BUCK∞TICK、喪失の痛みを知って手にした比類なき強さ 日本武道館に刻んだレジェンドバンドの現在地

 BUCK∞TICKの今の魅力を、何に例えたら上手く伝えられるだろうか? 2025年12月29日、日本武道館公演『BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下-』を会場で観た後すぐに想起したのは、サモトラケのニケ(※サモトラケ島で発見された勝利の女神ニケの彫刻。頭部と両腕を欠いているが、前に踏み出すダイナミックなポージングが美しく神々しい)だった。欠落を何かで埋めることなく、喪失の痛みを抱えたまま、新しい形を築き上げた4人。その姿は強くて美しかった。

 BUCK∞TICKにとって通算44回目の日本武道館公演で、年末恒例の連続公演としては25回目。その模様が3月8日(日)午後9時から、WOWOWにて放送・配信される。今井寿(Vo./Gt.)がライブ中に「3月のWOWOWベイベー!」とカメラ越しに呼び掛けていた、まさにその未来が、遂に訪れるのだ。『ナイショの薔薇の下』というタイトルを掲げるのは2024年末公演に続き2度目。同年12月にリリースした、4人体制になって初のアルバム『スブロサ SUBROSA』を携え、ホールやライブハウスを駆け巡った2025年のツアーファイナルという位置付けになる。

今井 寿

 開演すると、切り絵のような薔薇の巨大なオブジェが上昇していき、神聖な誓いの場を司るようなその美しくも厳粛な薔薇のモチーフの下で、今井、星野英彦(Vo./Gt.)、ヤガミ・トール(Dr.)、樋口豊(Ba.)がパフォーマンスを繰り広げていく。ツアーだけでなく2025年は各種フェスにも参加し、新規ファンを獲得。ライブを積み重ねることで磨き上げてきた表現を、堂々と繰り出していく。音楽と映像がシンクロし、奇妙な夢のような、あるいは潜在意識に働き掛ける前衛アートのような手法で表現されてきた『スブロサ SUBROSA』の深遠な世界観が、集大成を迎えたこの日。それは、4人体制の礎が固まったことを示す、エポックメイキングな公演だった。

 不動のオリジナルメンバー5人で活動してきた彼らが、4人のBUCK∞TICKとしてなぜ存続し、魅力的なライブを届けることができているのか? 偉業の背景には、メンバーそれぞれの進化と覚醒があり、同時に、それを支える不変の軸があるように思える。

星野 英彦

 暗闇の中、ギターを掻き鳴らしながら今井が〈俺たちは独りじゃない〉と歌い始め、アルバム1曲目でもある「百万那由多ノ塵SCUM」でライブは幕を開けた。闇に浮かび上がる髪は、血を思わせる赤。覚悟を問われるタイミングで、いつも今井が選んできた色だ。『スブロサ SUBROSA』は17曲入りの大作で、インストゥルメンタルも魅力的な見せ場に仕上げ、内16曲を披露した。アンコールでさらに新曲が2曲。ストイックなまでに過去を振り返らない姿勢が貫かれている。ライブでの今井は無言が常だったのも、今や過去。別人のようなアクティブさでライブを牽引している。時にはハンドマイクで歌いながらステージを闊歩し、気持ち良さそうに「フ~!」などと声を上げ、ファンを煽り、マッドサイエンティストのような手付きでシンセサイザーを操作しては、摩訶不思議なサウンドを奏でていく。「ガブリエルのラッパ」で聴かせる舌鋒鋭いラップを交えた歌唱、フロントマンとしてのカリスマ性は圧倒的。ツアーを経てその凄みは増しており、このライブでは戦慄したほどである。

 上述の今井同様、いやそれ以上にボーカリストとして覚醒し、ファンを驚かせているのは星野ではないだろうか? 「武道館! 腰を振ってもらえますか?」と呼び掛けてクラップを先導し、身をゆったりと揺らしながら艶めかしく歌った「paradeno mori」、〈君は もう 優しい光〉と温かな声色で包み込んだ「絶望という名の君へ」。主旋律を担うこの2曲だけ取っても、歌唱表現の幅は広い。また、タイトル曲「スブロサ SUBROSA」ではメタルパーカッションを鋭く打ち鳴らして強烈な存在感を示し、インダストリアルバンドのライブかと目を疑うようなアグレッシヴさを体現。どちらかと言えば静的で、前へ前へと出るタイプのギタリストでは決してなかったはずの星野が今や豹変し、観る者を虜にしている。ステージ中央には今井と星野のシンセサイザーが互いに向き合う形で設置されており、サウスポーの今井のギターネックが向かって左に、星野のそれが右に伸びることによるシンメトリーの美が、より一層強調されている。二人がこうしてフロントに並び立つようになった背景に、それを引き受けた星野の並々ならぬ覚悟があるのを感じ、胸が熱くなるのだった。

