日食なつこ、文明開化の薫り残る場所で響かせた今の表現 年の瀬に締め括ったコンセプトツアー

 日食なつこがピアノ弾き語りソロツアー『令和モダニズム II “lapin”』のファイナル公演を12月28日、香川県旧善通寺偕行社大広間で行い、ツアーを締めくくった。このツアーは2022年にも行なった全国の歴史的建造物や、趣ある会場を巡るコンセプトツアーで、最終地・旧善通寺偕行社も旧陸軍の師団将校の社交クラブとして明治36年(1903年)に竣工した重要文化財だ。会場の大広間は美麗なシャンデリアが目を引く、社交の場ならではの華やぎを感じさせてくれるモダンな作りで、日食を迎えるオーディエンスの拍手の響きも心なしが上品に聴こえる。

 粒立ったピアノの音が響きオープニングナンバーは1stシングルの表題曲「ヒーロー失踪」だ。15周年企画の最後に開催されたベストアルバムツアー『エリア現在』から5月に5thフルアルバム『銀化』をリリースし、Zeppクラスでのツアー『玉兎 “GYOKU-TO”』で研ぎ澄まされたバンドサウンドでオーディエンスの心を揺さぶったかと思えば、次に彼女が選んだのは、自身の現在地を確認するような、ピアノを相棒にした“一人旅”だ。時代を刻み、先人たちが紡いだ文化の薫りが“趣”という空気になって残る「場所」で、今を生きる表現者が歌とピアノで生き様を響かせた。

 「ビッグバード」「黒い天球儀」、そして「120年を越えた建物で、今から74年後の歌を歌います」と「2099年」を披露するなど、前半戦だけで普段なかなかスポットが当たらない曲が多いことに気づく。その理由を日食は「2024年は代表曲を感謝の気持ちを込めて歌って、2025年は新しいアルバムを発表して、夏フェスでまた代表曲を披露しました。ツアーでも新しい曲を歌って、マイナー曲がどんどん潜っていった。このいぶし銀的なザラついた輝きを放つ曲達に光を当てて、一年を総括したかった」と説明した。

 日食のピアノの音色はひとつひとつがリフでもあり、旋律でもあり、ひとりでバンド、オーケストラのサウンドを構築しているのだと再確認できた。だから歌がよりドラマティックに伝わってくる。〈依存し合って生きることがこれほど怖くて幸福だとは〉〈依存し合って見る夕日がこれほどまでに瑞々しいとは〉という歌詞が印象的な「ハッカシロップ」は、日食の人としての大きな“気づき”を歌い、アカペラからの「夕闇絵画」はピアノの音が芳醇な薫りを漂わせ、メランコリックな空気が、会場が醸し出す空気と溶け合う。

 最新アルバム『銀化』からの「ラスティランド」は光と影が鮮やかに映し出された音像と歌がドラマティックで、一瞬の静寂の後披露された地元・岩手の一度存続の危機に立たされたデパートのことを歌った「あのデパート」への流れは胸に迫るものがあった。

 「ギアをあげていきましょう」と投下した「四十路」では客席から手拍子と合唱が起こり、「ヘールボップ」では激しく打ち鳴らされるピアノが体と心に響いてくる。「いい春が訪れますように」と「なだれ」のイントロが聴こえてくると、大きな拍手と声援が会場を包む。軽快なピアノの音がショウの終わりを告げるように鳴って「appetite」だ。ポップなメロディに乗せ〈僕らしさなど僕が決めても変えてもいいはずだよ 裏切っていこうじゃないか〉と歌い、来るべき2026年に向けそこにいる全ての人の気持ちを前向きに導いてくれる。「以上、ラパンの旅、終わり。」と締めくくり大団円だ。

 〈現在過去未来〉というフレーズが印象的な昭和のヒットソングがあったが、自分の現在地にしっかり立ち、そして確認し、そこから過去を振り返り、次にどこへ向かいたいのか、未来に何をすべきなのかを掴む——年の瀬の香川で、そんなメッセージを日食なつこから受け取った気がした。

日食なつこ HP:https://nisshoku-natsuko.com/

関連記事