクターIPを持って、それを活用する側になったらどうなるんだろう、という興味が湧いてきたんですよね。ちょうど会社も立ち上げたし、ありがたいことに事務所も応援してくれたので、始めたのが『双葉湊音』の企画でした。
――キャラクターIPにおいては、キャラクターの設定や造形が大切になりますが、双葉湊音の設定は千葉さん自身が考案したのですか?
千葉:僕ひとりだけの会社で、相談する相手もいないので自分で考えました(笑)。当初はキャラクターの名前もなくて、無印の存在でいいかなと考えていたのですが、当時やり取りをしていたCeVIOプロジェクトの方に相談したら、「さすがにそれは厳しいと思います」と助言してくださって。当時、VOICEVOXというフリーソフトで「ずんだもん」や「四国めたん」が出てきたタイミングで、爆発的に有名になったずんだもんはもちろん、四国めたんも自分のことを「漆黒のめたん」って名乗る、とても濃いキャラクター設定を持っていたので、自分にはそんな設定を考えるセンスはないなと思って。逆に「無色透明で、普通の子」という真逆の発想から生まれたのが双葉湊音でした。黒髪で白いワンピースのシンプルな子っていう。

――双葉湊音のキャラクターボイスは、声優の三澤紗千香さんが担当しています。千葉さんは、三澤さんがアーティスト活動を始めた当初から楽曲提供などで長いお付き合いですよね。
千葉:双葉湊音に関しては、企画を立ち上げようと思った段階から、引き受けてもらえるかは別にして三澤さんにお願いしたい、というのは最初から決めていました。もちろん声が好きというのは大前提なのですが、三澤さん自身、音声合成に理解がある方ということは知っていたので。やっぱりソフトになることで「仕事が奪われるかもしれない」と考える方や声優事務所さんもあると思うので。
――実際に音声合成ソフトを開発する過程や完成した感想はいかがでしたか?
千葉:最初はトークソフトを作りたいと思っていたのですが、自分の立場的に今までの知識や経験を活かせるのは間違いなくソングソフトなので、双葉湊音はソングソフトからスタートしました。音声合成ソフトを開発する場合、サンプルとなる学習データをたくさん収集する必要があって、ソングソフトの場合は歌のデータを録るのですが、CeVIOプロジェクトでは、基本的にデータの採取自体はすべてこちら側で行うんです。もちろんしっかりとした資料や情報はいただけるのですが、そのデータを学習させた結果、どんなソフトになるかは自分にはよくわからない。そんな状態で三澤さんに歌を何十曲も歌っていただいたんです。
最初のソフトは、とにかく丁寧に、ストレートな歌を歌えるものにしようと思って録らせてもらいました。僕ができることは、エンジニアとして最高に綺麗な音を録ること。マイク選びから録り音の安定感、その後のMIDIガイドデータの作成まで、これまでの音楽制作の経験をフルに活かして納品しました。テクノスピーチさんからも「データの質が素晴らしい」と褒めていただきました。その結果、出来上がったソフトはすごく使いやすくて、CeVIO AIというフォーマットの中では比較的後発組だったのですが、発売してからの評判も良くて、新規ユーザーも多かったみたいです。でも、完成してすぐに「すごく真面目なソフトを作っちゃったな」とも少し思ったんです。もうちょっと癖があるものでも面白いのかもしれない、と。
――それで、新たに開発したのが、3月27日にリリースされる全力系ソングボイス「ふたばこみなと」というわけですね。
千葉:そうです。双葉湊音の幼い頃をイメージした「ふたばこみなと」というキャラクターを作りました。双葉湊音のトークソフトを作った際に、感情値の中に「幼い」という項目があって、それが本当に幼くて全然違う声にできたので、その声に合うイラストを用意して、子供っぽいキャラクターデザインにしました。音声合成キャラクターの世界では、年齢の違う姿を持っているキャラクターが他にも結構いらっしゃるんですよね。それもあって「ふたばこみなと」という存在を作って、これで歌を作れたら面白いことができるんじゃないかと。今回、3月に発売するソングソフトでは「わんぱくパラメーター」というのを搭載しました。これが僕のやってみたかったことなんですが、そのパラメーターを100%にすると、一切ピッチ通りに歌わず、好き勝手に歌います(笑)。

