PinkPantheress「今はXGも好き」 日本カルチャーからの影響や創作の源泉を聞く【初来日インタビュー】
ちょうど今年のグラミー賞の受賞式の結果を眺めていた頃、このインタビューのオファーをもらった。「最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞」をFKA twigsの『EUSEXUA』(2025年)が獲得したというニュースに喜んでいたところだった。Charli xcxを筆頭に近年のUKの女性プロデューサーによるダンスミュージックの存在感は増すばかり。彼女たちに共通するのが、UKガラージやドラムンベース、2ステップなどY2K的なベースミュージックを再解釈している点だ。かつては白人男性中心だったエレクトロニックミュージックシーンの一翼を現在担っているのが有色人種も含む女性たちであることは特筆に値する現象だろう。
ただ、FKA twigsやCharli xcxらは、筆者と同世代のミレニアル世代。今回、待望の初来日公演を果たした(2024年の『SUMMER SONIC』はコンディション不良により出演キャンセルとなっていた)PinkPantheressこと、ケニア系イギリス人であるヴィクトリア・ビヴァリー・ウォーカーは2001年生まれのZ世代ど真ん中だ。上の世代からの刺激を受けてか、こうした若い世代 ーーリバイバルとしてではなく、新しい音楽としてY2Kサウンドを捉える世代も台頭しているが、その中でもグローバルレベルで人気の獲得に成功しているのがこのPinkPantheressである。
K-POPや日本の「kawaii」文化とも通じるガーリーな魅力もある傍ら、音楽、ビジュアル面ともに「UKらしさ」を打ち出すスタイルも目をひく彼女。TikTokへの投稿でブレイクした経緯を思うに、そのコラージュ的な「UKらしさ」が、国外の若者にとってかえって新鮮に感じられた側面もあるのだろう。実際、ミラノ・コルティナオリンピックのフィギュアスケート女子シングルで優勝したアリサ・リウはPinkPantheressの大ファンを公言しており、エキシビションに直近作『FANCY THAT』(2025年)から「Stateside」を起用したことからも、とりわけアメリカの若年層の間での支持を獲得していることが窺える。
……などと書いている最中、「PinkPantheressがブリット・アワードでProducer of the Year(最優秀プロデューサー賞)を最年少で受賞」というニュースが飛び込んできた。そして、1977年の賞設立以来、女性がこの賞を受賞したのは初めてのこと。今まさに変わっていく時代を切り拓いている彼女への、このタイミングでのインタビューは貴重だろう。限られた時間であったためもう少し深掘りしたい部分も多かったが、時の人の、自分のスタイルや表現に対する今の想いをぜひ感じ取ってもらいたい。(井草七海)
PinkPantheressのルーツミュージックとカルチャー
ーーあなたの音楽のベースになってるUKガラージやドラムンベースという音楽は90年代生まれの私の世代にはノスタルジックに感じるんですが、2000年代生まれのあなた自身が初めてY2K的な音楽に触れた時には、正直なところ実際どのように感じたのでしょうか?
PinkPantheress(以下、P):私はその音楽がピークだった頃に生まれているので、私にとっては懐かしいというよりも「新しい」かな。でもUKの人にとって、そうした音楽はそもそもラジオから自然に流れてくる音楽っていう感じなんだよね。UKって、あらゆる時代の音楽が常にかかっているので。Y2Kの音楽に初めて触れた時も、自分にとっては自然な感じがした。でもそれが、アメリカの同世代の人たちにとってはすごく新鮮に思えるんじゃないかな。それって新しい発見だなって思う。
ーーY2K的なエレクトロニック・ミュージックを取り入れながらも、Paramoreのヘイリー・ウィリアムスやMY CHEMICAL ROMANCEなどを音楽活動の原点とも公言するなど、あなたの音楽は幅広いジャンルにインスパイアされていますよね。アイス・スパイスなどヒップホップのアーティストともコラボしたり、ジャンルにとらわれないポップアイコンを目指しているようにも思えます。その一方で、直近作の『FANCY THAT』ではアンダーグラウンドなダンスミュージックに打ち込んでもいて、そうした二面性があなたの面白いところでもあります。
P:そう、そうやってメインストリーム・ポップとオルタナティブ・ポップのバランスが取れたアーティストが好きだし、ロールモデルでもあるんだよね。例えば私はレディー・ガガが大好きだけど、彼女はそれができてるアーティストだと思う。マドンナもね。 そのバランスがあれば、ファンの人が好きなものをちゃんと提供しながらも、自分が好きなこともちゃんとやり続けられるでしょ。そういうアーティストに魅力を感じるし、自分もそうでありたいと思ってる。
ーーところで、音楽を始めるにあたってあなたが影響を大いに受けたというBasement Jaxxも含め、エレクトロニックなダンスミュージックはかつては白人男性中心のジャンルでしたよね。でも、グラミー賞であなたと同じアワード(エレクトロニック/ダンス・アルバム賞)にノミネートされて受賞したFKA Twigsなどが象徴的な存在としてシーンをリードしていたりと、特にUKでは有色人種の女性プロデューサーの台頭も目立っています。そうしたムーブメントの中で、それこそUK出身のあなたが発信できることについてどう考えていますか?