樋口 豊

 音源制作でどれほど打ち込みを駆使し、実験的で摩訶不思議なサウンドを取り入れても、BUCK∞TICKのライブがロックバンドとしての身体性、人間らしい鼓動のリアリティと体温を必ず保っているのは、アニイの愛称で親しまれるヤガミと、ユータこと樋口によるリズム隊兄弟による実直な貢献がある。トレードマークであり続けている高く聳え立つヤガミの髪型や、曲によっては仁王立ちでベースを構え、艶やかな重低音を粛々と爪弾く樋口の硬派な立ち姿などが象徴するように、2人の根幹が不変であることが実はBUCK∞TICKの要。バンドとしての連続性を保ちつつ、今井と星野の急激な変化を受け止め、4人での新しいバランスを実現し得たのではないか? とも思える。

 最年長のヤガミは還暦を超えてなお衰えるどころかパワフルさを増し、一打一打粒立って音が聴こえる精緻なプレイには終始、驚愕させられてばかりのライブだった。アンコールで他のメンバーに先駆けて登場し、披露したドラムソロは圧巻。大地のエネルギーそのもののような躍動感をぜひ、WOWOWで味わってほしい。2人は一段高い後方に立ち位置を構えているが、4人体制になってからの樋口はこれまで以上に頻繁に前へ出て、今井、星野と並んでのパフォーマンスも見せている。この日も2曲目の「雷神 風神 - レゾナンス #rising」で早々に、クラップを自ら誘いつつ降りてきて、場内の空気を明るくさせていた。客席を見ながら、心底楽しそうに身を揺らし笑顔でプレイする表情を、WOWOWの映像ではハッキリと確認できる。硬派なプレイと矛盾なく共存する、そのチャーミングな人柄は画面越しにも十分に伝わってくるはずだ。

ヤガミ・トール

 本編のラスト、天使の梯子が掛かった幻想的な彩りの空の映像を背に、今井は「3000年後の荒野で会おうぜ。必ずだ!」と力強く告げた。音が鳴り始める前の束の間の静寂。樋口が身体をステージ中央側に向け、天をじっと仰ぎ見るシルエットが浮かび上がる。思えば、ライブ開幕時にも樋口は同じように天を見つめていた。たとえ目には見えなくとも、常にその存在を胸に宿し続け、再会を願う大切な人へ向けて、祈りを捧げているように見えた。始まった曲は、「黄昏のハウリング」だ。哀切を帯びた歌もそうだが、今井が掻き鳴らす激しく長いギターソロは雄弁で、傷を負った獣の慟哭のように聴こえた。

 アンコールの前半はカラッと明るく、「渋谷ハリアッパ!」「風のプロローグ」と新曲を畳み掛けていった。アンコール終盤、ツアーでもラインナップされていた「Baby, I want you.」に続けて放ったのは、4人体制では初披露となる「スピード」。今井がイントロの分散和音を一弾きした瞬間、これから始まる曲を察知した観客は、万感の想いを溢れさせるように大歓声を上げた。代表曲の一つに数えられるシングル曲を、またこうしてオリジナルアレンジで、今日この場所で聴けるとは。それは予想外の、想像以上にうれしい贈り物だった。偉大なるボーカリスト櫻井敦司と共に歩んできた過去は、失われたわけでは決してなく、一人ひとりの記憶の中に大切に保存されていて、こうしていつでも再会することができるのだ、と。消えてしまった過去ではなく、宇宙のどこかに、歴史として未来永劫残るのだ、と。そう教えてくれているようなひと時だった。泣き笑いであったかもしれないが、ファンは笑顔で、メンバーも晴れやかな表情を浮かべていた。

 「ベイビーズ! ありがとう。美味しい、気持ちいい乾杯がこれでできます。皆も乾杯してください。今日はハレの日。ガガガガッと! 自分の信じた道をまっしぐらに突き進んでください、バイバイ、また会いましょう、PEACE!」と最後の挨拶をした今井。メンバーそれぞれに、2026年の抱負を笑顔で語っていた。傷も癒えないうちに立ち上がり、たった2年余りで4人体制へと変革を遂げたBUCK∞TICK。前進し続けるレジェンドが示唆することは、あまりにも多い。バンドの底力、人間の秘めた可能性というものの果てしなさに驚かされたライブを、WOWOWでぜひ目に焼き付けてほしい。

■WOWOW番組情報
BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下- at 日本武道館
3月8日(日)午後9:00
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~1カ月間アーカイブ配信あり

 年末恒例12月29日のBUCK∞TICK日本武道館公演を独占放送・配信!アルバム『スブロサ SUBROSA』、その世界観が完結する特別な一夜。

収録日:2025年12月29日
収録場所:東京 日本武道館

【番組サイト】
https://www.wowow.co.jp/music/bt/

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