棚橋弘至「音楽ファンとプロレスは絶対に相性がいい」 引退試合目前に夢見る“100年計画”、新たな魅力の発信へ

“メンタルモンスター”=棚橋弘至が今新たに抱く夢は「プロレスを大きくする」

――率直な疑問なんですが、棚橋さんくらい強くなると、街で「いざとなったらみんな倒せる!」みたいな感覚になるのでしょうか?

棚橋:今から渋谷のスクランブル交差点で全員ラリアットして歩いてみましょうか? もちろん、そんなことしたら捕まっちゃいますが(笑)。僕が入門した時に山本小鉄さんという厳しいコーチがいらっしゃったんですよ。「いいか、棚橋。プロレスラーは人より体が大きいから、普通の人以上に丁寧に接しろよ」と言われたのを今も鮮明に覚えています。まずは「レスラーたる前に、いち社会人たれ」ということを教わりました。なので、僕も若手を育成する時には、礼儀もそうですし、言葉遣いも丁寧に、徹底させます。中学、高校を卒業したばかりの子もいますから。プロレスラーに限らず、世のなかというのは非常に不条理な世界です。なので、強くなるためには、その不条理に立ち向かう覚悟が必要になる。プロレスラーの練習もスクワット1000回から始まるんですけど、ウォーミングアップとして考えたら1000回も必要ないのかもしれない。でも、そこを耐えることで乗り越えていく力が鍛えられる。人気選手の器が育っていくんです。

――棚橋選手もこれまで多くの試練を乗り越えてこられたのですね。

棚橋:振り返れば最初からでしたね。入門テストの時にゼッケンが50番までしかなくて、僕のぶんがなかったんです。だから、“背番号のないエース”だったんです……今日はこれが言いたかった(笑)。そのあとも合格したと思ったら業界そのものが低迷期に入って。チャンピオンになったら今度は「新日本プロレスらしくない」「チャラい」と大ブーイング。

――それでも心が折れなかったのはどうしてですか?

棚橋:僕は“メンタルモンスター”なので。最初こそヘコみましたが、ブーイングも自分が勝ち取ったリアクションだと思うようにしました。僕らにとっていちばんツラいのは、無関心。興味があるからブーイングも飛んでくるんですよね。それに、僕がブーイングされている時って、対戦相手に称賛が集まっている。つまりは会場が盛り上がっている状態なので、僕の願う「プロレスを盛り上げたい」という目的には沿っている。僕自身が望んでいたことなんだ、と。

 昔、ベテランレフェリーのタイガー服部さんに、「一生懸命頑張ってるのにブーイングされてしまいます」みたいな相談をしたことがあって。そしたら「もっとCocky(生意気)になりなよ」って言われたんです。もっと自分で「俺ってすごいんだ」って自信満々にいったほうが面白いことになるんじゃないか、と。そう思ってからは、「俺はかっこいい」「俺って強い」「俺って最高!」「俺こそがベストインザワールド!」という自己暗示をかけて。「チャラい」ってブーイングされたことを、むしろ逆手にとってどんどんチャラくして。

――すごい発想の転換ですね。

棚橋:自分でも気づいていなかっただけで、そういう素養があったってことでしょうね。やらされてる感じでいたら、お客さんにも「無理してるな」って伝わっちゃうと思いますし。やっぱり、自分のなかにあるものでしか勝負できないですからね。メンタルモンスターになるコツは、頭のあたりにもう一人の自分を置いておくんですよ。第三者の目線で、客観的に自分を見られるかどうか。「こうなりたいんだ」っていう自分にマッチしてるかどうかを判断して、あとはやるだけ。

――お話を聞いているだけでも、元気が出ます。

棚橋:そうでしょう。だから、プロレス会場では頑張る選手の姿に元気をもらえる。そして、選手も観客の声援にパワーをもらう。リングと客席でエネルギーを交換して、会場全体が活力に満ちるんです。だから僕は言います、「プロレス会場こそパワースポットだ」って。たくさん浴びにきてください!

――ただ、せっかくこうしてお話をお聞きできたのに、棚橋選手が来年1月で引退を控えていると思うと残念です。

棚橋:もっと早くに知りたかったでしょう(笑)? 引退は……うん、やっぱり寂しいですよ。でも、もうファンの方たちから一生ぶんの声援をもらったという感謝しかない。新日本プロレスには本当にいい選手がいっぱいいるので。1月に向けて次に応援する選手もぜひ見つけていただければと思います。上村優也、海野翔太、辻陽太、成田蓮、大岩陵平……このあたりのヘビー級の選手たちは間違いなく次世代を担っていくでしょうし、ジュニアだったら高橋ヒロム、エル・デスペラード、それから若くて伸び盛りの藤田晃生もぜひ注目してほしいですね。音楽好きで「JAPANESE YOUNG PUNK」とも呼ばれているので。彼は間違いなく伸びますね。

【新日本プロレス】棚橋弘至レスラー人生のゴールを決意 【2024年10月14日 両国国技館】

――社長としては、やはりこれからもプロレス界の魅力を広めていくという役目を果たしていくのでしょうか?

棚橋:そうですね。僕の夢はやっぱりプロレスを大きくすること。ほかのプロスポーツに負けないくらい高い年俸を選手に用意してあげたい。僕自身が到達した最高額を、今の選手全員に超えてほしいと思っています。いつかプロレスラーもプロ野球選手のように年俸額を公開できるようにしたいですね。それができれば、プロレスラーを目指す人も増えるはず。だから、僕の計画は100年計画なんです。そのために今は地道にいろんなところに顔を出しています。「疲れたことがない」なんて言った手前、すごいスケジュールになっていますけどね(笑)。年間約150試合ありながら、試合のない平日は朝5時か6時に起きて、朝食前にウォーキングして、10時に出社して18時に退社して、それからジムでトレーニング。今日も取材を3本受けたあとに、夜はイベントです。でも大丈夫、疲れてないから!

■試合情報
『WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム 棚橋弘至引退』
2026年1月4日(日)東京ドーム
OPEN 14:30/START 16:00

チケット一般発売中:ローソンチケット
対戦カード:https://www.njpw.co.jp/tournament/card/578671
大会特設サイト:https://wrestlekingdom.njpw.co.jp/

棚橋弘至 オフィシャルブログ:https://ameblo.jp/highfly-tana/
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