M!LK、AiScReam……作家・Hayato Yamamotoが語る2025年大ヒット曲の裏側、ロジカルな仕掛けとライブの熱狂

 M!LK「イイじゃん」やAiScReam「愛♡スクリ~ム!」をはじめとした多数の楽曲が大きな広がりを見せ、作家・Hayato Yamamotoにとって大きな転機の年となった2025年。“バズ”の裏側にあったのは、ジャンルや作品への深い理解、徹底したライブ視点、そして“嘘のない音楽”への強い信念だった。本インタビューでは、話題曲の制作背景やヒットの手応え、バンドマン時代の原体験から作家への転身、音楽に向き合い続ける理由、そして次に見据える未来までを、Yamamotoにじっくりと語ってもらった。(編集部)

M!LK「イイじゃん」制作秘話、〈今日ビジュイイじゃん〉が生まれた理由

――2025年は、Yamamotoさんが制作に携わったM!LK「イイじゃん」やAiScReam「愛♡スクリ~ム!」といった楽曲が大きなヒットとなりました。ご自身としてはどんな年になりましたか?

Hayato Yamamoto(以下、Yamamoto):制作ベースでお話しすると、今挙げていただいた曲はどちらも2024年に作ったものなので、2025年がスタートした時点では僕ができることはすべてやり終えていたんですよね。そんな中で、その2曲がたくさんの人に聴いていただける曲になったがゆえに、ほかの制作で「自分は本当にいい曲が書けているのか?」と不安になることもありましたし、大きな成功例ができたからこそ自分の作る曲をどういう風にパフォーマンスしてくださるのか、より想像を濃くして制作に取り組みたい気持ちが強くなりました。忙しさが増したうえに濃さも求めるようになったので、二乗で忙しい1年だった印象です(笑)。

――楽曲に対する世間の反応については、どのように受け止めていましたか?

Yamamoto:自分が音楽をやっていくうえで、おじいちゃん、おばあちゃんから子供にまで行き届く曲を作るという目標があったので、その夢が叶ったような感覚がありました。僕らの世代は、子供の頃に『おかあさんといっしょ』(NHK総合)のエンディングで流れていた「スプラッピ スプラッパ」が誰でも知っている楽曲だと思うんですけど、それと同じように、もしかしたら今の子供が大人になった時に“あの頃の懐かしい曲”として挙げてくれるような曲になったんじゃないかと思っていて。海外の作家とやり取りしている時に「あの曲めっちゃ流行ってるよね」と反応してくれたり、実家の家族や親戚からも「会社の人たちもみんな知ってたよ」と言われて、本当にいろんなところに届いていることを実感しました。

――M!LK「イイじゃん」に関しては、第67回『輝く!日本レコード大賞』で優秀作品賞を受賞。M!LKが初出場する『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の歌唱曲になることも発表されました。

Yamamoto:自分の制作した楽曲が大きな賞を受賞するのは初めての経験だったので、そのニュースを聞いた時は思わずガッツポーズしてしまいました(笑)。僕が所属している音楽事務所のMUSIC FOR MUSICでは、僕より上の世代の方たちが受賞などの実績を上げていたのですが、その下の世代が『レコ大』に関わるのは初めてということもあって、本当に嬉しかったです。

M!LK - イイじゃん(Official Music Video)

――「イイじゃん」は、MUSIC FOR MUSICの先輩クリエイターであるKanata Okajima(岡嶋かな多)さんとのコライト(共作)で制作した楽曲です。サビで曲調がガラリと変化する構成が特徴的ですが、どのように制作を進めたのでしょうか。

