Sparksの創作意欲はなぜ途切れないのか? “新しさ”を絶えず探究してきた50年間とこれからを語る
1971年にレコードデビューしてから実に半世紀以上、ラッセル&ロンのメイル兄弟によるSparksが今、キャリアの絶頂期を迎えている。今年リリースされた28枚目となるオリジナルアルバム『MAD!』は全英2位にチャートインの大健闘。時代の風を読みながらも常に独自の美学を貫き、ポップな親しみやすさと前衛的な実験精神を両立させてきた彼らのサウンドは、コンテンポラリーミュージックの理想のかたちとも言える。
作品数の多さからレコーディングアーティストの印象が強いかもしれないSparksだが、実は最強のライブバンドでもある。6月にEX THEATER ROPPONGIで行われたワールドツアーの東京公演は両日ともに大盛況。会場には若いファンの姿も多く見られ、ライブの最中には2人に向けて「キャー!」という黄色い声援も飛ぶなど、他のレジェンドアーティストのライブとは異なる熱狂的な雰囲気が印象的だった。来日公演を経て、ロンは今年で80歳、ラッセルは77歳になったが、いい意味で貫禄を感じさせない溌剌としたパフォーマンスにとにかく圧倒された。
日本公演の前にはファンと触れ合うサイン会も開催。一方、10月にはアルバム『MAD!』に続くキャリア初のEP『MADDER!』を早くもリリースしたばかりで、12月には香港の大型フェス『Clockenflap』にも出演を控えるなど、オンでもオフでも精力的な2人に話を聞いた。(美馬亜貴子)
“今”が絶好調 他にはない音を求め続けた50年
ーー新作『MAD!』は全英チャートでも2位と、これまで以上に高い評価を得ていますね(※1)。あなたたちは長らくそうしたメインストリームとは関係なく、独自のスタンスで活動してきましたが、ご自身では周囲のこの変化をどう受け止めていますか?
ラッセル・メイル(以下、ラッセル):これだけ長いキャリアの中で、一番最近のアルバムの反響がこんなにも大きいのはとても嬉しいことだよ。僕たちはこれまでに28枚アルバムを出したけど、最新作がちゃんと成功して、チャートにまで入るっていう話はなかなかないことだと思う。
僕たちは「昔のバンド」とか「懐かしいバンド」とは思われたくないんだけど、その点、今回の『MAD!』は活力がある作品だと思うし、これまで出してきたアルバムと同じように、今のSparksの音が凝縮されたアルバムになっていると思ってる。だから、例えば新しくファンになってくれて『MAD!』しか聴いたことがないっていう人たちにも、Sparksのサウンドがどういうものなのかをわかってもらえるんじゃないかな。僕たちは相変わらずモダンで刺激的なサウンドを心がけているから、今、こういう反響をもらえるのは、とにかく嬉しいよ。
ーーあなた方の音楽には、常に時代やマジョリティに疑問を持つような反抗精神があります。Sparksはいつもマイノリティの味方で、「変」であることや「ひねくれモノ」であることにこだわってきたと思います。その「変さ」がこんなにも受容されている状況について思うことはありますか?
ロン・メイル(以下、ロン):とても嬉しいね。自分たちの音楽の方向性やセンスを一切変えずに、同じスピリットで音楽を作り続けた結果、ファンを増やすことができたから。僕たちは決して、ニッチなバンドで、ニッチなオーディエンスにしか届かない音楽を作ろうとしていたわけじゃない。自分たちのセンスを変えずに、たくさんの人に音楽を聴いてもらえることに、とてもインスピレーションを感じているよ。
僕たちの最初のアルバム『Halfnelson』(1971年)はトッド・ラングレンがプロデューサーだったんだけど(※2)、彼も私たちの「変さ」というか、ちょっと変わり者っぽいところを受け入れてくれて、僕たちに万人受けするようなサウンドをやれと強いることは決してなかった。おかげで僕たちはキャリアを通してずっと自分たちのセンスを維持してきて、その結果、今に至っている。
ーーSparksの音楽は、ロックはもちろん、ポップ、ダンスミュージック、ヒップホップ、クラシックと非常に多様なスタイルを横断しています。先ほど「センス」とおっしゃいましたけど、これほどまでに多様な面を持つあなたたちの考える「Sparksらしさ」とは何でしょうか。
ラッセル:それを言葉で表現するのは難しいね。僕らは、ただ僕ららしくやってきただけなので。でも、ちょっと客観的になってSparksのファンを見てみると、確かに音楽が結ぶ、一つの独特な世界があることがわかる。「Sparksファン」の間には、メンバーだけが知ってる秘密の握手(※3)みたいなのがあって、それを知っていると一員になれるみたいな感じだよね。
ーーそう、特別なバイブスがあるんですよ(笑)。
ラッセル:翻って、僕らが考えるSparksとは何かというと、基盤は僕のボーカルと、ロンの書くとてもスペシャルでユニークなリリック。そして僕らは「他に出会えないような音」を作るということを心掛けている。そういう意味では、他のバンドや音楽からインスピレーションを受けるというよりも、自分たち自身がインスピレーションになって前に進んでいるという感じだね。
そのせいで僕らの表現はどんどん過激になっていく感じもあるんだけど、僕らのファンは、僕らのすることにいつも驚きを期待していて、それを楽しんでいると思う。自分で自分のやっていることを説明するのは難しいけど、今言ったようなことがSparksらしさということなのかな。
「過去の自分を超えていくことが大きなモチベーション」(ロン)
ーー兄弟として50年以上一緒に創作を続けているわけですが、お互いの手の内がわかっている状況で新鮮さを保つために、何か気をつけていることはありますか?
ロン:僕たち2人に共通しているのは、過去の音をどんどん超えていきたいと思っていること。作った音楽に共通するセンスはあったとしても、前にやったことを繰り返すことは絶対にしたくない。いつも次へ次へと進み、過去の自分を超えていくこと。それが大きなモチベーションになっているんだ。
キャリアの長いアーティストの中にはそうしたモチベーションをなくしてしまう人も多いけれど、僕らはそうならないように、常に新しくエキサイティングなものを追っていく。それを一番心がけているね。あと、最近は若いファンも増えたけど(※4)、それは若いファンを得ようとわざわざ努力したわけじゃない。若いファンからたくさん刺激を受けて、それも一つの大きなモチベーションになっているよ。
ーーお互いの尊敬している部分を教えてください。
ロン:やっぱりラッセルの歌のスキルだね。とにかく素晴らしいと思う。彼の堂々とした歌い方、そして表現の馬鹿馬鹿しさも含めて。僕が考えたメロディを必ず彼らしく、そしてSparksらしく表現してくれることについては信頼している。いつも僕の想像を超えた歌声で歌ってくれるので、そこをとても尊敬しているよ。
ラッセル:僕はロンが書くリリックがとにかく素晴らしいと思ってる。ポップミュージックの歌詞という以前に、過去の素晴らしい詩人や作詞家とも並ぶようなリリシストだと思っているよ。彼の書くような、ユニークで、かつ重みのある歌詞はなかなかないものだと思う。ラブソングを書いてもクリシェ(常套句)を避けるから、ロンの表現はいつもフレッシュなんだ。そのフレッシュさに驚かされることが多いよ。一つの例としては、『MAD!』に収録されている「JanSport Backpack」って曲。これは恋の別れの曲で、別れのシンボルが“バックパック”になっているんだ。男が過ぎ去っていく彼女を見送るんだけど、彼女はバックパックを背負っている。シンプルな描写ではあるけど、彼女が何を背負っているのかを考えさせるようなアイデアが面白いよね。ロンならではだと思うよ。