リングアナ 田中ケロが語る、新日本プロレス黄金期 当時の熱狂を再現したコンピアルバム発売に寄せて

田中ケロが語る、新日本プロレス黄金期

 業界を牽引するメジャー団体「新日本プロレス」が今年3月に創立50周年を迎えた。リング上はもちろん、各地で様々な記念イベントやグッズ販売などが展開されているが、音楽面でも3枚組のCD『NJPWグレイテストミュージック50th.SP』がリリースされ、ヒットしている。人気レスラーのオリジナル入場曲に加え、リングアナウンサーの田中ケロによる選手コールと前口上を収録したことが大好評を博したことを受け、続編として1980年代のレジェンドレスラーの貴重な入場曲を集め、田中ケロのコールを新録した『新日本プロレスリング NJPW グレイテストミュージック CLASSIC』が8月10日に発売された。そこで、両作で唯一無二の前口上と選手コールを披露している田中ケロに、リングアナウンサーの矜持とマニア垂涎の裏話を聞いた。(大谷弦)

初めてプロレスを観るお客さんにも伝わる口上を

ーー新日本プロレス旗揚げ50周年。田中さんはその黄金期にリングアナウンサーとして密接に携わってきました。

田中ケロ(以下、田中):内側から見ていた僕からしてみれば、よく50年持ったな、というのはありますね(笑)。僕は大学生のころから新日本プロレスでアルバイトしていて、入社してリングアナウンサーとしてデビューしたのが1980年の8月22日。前任のリングアナウンサーだった倍賞鉄夫さんから引き継がせていただいて。

ーー倍賞鉄夫さんは、アントニオ猪木さんと結婚されていた倍賞美津子さんの弟にあたる方ですね。

田中:最初は倍賞さんから受け継いだスタイルでアナウンスしていたんですけど、衣装も普通の背広ですし、会場にいるとお客さんと区別がつかなかったんですよ。それで、まずはリングアナウンサーとわかるような格好をしようと、ライオンマーク(新日本プロレスのロゴ)をつけた赤いブレザーを着て、目立つようにしていきました。猪木さんは「好きなことを勝手にやれ!」という人でしたので、自分で考えて、変えるところは変えていって……例えば、それまでは体重は「パウンド」で発表していたんですけど、それだとお客さんにとって分かりづらい。「240パウンド」より、「110キロ」と言ったほうが重さが伝わるじゃないですか。それで、コールする時はcm、kgに表記を変えました。

ーーコールをする前に選手のキャッチフレーズや試合のテーマを伝える「前口上」も、田中さんが元祖です。

田中:初めてプロレスを観るお客さんにも、この選手はこういうタイプで、このくらい強いですよ、ということを伝えたかったので、コール前に情報や異名を付け加えるようにしました。それがいつの間にか「前口上」という形になり、さらに試合のテーマを伝える「煽り口上」になっていって。

ーーあの「前口上」で会場のボルテージが一気に上がりましたよね。ああいう言葉は事前に仕込んでたんですか?

田中:シリーズ通した流れを踏まえて、試合の前日にはだいたいの案を考えるんですけど、当日のリング上でそれをパっと変えてアドリブで喋ることもありましたね。やっぱり、その時々の会場の雰囲気によって、求められているトーンというのは変化するので。ただ、盛り上がるときは何を言っても盛り上がるんですよ。特に「最高に新日本プロレスしてください!」という前口上は、いつどんな会場で言っても盛り上がりましたね。よく考えると、特に意味はないんですけど(笑)。

ーーそして、今回のテーマでもあるレスラーの入場曲を使った演出も田中さんが変えていったことのひとつです。

田中:そもそもプロレスラーの入場曲というのは、テレビ中継用の限定的な演出だったんです。なので、会場ではテレビ中継する後半3試合だけ流したり、地方のノーテレビ興行だとまったく音楽は無しで、お客さんの拍手で入ってくるだけでした。でもそれだと、せっかく会場に来ていただいた観客はガッカリするじゃないですか。それで、テレビ中継のスタッフに入場曲の音源をカセットテープに入れてもらい、興行スタッフにラジカセを持って待機してもらって、僕が「選手の入場です!」とコールしたら、マイクをスピーカーにくっつけて曲を流す、ということを始めたんです。

