AislE、10代にしか持ち得ない“揺らぎ” 同年代リスナーを惹きつける16歳新鋭シンガーの正体

 「この歌声、好き」「誰が歌ってるの?」「なんか気になる、この声」は、シンガーとリスナーの出会いの定番だが、今、まさにこのような入り口でリスナーを徐々に増やしているのが、AislEだ。SNSでの反応、公式YouTubeチャンネルにアップロードされたMVへのコメントなどを眺めると、耳にした彼女の歌を楽曲検索アプリで調べて辿り着いている人が多い。人を引き付ける力を明らかに持っている歌声なので、自然な現象だと思う。しかし……「あからさまに特徴的な声質」というわけでもないのが、まずは触れておきたい点だ。爽やかなトーンでありつつ、素朴さも漂わせるこの感じをどのように言い表したら良いのだろうか? どちらかと言えば「ハスキー」あるいは「スモーキー」と称し得る風味でありつつも、その匙加減がかなり仄かなので、「ハスキー」「スモーキー」と明言すると誤解に繋がるのが悩ましい。「ハスキーかも?」「スモーキー……なのかな?」くらいの方が正確かもしれない。

2025年3月デビュー、10代リスナーに刺さる歌声

AislE (アイル) - 'ただいる' Music Video

 AislE(アイル)は、2009年4月5日生まれ。現在16歳。幼少期から演技を学び、舞台や映像作品への出演を重ね、モデルとしても活躍してきた。シンガーを志した中学校1年生の頃からボーカルトレーニング、ソングライティング、ギターの演奏に取り組むようになり、定期的に歌唱動画をSNSで発信する活動もスタート。今年の3月26日にEP『AislE』でデビューした。彼女の歌の特徴に関しては、先述の通りだが、さらに踏み込んで触れるならば、大人と子供の狭間の年齢である実像が、様々な表現とシンクロしている点に注目させられる。「ハスキーかも?」「スモーキー……かな?」というニュアンスの歌声は、「僅かなひっかかり感」とでも言うべき微小な“ヒダ”のある歌声と言い換えることもできそうだが、このヒダに浮かぶ多彩な表情が、とても魅力的なのだ。

 11月7日にリリースされた「ただいる」も、そういう歌に触れられる曲だ。フィルムによる映像表現をモチーフとしながら恋する者の心を描写する中でふと現れるフレーズ、〈まばたきを止めて眺めるScene〉〈まばたきの間切り取るScene〉が目を引く。一般的な映像撮影は1秒辺り24コマをフィルムに焼き付けて行われるが、レンズを通して切り取られた瞬間の累積が生む躍動に対して抱くときめき、フィルムに焼き付けられないコマとコマの狭間が存在することへのもどかしさ、編集によって意のままの世界を作りたい衝動……様々な描写が、思い通りにならない恋を映し出している。穏やかなトーンとテンポによるトラックだが、先述の「歌声の微小なヒダ」とでも言うべき僅かな引っかかりに切なさが滲むのを感じずにはいられない。

  「ただいる」を聴いて、AislEの歌の大人っぽいトーンに心惹かれたならば、7月31日に配信リリースされた「9」も好きになるだろう。深夜のタクシーの車内で抱く想いを描写するこの曲は、孤独、心の痛みを生々しく伝える。〈ねえ何回こんな夜越えたら 私幸せになれるんだろう〉は、埋められない心の空白を抱えながら夜を過ごした体験があるならば他人事とは思えないだろう。悲しみを断ち切るための呪文のように唱えられる〈Countin’ one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine〉は、一度耳にしたら度々口ずさみたくなる。しかし、リズミカルでキャッチーな仕上がりだからこそ、曲の主人公の心の満たされなさを浮き彫りにしているように感じられる。

AislE (アイル) - '9' Music Video

 「ただいる」や「9」でAislEを知った人は、1st EP『AislE』と同日にリリースされた「だってwith you」を新鮮な感触と共に受け止めるはずだ。この曲は代々木第一体育館で開催された『超十代 - ULTRA TEEN FES - 2025 10th Anniversary presented by docomo』とのコラボソング。中高生の恋をイメージできる歌詞、サウンドが、爽やかで瑞々しい。笑顔を見ただけで胸がときめき、手を繋ぐことすらもどきどきする姿の描写に、AislEの歌が抜群にフィットしているのが面白い。歌声の仄かな素朴さが、ティーンエイジャーが教室で浮かべる無邪気な笑顔のような印象に繋がっているのだと思う。

AislE (アイル) - 'だってwith you' Official Music Video

実像とアーティスト性の重なりが生み出す“揺らぎ”の魅力

 そして1st EP『AislE』に収録されている「Vivace」は、とにかくかっこいい。R&B、ヒップホップ、EDMなど幅広いクラブミュージックを融合させたかのようなトラックを乗りこなし、自身の感性を全世界に向けて発信していく決意を力強く歌い上げている。彼女の歌声は、雄々しさとも親和性が高いのだろう。「活き活きと」「速く」を意味する音楽用語として馴染み深いイタリア語「Vivace(ヴィヴァーチェ)」は、曲のタイトルとしてふさわしい。コンセプトとして彼女がデビュー時から示している「音楽、ファッション、オリジナリティを遊び心で融合させる、自己発信型アーティスト。常に新しい表現を追求し、『# playfulness』を大切に、自由なスタイルで独自の世界を広げていく」を体現しているのが「Vivace」だ(※1)。

AislE (アイル) - 'Vivace' Official Music Video

 彼女は表現の指針について、オフィシャルコメントで次のように語っている。「まっすぐじゃなくていい、強くなくてもいい。心が揺れたり、迷ったり、立ち止まったときこそ、本当の感情が見えてくる気がして。歌うときも、何かを表現するときも、自分の中にある“揺らぎ”をそのまま残しておきたいと思っています」ーーこの言葉は、かなり的確だと思う。恋に対して抱く迷いも、眠れない夜の心の痛みも、初々しいときめきも、力強い決意の表明で道を切り拓くのも、全ては“揺らぎ”だ。実像がリンクできる“揺らぎ”の模索の中で可能性を広げているのが、今の彼女の活動なのだと思う。

 プロフィール紹介の中で、AislEが幼少期に演技経験を積んでいた旨に触れたが、それが音楽活動に活きている点にも最後に触れておきたい。本人が出演しているMV、頻繁に投稿しているTikTok動画、公式YouTubeチャンネルにアップロードされているライブ映像などを見ると、浮かべる表情、動き、全身の佇まいが歌を一際輝かせている。16歳という年齢もあってか、今のところファン層の中心は10代~20代のようだが、彼女の歌と表現力は、幅広い人々の心を掴み得る可能性の塊だ。表現の軸にある“揺らぎ”の振幅は、どのような世界へと繋がっていくのか? 今後の動きが楽しみだ。

※1 https://aisle.bzone.co.jp/

■リリース情報

3rd Single「ただいる」
配信中
https://aisle-music.lnk.to/tadairu

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCD-5pvGjX0z_ptMC09O8MXw
Instagram:https://www.instagram.com/aisle.official_
X:https://x.com/aisle_official_
Official Website:https://aisle.bzone.co.jp/

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