日本の広告史を変えた佐藤雅彦と真心ブラザーズの幸福な関係 才能の快進撃「1分でもう『天才!』って感じ」

YO-KING「“広告”という縛りがあることが佐藤雅彦にとって幸福だったのかな」

――一緒に仕事をしてみて、あるいはそれ以外の仕事を見ていて感じる、佐藤雅彦のすごいところというと――。

YO-KING:基本は表現者というかアーティストなんだけど、そこに“広告”っていう縛りがあることが、佐藤雅彦にとってすごく幸福なことだったのかな、と。その縛りがあったほうが、社会に対して“佐藤雅彦”という人がわかりやすく表現されてる。縛りなしでフリーフレームでやったら、とんでもないアートを作りそうじゃん。だから、社会にとって佐藤雅彦を発見できた幸福と、佐藤雅彦が社会とコネクトできた幸福と、両方あるんじゃないかな。

桜井:佐藤さんのポテンシャルで、CMプランナーだったっていうのは、たしかにいい順番だったかもしれないね(転局試験合格後に部署異動)。

YO-KING:だって、佐藤さんの仕事が全部なかったとしたら、やっぱりすごく欠落じゃない? カルチャーとして。どれも、誰もが知ってる仕事だしね。佐藤雅彦を知らなくてもこの仕事は知ってる、という。

桜井:『佐藤雅彦展』でも、初期の頃の佐藤さんのコレクションで『ピタゴラ装置』にも使ってる、いっぱい集めた好きな箱とかが展示してあったじゃない? で、ある日、「自分は枠が付いているデザインが好きなんだ」ということに気がついた、と。僕の「つながりうた」もそうだし。何か自分の心にひっかかるものを心のメモに書いておいて、忘れないで、なんならコレクションして。ある時、それが解明するんですよね。そこからひとつの作品にして、さらにそれを知らない人に教えるっていうことも上手。今回、あれだけ大きな展覧会で、それを楽しむお客さんがいて。僕が行った時、すごく混んでいて。そこで佐藤雅彦の作品群をエンターテインメントとして楽しむオーディエンスっていうのを、初めて見て。

――これまでは家で、テレビで見ていたから。

桜井:そう。本当にみんなワクワクした顔をしながら見ていて。そこに感動しましたね。

――佐藤さんの仕事が、自分たちの作品にもフィードバックされたりしました?

桜井:2005年の再始動の時のシングルの「Dear,Summer Friend」っていう曲が、“つながりうた”になってるんですよ。〈君とキスしたら 楽勝で世界は 笑うほど変わった〉って。それはもう思いっきりそうだし、そのあと「きみとぼく」(2012年)という曲では、佐藤さん率いるユーフラテスにMVを作っていただいたり。

YO-KING:なんかさ、(『佐藤雅彦展』の)図録の表紙を見てて思ったけど、シンプルだよね。シンプルで、分解するのが得意なんだと思う、いろんな物事を。「大事なとこ、核はここだよね」ってちゃんとわかる人だからさ。そういう意味では、真心もいろんなアレンジを分解して分解して、基本はアコギと歌っていうところも、琴線に触れたのかもしれない。分解してシンプルにする名人。歌詞に関しても「この一行がこの曲のコアですね」とかさ、そういうふうに社会のことも見えてるだろうし、世界のことも見えてるだろうし。やっぱり、難しいことを簡単にやってくれるっていうのは、本当に頭のいい人じゃない? 数式を解くのが趣味なのって、佐藤さんだっけ?

桜井:うん。数学者になりたかったんだったよね。

YO-KING:量子力学を佐藤さんが今どういうふうにとらえてるのかとか、すごい興味ある。

――いちばん最近の関わりは?

桜井:去年、佐藤さんがやってるNHK Eテレの『0655』で、「虫へんが通ります」っていう曲で呼んでもらって。僕に直接電話かけてくるんですよ。「佐藤です。『虫へんが通ります』っていう曲を作りたいと思っていて」って、嬉しそうに喋ってくれて、「相変わらず最高だな」と思って。で、レコーディングしに行ったら、“虫へん”だけじゃなくて、“国がまえ”とか“雨かんむり”とか“獣へん”とか、いろんなものが増えてて(笑)。夢が広がっちゃったんでしょうね。トラックを作ってる方が、栗コーダーカルテットの栗原正巳さんで。面識はあったんですけど、一緒に仕事をするのは初めてで、楽しくレコーディングしました。いろんなバージョンを録ったので、それもオンエアしてほしいです(笑)。

――広告のクリエイターが本当にブームになったの、1980年代中盤だったじゃないですか。

桜井:ああ、コピーライターブームというかね。糸井重里さん、仲畑貴志さん、林真理子さんとか。

――そう、世のなかでコピーライターがいちばんかっこいいとされていた時期。その頃から佐藤さんは実はいたんだけど、そのブームが終わって、バブルも弾けてというタイミングで佐藤雅彦の仕事が世に出てきた、という印象があって。

