『ユイカ』が選んだ“歌を歌う”ことの意味、ひとつずつ叶えた夢――Zeppツアー『Tsukimisou』で初めて伝えた思い
『ユイカ』にとって初めてのZeppツアーには『Tsukimisou』というタイトルがつけられた。9月26日、Zepp Haneda (TOKYO)、ステージには大きな三日月と、星が煌めく夜空が広がっていた。『ユイカ』とともに月を見ながら過ごす夜が始まる――。
暗転すると、場内にカセットテープの再生音が流れ、夕方の街へと誘われる。幻想的なBGMに乗せ、バンドメンバーとともに『ユイカ』がステージに登場した。ギターを手に、大きく息を吸った『ユイカ』は〈どうして一途な私は/報われないの?/救われないの?〉と切なさを滲ませた歌声を響かせ、「一途な女の子。」でライブを始める。〈こんなに好きってアピールしてんのに/なんで気づかへんの?ってさ〉など、片思いをする女の子の素直な感情を、「せーの!」と客席を引っ張りながら、主人公の世界へと連れていった。ギターを置いた『ユイカ』は「皆さん、こんばんは。『ユイカ』です!」と元気いっぱいに挨拶し、「わがまま。」へ。好きな人に会いたいとはやる気持ちを綴った同曲だが、ハンドマイクでステージ上を左右に動きながら、ファンの近くへ進みながら歌っていると、〈私ちゃんと伝えられてますか?/好きって伝わってますか?〉〈貴方に会いたい〉という歌詞が、『ユイカ』がファンへ向ける思いのようにも聴こえてくる。目の前のファンとリスナーを信じて、ともに過ごす時間を楽しんでいる。
しかし「嘘」でその表情は一変。激しいロックサウンドに乗せ、ダークな感情を吐き出していく。かと思えば、「ゆうれいになりたい」では、バンドメンバーとの“涼しくなる話”を挟んで、ユーモアをちらり。すると、ここでステージの月と星にともっていた灯が消え、現実から夢の世界へ。「イマジナリーフレンド」だ。そして、現実に戻ってくると、『ユイカ』自身の17歳の時の葛藤を綴った「17さいのうた。」と、前半のキュートなラブソングとは違うネガティブな一面も歌に乗せて届けていく。
ライブの舞台の夜が深まっていく中盤には、アコースティックコーナーが用意された。バンドメンバーもフロントに進み、『ユイカ』を囲んで5人でトークをしていく。アジアツアーや夏フェスをともにまわったバンドメンバーとはすっかり仲も深まったようで、『ユイカ』が自己紹介とともに話してほしい話題として、「演奏していて楽しい『ユイカ』の曲」を投げると、「スノードーム」「すないぱー。」「ゆうれいになりたい」とそれぞれが楽曲を挙げ、『ユイカ』ライブに向ける思いを語りながら盛り上がる。そんなトークを経て、ライブを再開。『ユイカ』が「眠くなるので、寝てもいいよ」と前置きしてから「おくすり」をアコースティックで届ける。2曲目は「序章。」と「運命の人」のいずれかをその場で決めてもらうことに。拍手によるアンケートの結果、「序章。」が多いものの、「運命の人」を熱望する声も上がり始める。すると、『ユイカ』が突然〈言わないよ、/“まだ好きだった”とか。〉と「運命の人」の一節を歌ってみせ、会場の意見をすべて汲み取ったうえで「序章。」をしっとりと届けた。
ここでバンドメンバーが去り、ステージには『ユイカ』がひとり残る。坂口有望に憧れて音楽を始めた『ユイカ』にとって、弾き語りでライブを行うのは夢のひとつだったという。ギターを手に、たったひとりステージに立ってフロアを見渡した『ユイカ』は、このライブのために新曲を作ってきたといい、その曲に込めた思いを手紙にしてきたと、手紙を読み始める。そこに綴られていたのは、弱視により生まれつき左目がほとんど見えないこと、「なんで私だけ?」と何度も思ったこと、しかし「自分自身に何かを学ばせたくて自分で選んだ人生だ」と思ったら少しは楽に生きられると思ったこと――。そして、ひときわ強く「死にたくて泣いたんじゃなくて、死ねなくて泣いたあの日を知っている人に、誰かの逃げ道を、私自身の逃げ道を作るために書いた曲です」と伝え、新曲「私が選んだもの」を届ける。彼女は〈貴方が握りしめているものは何だ?/私は、うたを歌うこと。〉と声を枯らすように宣言した。
歌い終えた『ユイカ』が一度ステージを去ると、鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてきて、舞台は朝に。明るい色味の衣装に着替えた『ユイカ』は、元気よくマイクの前にたち、「ラストスパートです!」と、フロアを焚きつけ、「恋泥棒。」で再びバンド編成でのライブを再開。「すないぱー。」では、スナイパーよろしくグッズをバズーカで客席へ飛ばし、最後までファンを喜ばせていった。
アンコールでは、まずエレキギターをかき鳴らして最新曲「ローズヒップティー」を披露。お馴染みのグッズ紹介を挟み、2026年9月に東京国際フォーラム ホールAでライブを行うことを発表した。「私にとって応援してくれるみんなは、たくさん愛をくれる人。だから、たくさん愛を返したい」とまっすぐな思いを口にし、「好きだから。」をラストナンバーにチョイス。曲の後半には伸びやかな歌声とともに、金テープが噴射。まるで太陽の光のように場内にきらきらと降り注ぎ、『ユイカ』と一緒に過ごす一夜を締め括った。
「私が選んだもの」を披露する前の手紙で、これまで自分の好きな曲が書けなかったと吐露し、「今いちばん歌いたいことを曲にした」ときっぱり言った『ユイカ』。「17さいのうた。」で〈拝啓、今の私へ。/こんな情けない/うただって歌えばいいよ/それが私だから。〉と歌っていた少女は、20歳になり、夢だったという弾き語りで自分がいちばんに歌いたいことを歌い、さらに少し先の未来――2026年9月には憧れていたという東京国際フォーラムでワンマンライブを行う。“歌を歌う”ということを武器に選び、『ユイカ』はひとつずつ、夢を叶えていく。