勢い衰えぬDECO*27の活躍、職業・ボカロPの多様化、リアルイベント需要増……2025年VOCALOIDシーンの注目トピック総括
重音テト以降に広がるソフトの多極化、拡張するリアルライブ
また、多様化が進んでいるのは作り手だけではない。文化の要となる音声合成ソフトも、年々その人気はシーン内で分散の一途を辿っている。Synthesizer V化を契機として爆発的に支持が広まり、今やその人気は初音ミクに迫る勢いの重音テト。また、その影響を受けてか、足立レイやナースロボ_タイプT、ゲキヤク、カゼヒキなどのフリー歌唱ソフト・UTAUとして長年支持されてきたキャラクターたちも、2025年はソフト移植や使用曲が都度話題を集めてきた印象だ。
さらに、海外人気から今まさに火が付き始めているSynthesizer V AI Yi Xiや星尘Infinity、キャラクターボイスを担当するしぐれういの人気も支持の一端を担う雨衣、AI技術との共存を模索する梵そよぎも、今のシーンを語る上では欠かせない存在だ。初音ミクという象徴的な存在は今後も色褪せることはないだろうが、これからは多様な歌姫たちが生まれ行く可能性もあるのかもしれない。
そして最後に、VOCALOIDカルチャー関連のリアルイベント需要の高まりについても、今年の重要トピックとして本稿で触れておきたい。これまで長年国内外で『マジカルミライ』や『初音ミクライブツアー』といった、“オリジナル”の初音ミクをメインに据えたライブイベントがクリプトン・フューチャー・メディア主催で開催されてきた。だが、2025年は先述の『デコミクライブ』や企業50周年を記念するローソン主催の初音ミクライブなど、従来のイベントとは異なる切り口のコンセプチュアルなライブも相次いで開催された。また、『VOCALOCK MANIA』や『NIGHT HIKE』などのクラブライクなネットカルチャー発のリアルイベントも盛況で、その熱量はドワンゴとSOZOによる連携プログラム『Asia Creators Cross』を通じて国外へも波及し始めている。
さらに特筆すべきは、これまでVOCALOIDシーンとはやや距離のあったロックフェスシーンへの明確な文化流入だ。その最たる事象が、かいりきベアや煮ル果実らVOCALOID発アーティストによるフェス出演である。元来は非対面のインターネット上で楽しめることが強みだったVOCALOID音楽が、リアルイベントで求められる現状は、一見アンビバレントにも映るだろう。しかし、カルチャーの起点となる“同人音楽”において、“同人即売会≒リアル・対面”の機会が非常に意義深い場だったことを考えると、上記のようなフェス出演はある種、文化の原点回帰でもあるのかもしれない。
こうして振り返ると、2025年はいち音楽ジャンルとしてのみならず、位置カルチャーとしてのVOCALOIDにとって、多様化と転換点を内包した1年だったように思う。今や日本が世界に誇る資産となった音楽文化が、今後どのような進化を遂げていくのか。2026年以降もその行く先を見守っていきたい。
※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/156167/2
※2:https://x.com/DECO27/status/1978408910303236505