桜井:たしかに。「モルツ」の時って、佐藤さんもう30過ぎてたから、10年以上のキャリアはあったはずなんだよね。

YO-KING:最初は部署がクリエイティブじゃなかったらしい。途中で希望を出して、転局試験みたいなのを受けて移ったっていう。

――で、1980年代の広告のかっこいいクリエイターたちが、何を作っているのか、我々はよくわかっていなかったけど、佐藤雅彦が何を作ったのかは誰でも知っている。

YO-KING:80年代の広告ってさ、ちょっと先のかっこよさ、ちょっと先の雰囲気を見せてたと思うんだけど、佐藤さんの広告って、かっこよさとか雰囲気じゃないもんね。もっとゴツンと焦点の合ったものじゃない? だから、今考えると80年代の広告って、気分をメインにしてたのかもしれないね。佐藤さんは、気分じゃないもんね。数字というか、リアリティというか。

桜井:ファッションじゃないよね。新しい数学の定理を見つけたいとか、そういう欲求に似てるのかもね。

YO-KING:かっこよさとか気分とかじゃなくて、誰もが納得せざるを得ないファクトというか。あのわけわかんない、80年代の雰囲気も好きだったけどね。

――というか、まんまと騙されていました。

桜井:ははははは。

YO-KING:「このかっこよさは、2年後に世のなかがこうなってるっていうかっこよさなのかな?」と思っても、2年後、別にそうなってないんだよ(笑)。いつまでも先の先の先の、実態のないかっこよさ。

――今後の佐藤さんに期待することは?

YO-KING:そうだなあ。ギターを練習して、弾き語りとかやってほしい。YouTubeに上げていくとかさ。歌ったらいいと思うんだよね。「モルツのテーマ」もサビは自分で作ったようなものだし、「カローラⅡにのって」も「湖池屋 スコーン」もそうだし。

桜井:ああ、そうか、セルフカバーで“全部歌ってみた”をね。

YO-KING:うん。やってほしい。

桜井:『佐藤雅彦展』にも展示してあるピタゴラ装置は触れなかったじゃない? あれに触ってみたい。NHKに打ち合わせに行った日、帰りに「今、学生たちが装置を作ってるから見て行きませんか?」と言われて。NHKのでっかいスタジオに、いくつか装置を作っているところだったの。学生さんたちはもう必死な顔をして作ってるんだけど、佐藤さんは喜々として「これちょっと見てみますか?」って。装置を作動させるんだけど、うまくいかなくて、「うまくいったやつ見せて」ってハンディカムで撮った映像を見せてくれたんだけど。そのうまくいったやつ、「TAKE 178」とか書いてあるんだよ。

――(笑)。

桜井:だから、あれを生で見てみたい。毎回成功するぐらいの精度にしたピタゴラ装置を、鬼の佐藤教授に見せてほしいなと思います(笑)。

■ツアー情報
『真心ブラザーズ バンド・ライブ・ツアー「have a nice TRIP!」』
2025年12月13日(土)福岡・DRUM LOGOS
OPEN 17:00/START 17:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2025年12月14日(日)熊本・B.9 V1
OPEN 16:00/START 16:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2025年12月19日(金)京都・磔磔
OPEN 18:30/START 19:00
チケット:全スタンディング(整理番号有)前売 7,500円(税込/+1D)

2025年12月21日(日)愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
OPEN 16:30/START 17:00
チケット:全スタンディング(整理番号有)前売 7,500円(税込/+1D)

2026年1月11日(日)宮城・仙台 Rensa
OPEN 16:30/START 17:00
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2026年1月17日(土)北海道・札幌PENNY LANE24
OPEN 17:00/START 17:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2026年1月24日(土)広島・LIVE VANQUISH
OPEN 17:00/START 17:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2026年1月25日(日)香川・高松 festhalle
OPEN 16:00/START 16:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2026年1月31日(土)大阪・なんばHatch
OPEN 17:15/START 18:00
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

2026年2月7日(土)東京・EX THEATER ROPPONGI
OPEN 16:45/START 17:30
チケット:全席指定前売 8,000円(税込/+1D)

真心ブラザーズ オフィシャルサイト: https://www.magokorobros.com
X(旧Twitter):https://x.com/magokoro_bros
Instagram(YO-KING):https://www.instagram.com/yokinghonnin
Instagram(桜井秀俊):https://www.instagram.com/sakurai.hidetoshi/

■イベント情報
『佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)』
場所:横浜美術館
会期:2025年6月28日(土)〜11月3日(月・祝)
時間:10時~18時
※ただし、10月4日、11日、18日、25日、11月1日(いずれも土曜日)は20時まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日:木曜日

横浜美術館:https://yokohama.art.museum/exhibition/202506_satomasahiko/

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