MV Chart Forcus

　毎週更新される「YouTube Music Charts」ウィークリー ミュージック ビデオ ランキングより、MVをはじめとした音楽関連の新着動画から上位10作品／楽曲を取り上げ、ランキング化＆レビューしていく連載「MV  Chart  Focus」。9月19日〜9月25日のウィークリー新着のTOP10は以下の通り（※1）。

1位：米津玄師＆宇多田ヒカル「JANE DOE」MV
2位：HANA「BAD LOVE」Performance Video
3位：STARGLOW「Moonchaser」MV
4位：XG「GALA」MV
5位：HALCALI「おつかれSUMMER」MV
6位：Huntr/x「Golden」from『KPOPガールズ！ デーモン・ハンターズ』
7位：STARGLOW「Moonchaser」Dance Performance
8位：煮ル果実「オーパーツ」MV
9位：DJ SHACHO「TYP」MV
10位：STARGLOW「Moonchaser」Dance Practice

　今週のランキングで首位を獲得したのは「JANE DOE」。米津玄師と宇多田ヒカルのコラボレーションが話題を呼んだ1曲だ。ちなみにウィークリーランキング全体で見ると、首位は米津玄師の「IRIS OUT」で、先週に引き続き多くの再生数を誇っている。藤本タツキの人気漫画『チェンソーマン』の劇場版『チェンソーマン レゼ篇』に書き下ろされた関連楽曲がワンツーフィニッシュという形になった。楽曲そのものの話題性もさることながら、米津と宇多田が揃って登場する実写MVのインパクトも大きいだろう。

　それにしても、『チェンソーマン』、米津玄師、宇多田ヒカル……と並べると、とにかく強い固有名詞の連続で、少し怯むほどだ。それではこの曲がどう仕上がっているかというと、緊張感がほとばしるような楽曲、というところだろうか。ふたつのまったく異なるタイプのアーティストによる綱引きが、節々に感じられる。

　これはすでに米津本人がインタビュー（※2）ではっきり言語化していることだが、R&Bをバックグラウンドに持つ宇多田と、DTMによるVOCALOID音楽から出発した米津とでは、リズムに対する解釈がまったく違う。特に宇多田は単にレイドバックしているというだけではなく、自身の楽曲の場合に顕著なようにリズムの分割の仕方やアクセントの置き方に独特のクセがあって、声質やピッチのコントロール以上にそのフロウに記名性があるシンガーだ。それゆえに、米津らしいメロディラインを丁寧になぞりつつも、ところどころに宇多田らしい解釈が顔を出す。たとえば〈つま先に月明かり　花束の香り　指に触れる指〉は細かい三連符を含んだ切れ味のいい緩急が印象的なフレーズで、米津ならこの緩急を強調するように力を込めて歌うところだろう。しかし、宇多田はむしろなめらかに音をつないで、〈指に触れる指〉のところでわずかに節回しを入れ込んでいる。メロディと歌い手の緊張関係を感じる一節だろう。

　しかし、それ以上にドキッとしたのは、〈何もかも忘れて〉の直後、歌声をすっぱりとカットするアレンジだ。無音の中、呼吸の音を際立たせる演出になっているが、残された短い「て」のニュアンスを聴くだけでも、おそらく宇多田がもう少し余韻を残すように歌っていたのではないかと想像する。無音にすることそのものではなく、この切り方に、さりげなくも決定的な意志の表明が見える。

　「JANE DOE」は申し分なくドラマチックで、『チェンソーマン』というコンテンツに託されたものの大きさに応えるクオリティを持っている。しかし、ふたりのビッグネームがシナジーを発揮した楽曲というよりは、聴いているこちらもふと緊張してしまうような、あえて言えば“歪さ”が残る楽曲だ。

※1：https://charts.youtube.com/charts/TopVideos/jp/weekly
※2：https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi31/page/2