「会長のコールもやりたいね」の一言で始まったアルバム制作

ーー最初はかなりアナログな感じだったんですね。でもそれが現在のプロレス入場のスタイルになっていった。

田中:今回のアルバムはその時代の曲が中心になっているので、あのカセットテープでの演出が原点だと僕は思ってるんですけど。

プロデューサー:その通りですね。そもそも今回の企画はケロさんとの雑談から始まってるんですよ。『NJPWグレイテストミュージック50th.SP』のDISC1は『NJPW1980~90’s Nostalgic』と題して、曲の合間にケロさんの選手コールを新規で入れていただいたんです。その時にケロさんが「会長のコールもやりたいね」と呟かれたので、ぜひやりましょう! ということで今回の『新日本プロレスリング NJPW グレイテストミュージック CLASSIC』が動き始めたんです。

ーーその「会長」というのはアントニオ猪木さんのことですよね。このCDはテレビ中継でお馴染みの「テレビ朝日スポーツ・テーマ」からの「オープニング・コール」、そしてアントニオ猪木さんの入場曲「炎のファイター」で始まっていきます。

田中:「炎のファイター」は思い入れもありますし、好きな曲ですね。イントロが流れてくるだけで、猪木さんのイメージが湧いてきますし、曲に合わせて「イ・ノ・キ! イ・ノ・キ!」という掛け声がハマるので、会場で聴くのが楽しみでした。

ーー全国民が知ってる曲ですし、聴いているだけで体温が上がるようなパワーがあります。

田中:猪木さんは、選手コールもしやすいんですよ。「アントニオ~~、イノーキー!」と、最後が3文字でリズムがいいのと、語尾が「キ」なので力が入って伸びやすい。長州力選手も「リ~キ~」で力が入りますね。逆にコールしにくいのは名前の最後が「ス」のような、息で終わるもの。あと「ン」で終わるのも力が入らない。だから「スタン・ハンセン」は、「スタン~」で息になって、「ハン~」も「セン~」も息になるので、難しいんです。

ーーそんなスタン・ハンセン選手の入場曲「ウェスタン・ラリアート」も収録されています。

田中:ハンセンの入場曲といえば、全日本プロレス時代の「サンライズ」が有名じゃないですか。でも、僕はこの「ウェスタン・ラリアート」のほうが好きですし、ハンセンのイメージにも合ってると思いますね。

ーー続いて収録されている坂口征二さんの「燃えよ荒鷲」も貴重ですね。イントロの太鼓の音が印象的です。

田中:そのイントロ部分がすごく長いんですよ。坂口さんは照れ屋なので、曲がかかるとサっと入場してしまうから、会場では太鼓の音だけ流れて終わりということが多かったです。なので、原曲からそのイントロ部分を短くカットしたものを使うようになったんです。

プロデューサー:今回収録しているのも、オリジナルより太鼓の部分を少しカットして、あの頃の雰囲気を再現しています。

田中:「サーベル・タイガー」のタイガー・ジェット・シンのコールや、藤波辰爾選手の「ドラゴン・コール 実況録音」には、当時の音源から録り込んだ倍賞鉄夫さんのコールが入ってます。シンのコールは、テーマ曲マニアの分析によると、1979年の『夢のオールスター戦』の時のもののようです。

プロデューサー:そうですね。新旧リングアナの共演というのも、今回のアルバムならではのテーマですね。

ーーすごいこだわりが詰まってるんですね。プロレス入場曲は、それで何冊も書籍が出ているくらい奥深い世界ですが、マニアの方々も納得するんじゃないでしょうか。

田中:藤波さんの入場曲も、ジュニアヘビー時代の「ドラゴン・スープレックス」が収録されてます。藤波さんは何度も曲を変えてますけど、最近はこの「ドラゴン・スープレックス」で入場されることも多いみたいです。昔からのファンには、こっちのほうがウケるというか、あの時代に思い入れがあるお客さんが多いんでしょうね。

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