ときのそら、“新しいアイドルの形”を開拓しながら8周年の先へ 歌唱の幅を広げる貪欲な挑戦も明かす

 2025年9月7日に活動8周年を迎えたホロライブ0期生のときのそらが、ニューアルバム『Pulse』を9月24日にリリースした。デビュー当時17歳だった少女は、8年の時を経て配信活動を続けながら、数多くの楽曲をリリースし、精力的に音楽活動を行ってきた。5枚目となる『Pulse』は、前作『Sign』(2022年)と同様に、気鋭のクリエイター陣との共作を実現しつつ、また違った世界観を形成している1枚だ。果たして、どのような軌跡を辿って『Pulse』は完成したのだろうか。8周年のその後の展望や『ときのそら 8th Anniversary Party「Starry Bl∞min'」』についても交えつつ、活動を長年続けてきた安定感と、変わることへの挑戦を続けてきた1つの集大成を、ときのそら本人の言葉で紐解いていく。(森山ド・ロ)

ときのそら NEW ALBUM「Pulse」全曲トレーラー

苦労しながら挑んだ“低いキー”での歌唱表現

――アルバム『Pulse』が完成した感想や達成感をお聞かせください。

ときのそら:すごく新しくて、今までにない感じのアルバムになったなと思ったのが最初に浮かんだ感想ですね。そこに一番満足感を感じています。

――“新しい”というのはどういう部分でしょう?

ときのそら:今までと違って、アイドルっぽい曲が減ったんです。アーティスティックというか、雰囲気が今までのアルバムとは違うものになっていると思います。

――アルバムタイトル『Pulse』の由来は何ですか?

ときのそら:“Pulse”という言葉自体に“躍動”という意味があるんですよね。そこからダンスのイメージがメインにありながら、蜂が蜜を求めて“八の字”に動く行動をする際に出る音や振動を“パルス”と呼ぶらしいんです。無限大の形にも見えるし、8周年とも重なるなと思って、このタイトルに決まりました。

――アルバムの制作過程で楽しかったことや苦労したことはありますか?

ときのそら:楽しい部分と苦労した部分は表裏一体でした。今までのカラーを変えることが今回のテーマになっていて、アイドルっぽさに寄らない楽曲に挑戦するのがその1つだったんですね。完成までの過程でこれまでの歌い方では合わない曲もあって、新しい表現に挑むのは苦労しましたし、楽しかったです。

――歌唱のスタイル自体も変えたんですね。アイドルっぽさに寄らないためにどんな挑戦をしたのでしょう?

ときのそら:例えばキーですね。今まではすごく高音の曲が多かったんですけど、それだと「元気で可愛い」に寄ってしまうんです。あえて適正キーより低めの曲を増やすことで、新しい表現ができたと思います。

――今までの武器をあえて封じて、新しい表現を探したと。

ときのそら:そうですね。なので、修行みたいな感覚になりました。歌えないキーではないんだけど、私っぽい歌い方というか、アイドルっぽい歌い方ができるキーの曲が今回はほとんどなかったので、新しいキーに慣れつつ、表現を変えるというのは難しかったです。

――アルバム制作時には、いつもどのようなことを意識しているのでしょう?

ときのそら:アルバムとライブがセットになっていることが多いので、ライブで歌ったらどんな風に聴こえるんだろうなというのはすごく意識していると思います。曲としていいだけではなくて、その後のライブで「思い出になったね」と言ってもらえることも大事なのかなって。ライブをイメージしながらアルバムを制作することが多いです。

――ライブを意識した制作というのは例えばどのようなことをしていますか?

ときのそら:普通にレコーディングすると、「音を良くしよう」「綺麗に歌おう」と意識してしまうんですけど、それだとライブのイメージがつきにくいのかなと思うんです。だからあえて、録り直しを繰り返す中で、いくつかのテイクは「ライブで自分が出しそうな声」を意識して入れるようにしています。

――聴いている側もライブを想像できるような。

ときのそら:そうですね。聴いていて「ここ、ライブで一緒に声を上げたい!」と思わせられるような雰囲気を制作時に意識しています。

――簡単に言ってますけど、それって難しいですよね?

ときのそら:はい、実際とても難しいです……(笑)。レコーディングしながら、常に“ライブでもある”という感覚で臨むようにしています。

――普通は、先ほどおっしゃられた通り「上手く歌おう」「綺麗に歌おう」と意識してしまいがちですもんね。

ときのそら:そうなんです。でもそこに“ライブを想定する意識”を加えることで、曲が違ってくると思います。デビューして数枚の作品くらいまでは、「とにかくちゃんと歌わなきゃ」という意識が強すぎて全然できませんでした。だから「ライブの方がいいね」と言われることも多かったんです。

――ライブを重ねていくうちに、意識が変わっていった感じですか?

ときのそら:そうですね。「変えよう」と意識したわけじゃなくて、無意識に変わっていったというか。最初は作品を強く意識していたんですけど、そのうち「作品で終わるんじゃなくて、そこからライブに繋がっていくんだ」と考えるようになりました。だから自然と変わったんだと思います。

“ドラマだからこそハマる曲”への手応え

――『Pulse』の楽曲について伺っていきたいと思います。「Dancing Reed」ですが、こちらは初めてのドラマタイアップですよね。去年はアニメのオープニング主題歌を担当されていましたが、今回は心境的な違いはありましたか?

