歌声分析 Vol.10:ゴスペラーズ 5人のメインボーカルが織りなす共鳴の極致 進化し続ける“声”を徹底解剖

北山陽一

 北山は、低音域を担うベースボーカルだ。話し声も低いため、ライブで自己紹介するだけでその低音に客席がどよめくことも多々ある。また、ライブでアカペラ曲を披露する時には、音叉を鳴らして最初の音を提示するのも北山の役目だ。彼の耳が、ゴスペラーズというアンサンブルの基準を支えていると言っていい。北山の強みは、低音以外の音域でもメロディを歌うことができるところ。スイートソウルなミディアムバラード「東京スヰート」(2001年)では歌い出しを北山が担っているが、ウォームで芯のある歌声で、メロディを丁寧に紡いでいる。同曲では、メロディと呼応するように、曲を通して北山のコーラスが反復的に挟み込まれるが、温度や湿度、リズムも一定でありながら、切ない感情をしっかりと歌声に滲ませている。

ゴスペラーズ 『東京スヰート』30th Anniversary Edition

 「VOXers」(2019年)は、ゴスペラーズがデビュー当時から提示し続けたアップチューンのアカペラ。似たメロディパターンを、5人がそれぞれの音域で歌い紡いでいく斬新な1曲となっている。〈ボディを狙った低音波 wow/選びな ガードを下げるのか ダウンするかを〉というフレーズを、北山はベースボーカルの音域で歌っているが、驚くべきは〈選びな〉の“な”で、低音域のままファルセットのようなアプローチを繰り出しているところである。

ゴスペラーズ 『VOXers』Full Ver.

安岡 優

 最後は、安岡 優。彼の歌い手としての個性は、歌声の湿度のコントロールに長けていることだ。メインボーカルを担う際には鼻腔を通した甘い響きを作り出すことで、独特の声音を放つ。デビュー30周年ツアー『G30』でも披露されたポップなミディアムアップチューン「それでも恋はやってくる」(1996年)で、安岡は抜群のリズム感で言葉をしっかりと聴かせ、ブレスまで湿度をコントロール。メロディが甘く響きすぎないようにしている。さらに、サビでは芯の太いロングトーンを伸びやかに披露している。

そして僕は恋をする

 しかし、甘いだけで終わらないのが、安岡の湿度だ。「PRINCESS☆HUG」(2016年)のイントロでは、安岡のフェイクが2回登場する。母音を空気に溶かすような処理で大人の艶っぽさを醸し出している点は共通しているが、音域の違いで異なるニュアンスを印象付けている。フェイクの一瞬だけでも、声音を使い分けているのがわかるだろう。安岡は歌い出しの〈何でも言っていいよ 何度も言っていいよ/今夜君が Princessさ〉を担当。冒頭から頭韻を踏む歌詞だが、安岡は一瞬だけ小さく“ん”と発音してから〈何でも〉と歌い出している。対して〈何度も〉では冒頭からジャストで入り、口語体の歌詞を相手に向けて言った台詞のように処理している。

PRINCESS☆HUG

 こうして並べてみると、ゴスペラーズの5人は声質も歌唱スタイルも驚くほど異なっている。村上のR&B的ファルセット、黒沢のハイトーン、酒井のリズム感と言葉の立たせ方、北山のアンサンブルの軸となる低音、そして安岡の湿度のコントロール。重要なのは、こうした声の違いが単なるキャラクターの差にとどまらず、彼らの音楽そのものを形成していることだ。そして、その個性はライブでこそ本当の意味を持つ。5人それぞれの声が立体的に絡み合いながら、主役(メインボーカル)が入れ替わっていく。それぞれがメインボーカルとして成立する個性を持ちながら、その声が重なった瞬間に美しい音像として機能する。

 今年は夏前の新譜リリースに加え、8月から12月にかけて全国ツアーの開催も決定している。歌う場所があるならどこへでも行く――デビュー時から一貫してきたこのスタンスを、彼らは積み重ねた実績によって確かな武器へと変えてきた。5人のボーカリストが呼吸を共有しながら鳴らす、声によるライブアンサンブル。これが、ゴスペラーズの正体である。

※1:https://www.oricon.co.jp/prof/71406/rank/single/

「侍ゴスペラーズ」 ゴスペラーズ 30周年記念祭@日本武道館 2024.12.21

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