P:自分が影響を受けたものを人々に伝えることってすごく大事だと思ってる。で、やっぱり私が影響を受けたのは、女性のアーティストのほうが多いんだよね。 M.I.A.やニア・アーカイヴスもそうだし、ジャネット・ジャクソンもそう。彼女たちこそが、今のムーヴメントを作り上げてきてくれた存在だと思う。でもそれ(筆者注:女性プロデューサーによるダンスミュージック)って、シーンの中ではまだまだニッチなジャンルではあると思う。それこそまだ、限られた“バブル”の中の盛り上がりって感じはするんだけど、ゆっくりとそれがもっと強いインパクトを人々に与えられるようになってきている。 だからそれを私も繋げていきたいなと思っているところ。
ーー『FANCY THAT』のリリックについても聞かせてください。官能的でどこか切実さも感じられるけれど、自分の部屋のベッドで物思いに耽るような気怠いムードが、何より最も特徴的に感じました。こうしたムードは何かあなたの世代に共通する感覚と言えるのでしょうか? それとも世代感とは関係なく、あなた自身の今の感覚に近いものなのでしょうか?
P:個人的な感覚だと思う。自分が受けているインスピレーションやリリックの書き方って、自分にとって特別なものだと思うから。でも確かに私よりも上の世代とは少し違うようにも思う。少し上の世代の人の歌詞の方が、もうちょっとエモーショナルで感傷的かもしれないよね。
ーー『FANCY THAT』は先ほども触れたように音楽的にはY2K的なビートや大げさなシンセサウンドを使ったりと、どこか非現実的な高揚感もありますよね。メランコリーと、このプラスティックな高揚感が同時にこのアルバムには宿っていると思いますが、ここにはどういうメッセージが込められているのでしょうか?
P:このアルバムでは自分に自信がついていることを全面に出したかったんだよね。だから、リリックもサウンドの面でも以前より自分自身をさらけ出したし、「何かを決めるのは自分」ということを強調した。それがこのアルバムのメッセージね。 コントロールの主導権を握っているのも自分だし、運命を決めるのも自分っていうことを伝えたかったの。
ーー「自分らしさ」といえばあなたのビジュアル表現やファッションも重要な要素ですよね。あなたをポップ・アイコンたらしめているポイントだと思うのですが、その上で興味深いのは『FANCY THAT』のジャケットの王冠のモチーフや電話ボックスのコラージュなど、UK的なデザインを頻繁に用いるところです。ちょうど今着ているジャケットもそうですが、トラッドでありながらパンキッシュでもあり、ヴィヴィアン・ウエストウッドの美意識にも近いものがある。タータンチェック柄はMVにも使われていますし、そして当然、UKガレージもとても今のUKらしさを切り取ったサウンドだと思うのですが。
P:「UKらしさ」っていうのは、自分のファッションや作品の世界観を表現できるいいツールだと思っていて。なんというか、ユニフォームみたいな感覚なの。そのユニフォームがアルバムの世界観を作り上げるのにすごくいい役割を果たしてくれるし、助けになってくれる。ファンの人もその世界に入り込みやすくなるしね。 だから、こういうタータンチェックとかもそうだけど、自分やみんなにとって身近なパターンを選んだりするわけ。あとやっぱり私は、UK出身なので、それを表現するのも重要なことだと思っていて。 違う出自のものを無理やりするのではなくて、自分から出てくるものを表現するというのを大切にしているから。その方が自然だし、心地よくも感じるんだよね。
ーーただ、あなたはそのようにUKらしさを全面に表現しつつも、K-POPからの引用やコラボをしたりと、自身とは遠い国のカルチャーの影響も柔軟に受けていますよね。あなたのビジュアルやファッションは日本的な「原宿系」や「カワイイ」とも近い印象があるようにも感じますし。せっかくの来日なので、何か日本の音楽やカルチャーで関心を抱いているものや親近感を抱くものがあったら教えてください。
P:子供の頃は日本のアニメも見てたし、テレビゲームもよくやってたよ。今はXGも好き。
ーーあなたのような今のUKの20代の人たちは、特別に日本のカルチャーに興味があったり“オタク”だったりしなくても、子供の時にアニメやゲームに自然に触れるものなんですか?
P:そう、割と普通に。ちょっと言いづらいけど、違法にアップロードされているものをウェブサイトで見たりね。あとDVDを買って見たりもしてた。友達もみんな見ていたと思うよ。私は日本のアニメのオープニングがすごく好きなんだよね。あとマリオとかソニックとか、ゲームのサウンドのコードも面白いと思ってて。自分があえて意識してなくても、どこかしら気付かないうちに影響されている部分はあるかもしれない。そういえば、 今回のアルバムのプロデューサーのオスカーが「キングダム ハーツ」が大好きで。私に作ってくれたビートの一つが「キングダム ハーツ」に影響されたものだったりするんだよ。
ーーそういえば日本のTVアニメのオープニングって「89秒」と決まっているんですよね。そういったごく短い尺の中で心を掴む工夫は、あなたの音楽の“短さ”に通じるところがあるのかも。
P:もしかしたらね。