ときのそら:全然違いましたね。実写の役者さんの演技の裏に自分の声が乗るというのは、アニメとは違った感覚でしたし、テーマもかなり過激でした。

――聴いている側からすると、タイアップ曲という点ではアニメとドラマで大きな差はないような感覚でした。

ときのそら:そうなんです。私自身も聴いている時はそんなに差があるとは感じなかったんですけど、「これはドラマの曲です」と言われて聴くと、本当にドラマで流れていそうだなと。アニメじゃなくて、ドラマだからこそハマる曲ってあるんだなと実感しました。

――なるほど。作り手やドラマ作品の意図が曲調に反映されているんですね。

ときのそら:そうですね。最初に聴いた時は「こんなに違うんだ!」と驚きました。

【オリジナル楽曲】ときのそら「Dancing Reed」【Official Music Video】

――実際に「Dancing Reed」を歌ってみてどうでしたか? 聴いていると、ドラマに沿ったハラハラ感や疾走感があると感じました。

ときのそら:実はこの曲、キーを上げていないんです。本来はもっと高い方が歌いやすいんですよ。AメロやBメロが低くて、正直「キツいな」と思う部分もありました。ただ、これ以上キーを上げてしまうと、ドラマの持つ大人っぽさやセクシーさが出なくなると思って。だからあえて低めに設定したんです。

――確かに、疾走感のある曲だと高音でバーンと行きたくなる気持ちになりますよね。

ときのそら:そうなんです。実際、高い方が声を出すのは楽なんですよ。低い方がむしろ頑張らないと出せないので苦手なんですけど、あえて低いキーを使うことで生まれた表現があるというか。Bメロの〈体温が忘れられない〉というフレーズは、低いキーだからこそできた大人っぽい表現だと思います。今ではその選択が正解だったなと感じています。

――一般的には逆のイメージがありますよね。高い声の方がキツくて、低い声の方が楽っていう。でも、そらさんの場合は、低い声を出す方が難しいということなんですけど、声量的な問題もあるのでしょうか?

ときのそら:おそらく私自身の音程の基準が関係しているんだとは思います。自分の出しやすい低さより、さらに下を出すというのが難しいんですよね。「低音が出ない」というより、「楽に出せる低さよりさらに低い音を出している」というのが正しいかもしれません。

――なるほど。低い音は練習して身につきましたか?

ときのそら:そうですね。高音も同じだとは思うんですけど、低音を出す練習をしないと歌えなくて。『Dreaming!』(2019年)の頃だったら絶対に出なかったキーだと思います。「低すぎて声が出ません」という状態になっていたはずです……(笑)。

――8周年にして“低音を頑張って出す”という新境地。なかなか面白い挑戦ですよね。

ときのそら:もう高音に関しては、これまで出した楽曲の数もそうですけど、ある意味振り切っちゃってる部分もあるので、「これ以上高くしなくていいかな」と思うところもあります。

――続いて「∞超スーパー無限インフィニティ∞」についてお聞きします。

ときのそら:これはとにかく「キャッチーで、みんなと一緒に踊れる」をテーマにしています。あと、8周年にちなんで「無限」とか「8」がいっぱい入っているんですよね。ただ、この曲に関しては早口の部分が本当に大変でした……。収録前に「パラレル地球◯、パラレル地球◯、パラレル地球◯」って何度も練習したんです。「噛まない噛まない噛まない!」って思いながら練習しました。

――実際レコーディングはどうでした?

ときのそら:めちゃくちゃ噛みました(笑)。でも面白かったですね。「私らしいな」とも思いました。

【オリジナル楽曲】ときのそら「∞超スーパー無限インフィニティ∞」【Official Music Video】

――早口のフレーズって、やっぱりひたすら繰り返して慣れるしかないんですか?

ときのそら:そうですね。でも単語だけで練習すると逆に間違えやすいので、曲に合わせてリズムで慣れていった方が正しいと思います。自然と鼻歌みたいに出てくるくらいまで、小声で練習してました。この曲は絶対ダンスが盛り上がると思って気合いで歌いました。

――これまでも早口の曲はありましたよね?

ときのそら:はい、オリジナルもそうですけど、ボカロカバーも基本早口が多かったですね。だから今回も「また噛むな〜」と思いながら、何度もテイクを重ねました。でも、完成した音源では「聞き取りやすさ」を大事にしています。

――確かに。バックの音が激しくても、そらさんの曲って歌詞がちゃんと聞き取れる印象があります。

ときのそら:それは意識してますね。普段の喋りは少しふわっとしているんですけど、歌う時はハキハキ、子音を強めに出すようにしてます。

――日常から意識しているんですか?

ときのそら:そうですね。配信をした後、自分でアーカイブを聞くんですけど、「聞き取りづらいな」と思ったら直すようにしてます。だから自然と身についた部分もあると思ってます。

――そもそもなんですが「∞超スーパー無限インフィニティ∞」というタイトルがすでに噛みそうですよね。

ときのそら:そうなんですよ! なので、タイトルの呼び方をどうするかすごく悩みました。毎回、みんなが略しやすい名前を考えるんですけど、この曲は全然思いつかなくて。最終的に「スーパーインフィニティでいいか」みたいなノリで決めたんです。でもリスナーさんはその略称を使わなくて、飛び出してきたのは「超電波ピース」という言葉で(笑)。

――サビのフレーズですね。

ときのそら:そうです。タイトルじゃなくて、歌詞のキャッチーな部分で呼んでくれるんだっていうのがすごく面白かったです。しかもそれが結構共通していて、「“超電波ピース”いいよね」って言ってくれる人が多いんですよ。ライブでそのまま「じゃあ次、“超電波ピース”歌うね」って言ったら通じちゃうと思います。

――とてもいい話なんですけど、検索しても出なさそうだなって(笑)。

ときのそら:出ないんですよね(笑)。だからタイトルを覚えてもらうのは難しいけど、サビで覚えてもらえる曲になったのかなと思います。

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