Yamamoto:実はあの原案は、M!LKさんの制作サイドからご提案いただいたアイデアなんです。もともとはソリッドなサウンドで統一して、もっとクラブミュージックっぽい方向性で考えていたんですよね。まず岡嶋さんとサビを数パターン作ってご提案した中で、最終的に決まったのが今のテックハウスのサビだったのですが、そこにあのイントロから始まるキラキラしたポップス調の曲をくっつけたいというお話しをいただいて。M!LKさんに楽曲提供するのはこれが初めてだったのですが、過去の楽曲に触れてグループとしてのカラーは把握していたので、その発想はすごく納得がいくし「面白い!」と思い、これは思い切りやった方がいいだろうなと考えて制作を進めました。たぶん、初めて聴いた人は驚いてズッコケるんじゃないかなと思いながら(笑)。

 ただ、音楽的にはちゃんと整合性のある作り方をしています。パッと聴きは不思議な楽曲になっていますが、メジャーとマイナーのキーがちゃんと合うように、転調を繰り返していった先で正しいキーになるギミックになっていて。そこはロジカルに統一したほうが、ポップスとしての音楽の強度が上がると思ったので、奇抜ではありますが決してめちゃくちゃな楽曲ではないという。

――サビの〈今日ビジュイイじゃん〉というフレーズがTikTokなどのショート動画で人気を集めてヒットに繋がった経緯があります。作詞する際にはどんなことを意識しましたか?

Yamamoto:僕は、そのアーティストがライブでどんな風にパフォーマンスするかを想像しながら楽曲を作っていくのですが、M!LKさんの場合は、メンバーの皆さんがめちゃくちゃイケメンなので、顔をしっかり見せていく振りがつくといいな、という気持ちがあって。なおかつ、音に対するハマりのよさだけでなく、M!LKさんを応援している世代の方たちに違和感なく届く言葉で構成したくて、〈今日ビジュイイじゃん〉というワードが生まれました。

 全体のコンセプトとして考えていたのは、“お互いを褒め合う”ということです。たとえば、日常で友達や身近な人に「あ、なんかその靴めっちゃいいね」とか「髪型変えた? 似合うね」って褒められるとちょっと嬉しいじゃないですか。それをM!LKがやってくれるというイメージで、自分たちのビジュがいいことをアピールするだけでなく、M!LKに「あれ、君、今日イケてるね」と言われたら嬉しくなるだろうと思って作っていきました。

イイじゃん(from M!LK CONCERT TOUR 2025 "M!Ⅹ")

――その中で褒める対象として“ビジュ”という言葉を使っているのが秀逸で、色んなシチュエーションに当てはめられるフレーズになっているからこそ、楽曲のインパクトを含めてバズを引き起こしたのだと思いました。

Yamamoto:ありがとうございます。“ビジュ”は人間だけじゃなくて、ほかの対象にも使える言葉だと思っていて。僕は最近、SNSで動物の動画をめっちゃ見るんですけど(笑)、「うわ、この子ビジュいい!」みたいなワンちゃんがいたりするんですよね。人間だったら絶対に美形だろうなっていう。なので対象が男性でも女性でもなくていいし、人間ではないものにも使える言葉がいいなと思って、「ビジュを褒める」という発想にいきつきました

――『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」』大賞に「ビジュ」が選出されるなど、この言葉自体が大きくフォーカスされるきっかけにもなりましたね(※1)。

Yamamoto:正直、そこまでの反響があるとは思ってなかったですね。若い世代をはじめ普通に「ビジュいいね」みたいな感じで使っていたと思うので。でも、誰もが使っている言葉だったからこそ、満を持して世の中に広まったのかもしれないですね。

――この楽曲の広がりに関しては、どのように受け止めていましたか?

Yamamoto:M!LKさんの活動からは、これをきっかけに「何が何でもブレイクするぞ!」という気合いみたいなものをすごく感じて。そして、アーティストさんをはじめ、レーベルや事務所の方々、プロモーションに携わってくださったすべての方々のお力との掛け算の結果だなと思っています。なので、もちろん僕らは楽曲を作るところまでは全力でやりきっていますが、やはりアーティストさんが作った曲であり、その結果だと、強く感じています。

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