――ピッチを外して歌うソフト、というのは斬新ですね(笑)。
千葉:普通に使えば幼い声で綺麗に歌わせることができるのですが、パラメーターを上げるとはちゃめちゃになります。そのために、三澤さんに何十曲も、わざとピッチを外して「わんぱくな子供」になりきって歌ってもらったんです。たとえばドの音をまったくドで歌ってないんですけど、「これはドで歌っているつもりのデータです」というのを何十曲分も作って。本当に力量と物量のゴリ押し作戦で学習データを収集しました(笑)。テクノスピーチさんに相談したら「やったことがないのでどうなるかわからない」と言われましたが、個人的にどうなるか興味があったんですよね。データを精査するテクノスピーチの方は、延々とわんぱくな歌を聴かされ続けて大変だったみたいですけど(笑)。
――アハハ(笑)。デモ音源を聴かせてもらいましたが、わんぱくパラメーターが上がると歌が奔放になって、すごく面白かったです。
千葉:今、リリースに向けて音声合成の即売会に企業出展して、デモンストレーションをやっているのですが(※インタビューは2月下旬)、実際に触ってもらった人たちはみんな大笑いしてくれました。なかなか音楽ソフト触ってて爆笑することってないと思うんですけど、歌声を聴いて一発で爆笑していくっていう(笑)。そういう意味では、面白いものを作れたというのは自信を持って言えます。
――でも、ニコニコ動画の文化でも、そういう面白がれるものに注目が集まる傾向がありますから。
千葉:特に今は音声合成ソフトのクオリティがどんどん上がっていますし、生声と遜色ないような歌ソフトも当たり前に出てきてる中で、ひとつぐらいはヘンテコなものがあってもいいんじゃないかな、と思うんですよね。まあ、逆に言うとうちぐらいしかできないだろうなと思いますけど。ひとりでやっているからこそ、NGを出す人が誰もいないというのは、強みでもありますね(笑)。
――そういった音声合成ソフトの事業は、本業の音楽作家活動にも影響していますか?
千葉:すごく良い経験になっています。ソングソフトの場合、音楽作家さんやボカロPさんにデモソングの制作をお願いするのですが、普段は作家として「依頼を受ける側」の僕が「依頼する側」になることで、ディレクターの視点が持てるようになりました。作家さんに曲を依頼する際のやり取り、返ってきた曲への感想、作家さんが何を求めているのか。両方の立場を見れるようになったことで、自分が作家として仕事をする時も、より俯瞰で物事を見られるようになった実感があります。
――そういった意味ではこの先もさまざまなシナジーが生まれそうですよね。最後に今後の展望をお聞かせください。
千葉:アニメの劇伴を2作品制作して、やっぱり自分は音楽を作るのが好きだなと改めて感じました。これからも続けていきたいですし、一方でどんどん時代が変わって、今後はより自分で発信していくことが大切になると思うので、趣味でやっていることを取り入れるなり、自分の色を発信していけたらと思います。それこそ双葉の企画を通じてキャラクター展開の知識を学ぶなかで、自分の作った双葉湊音のオリジナル曲を台湾の音楽ゲーム『DEEMO II』に収録していただいたりだとか、上手いことクロスオーバーさせられる機会があるんですよね。音楽作家でありながら、いい意味で面白いこともやっていることを自分の強みにしていきたいですし、どちらの活動にもメリットがあるような、面白いことをこれからも仕掛けていきたいなと思っています。

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全力系ソングボイス CeVIO AI ふたばこみなと ソングボイス:https://www.amazon.co.jp/dp/B0GS24YPX5/
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