戦慄かなの、なぜバイラルヒットし続ける? 「moreきゅん奴隷」チャートイン、大森靖子と生み出す“病みかわいい”中毒性
Viral Chart Focus
Spotifyの「Daily Viral Songs(Japan)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotify Top Songs」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたランキング。同チャートの9月24日付のTOP10は以下の通り(※1)
1位:水無瀬ミナミ(CV:田村ゆかり)「ときめき★メテオストライク」
2位:ZOCX「moreきゅん奴隷」
3位:君がそうなら僕はこう「恋するあなたは美しい」
4位:RUI・TAIKI・KANON「Forked Road」
5位:CORTIS「GO!」
6位:カレンチャン(CV:篠原 侑)、スティルインラブ(CV:宮下早紀)、フサイチパンドラ(CV:佳原萌枝)、アドマイヤグルーヴ(CV:鈴木日菜)、ラッキーライラック(CV:中島由貴)、ラヴズオンリーユー(CV:久保田未夢)、ステイゴールド(CV:松田颯水)「めにしゅき♡ラッシュっしゅ!」
7位:キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け!」
8位:Number_i「未確認領域」
9位:CORTIS「FaSHioN」
10位:ZEROBASEONE「ICONIK」
戦慄かなのとバイラルチャートの相性
今回は、バイラルチャートで大きな話題を呼んでいるZOCX「moreきゅん奴隷」をピックアップする。本曲は9月22日付のデイリーチャートで初登場1位でランクインし、その後も2位をキープしている。「moreきゅん奴隷」は、戦慄かなのがZOC時代にソロ曲として披露していた楽曲。2025年に入ってからZOCXを結成し、そのメンバーに戦慄が加わったこともあり、9月9日にデジタルリリースされた。
最初に触れておきたいのが、戦慄とバイラルチャートの相性の良さだ。バイラルチャートはユーザーのシェアを指標に基づいたランキング。そこに戦慄はこれまで姉妹ユニット・femme fatale「だいしきゅーだいしゅき」(2022年)、かてぃとのユニット・悪魔のキッス「悪魔のキッス」(2022年)、ヤングスキニーのかやゆー(Vo/Gt)提供のソロ曲「悪い人」(2024年)などをバイラルチャートの上位に送り込んできた。コンセプチュアルなビジュアル、楽曲中のパンチラインなどもヒットの要因だと思うが、そこに加えて、戦慄自身がインフルエンサーとしての側面もあり、彼女の人生そのものに無二のストーリー性を感じ、支持している人が多いからという理由も考察できそうだ。
「moreきゅん奴隷」は、アイドルソングらしい軽快なポップチューン。 また、今のアイドルポップのトレンドをおさえた、パンチフレーズが並ぶ曲でありながら、少し翳りを持たせたメロディを挟み込んでくるなど、プロデューサーである大森靖子の手腕も光る。
イントロから華やかな「moreきゅん奴隷」は、Aメロから可愛らしさを前面に出す。リズムが変わり「パン、パパン」という拍手を誘発しそうなBメロ、続いてBメロと同じメロディでありながらバックサウンドで印象を変え、サビへのブリッジになるように滑らかにメロディが下降し、サビ直前には効果音が入ってくるなど、印象的でわかりやすいフック満載の楽曲だ。サビで繰り返される〈more more きゅん〉という言葉と旋律のマッチングの見事なこと。語感と反復性、そして戦慄の甘い歌声が、一瞬でリスナーの耳に刻み込まれ、一度聴いたら口ずさめるキャッチ―さと高い中毒性を持っている。
戦慄はこの曲を、まるで内緒話として囁くように歌い出す。甘いウィスパーボイスや、少し鼻にかかった気だるさや拗ねたようなニュアンスを使い分けている。サビの〈きゅん〉では、語尾に軽いビブラートや裏声を混ぜたり、危うい感情を直感的に伝えるようなアプローチ。高音もクリアな声で響かせており、楽曲に対する解釈の深さがわかる。
「moreきゅん奴隷」歌詞がもたらす“広がり”
歌詞は、従来のアイドルが歌ってきた“恋のときめき”とは正反対のストーリー。依存に変質した歪んだような恋愛関係をポップな言葉で描写し、相手に「もっと、きゅんをちょうだい」と、(あえて言葉を選ばずに言えば)一方的な要求をしている。傍から見たらネガティブな関係性を明るい表現にすることで、戦慄の存在感や個性、バックボーンが浮き彫りとなり、リスナーにフィクションを超えたリアリティを突きつけているように思う。この可憐でありながら刹那的な世界観は、戦慄が歌ってこそリアリティを持つ。
バイラルチャート初登場1位を獲得した勢いは、ZOC時代からのファンの待望によるものだったと思うが、その後の2位キープというチャートアクションは、新規層を取り込み続けている証拠と言えるだろう。「#きゅん奴隷」というハッシュタグをつけ、10~20代の女性を中心に、手振りを組み合わせた動画がSNSを中心に拡散され続けているのがその証拠だ。“病みかわいい”美学を体現するポップソングとして「moreきゅん奴隷」は、幅広く受け入れられているのだ。
※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2025-09-24