Omoinotake「フェイクショー」MVに描かれたリアルで辛辣なメッセージ ブレイクの契機を経て何を問うのか?
Omoinotakeの新曲「フェイクショー」のMVが公開された。まだ観ていない人はぜひチェックしてほしいのだが、楽曲の持つシリアスなテーマやメッセージを映像表現として鮮やかに昇華した、この曲を理解するうえで必見のビデオである。Omoinotakeが「フェイクショー」という言葉で言い表そうとしたものとは何なのか、そしてこのビデオと楽曲は我々に何を訴えかけようとしているのか、あらためて考えてみたい。そこにはOmoinotakeというバンドのありかた、そして彼ら自身が現在置かれた状況も深くかかわってくるはずである。
「フェイクショー」は9月まで放映されていた日曜ドラマ『DOCTOR PRICE』(読売テレビ/日本テレビ系)の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。同ドラマは、医師という“商品”を病院相手に巧みに売り捌き、大金を稼ぐ医師専門の転職エージェント・鳴木金成(岩田剛典)を主人公にした物語。ダークヒーローとも言える鳴木の活躍の過程で医療業界の根深い闇が次々と暴かれ、それは最終的に鳴木自身の人生にも大きく関わる過去の医療過誤事件へとつながっていった。悪を挫くエンターテインメントでありながら、同時にとてもシリアスな、一筋縄ではいかない正義と倫理を描いたドラマでもあったのだ。その主題歌を担当するにあたって、Omoinotakeは次のようなコメントを寄せていた。
「無数の選択肢がある毎日の中で、いったい何が自分にとって正解なのか、正義なのか、幸せなのか。誰かの正解は自分にとっての不正解だったり、誰かの笑顔の裏で、誰かが泣いていたり。さまざまな思惑が交錯する、この世界を生きていくことは、とても、とても難しい。『DOCTOR PRICE』のストーリーへ没入する中で、そんなことを、ただただ考えていました」(※1)
まさにそれぞれの“正義”がぶつかり合うような展開となっていったドラマ同様に、「フェイクショー」という楽曲も、さまざまな価値観や思いが摩擦して熱を生み出すような、スリリングでドラマティックな一曲となった。エフェクトのかかった声が鳴り響くイントロから、ピアノのコードとともに美しいメロディが流れるAメロ、リズムが加わって徐々に加速しながら不穏さを増していくBメロ、そして藤井怜央(Vo/Key)のハイトーンが空気を切り裂くような鋭いサビ。オーガニックなサウンドとデジタルな音響処理が目まぐるしく混じり合い、「フェイクショー」は展開する。福島智朗(Ba)による歌詞は〈次から次へ 幕開ける フェイクショー〉というフレーズで幕を開けるが、この曲は場面ごとに違った顔を見せながら、我々をどんどん煙に巻いていくのである。そう、まるで「何が本当のOmoinotakeなのか」という問いを、ドラマの視聴者に、リスナーに、そして自分たち自身に投げかけるかのように――。
そうしたこの曲のアティテュードを、より大胆に、ストレートに描いたのがこのたび公開されたMVである。3人が演奏をしているのは、輪転機が回る印刷工場。モノクロのクールな映像のなかで、彼らはエモーショナルに楽曲を奏でる。それを観た人はこう思うだろう。「ここで歌われる『フェイクショー』とはつまり、世のなかに蔓延るフェイクニュースや根拠のない噂話に対する痛烈な皮肉なのだろう」と。〈嘘も誠も あなた好みの テイスト〉や〈どうやら人は 無味無臭の ファクトよりも/スパイス効いた 紛い物を 選ぶの〉というフレーズが物語るように、情報が溢れ錯綜する世界で、何を“正しい”と感じ、信じるのかというテーマを、力強いサウンドとメロディで訴えているのだ、と。それは一面ではそのとおりだ。『DOCTOR PRICE』が嘘や虚飾に塗れた世界で自分にとっての真実を追求する物語だったのと同じように、〈いつか僕だけの「大切」を 抱き締めるため〉に未来へと踏み出していく姿を描くのがこの曲だからだ。
だが、このMVは、そうしたメッセージやテーマですらも実は「フェイクショー」の一部かもしれない、というメタ的な構造を突きつけてくる。
モノクロの演奏シーンの合間に突如インサートされる、センサーだらけの人物や、楽器、さらにはメンバーの顔の3Dワイヤーフレーム。そして楽曲も終盤に差し掛かったところで、Omoinotakeの3人の演奏と同期するように楽曲を奏でる、別の3人組がカラーで映し出される。ゲームや映画のメイキング映像で見たことがあるだろう。彼らが身につけているのは、モーションキャプチャ用のセンサーである。つまり、このMVで音楽を鳴らし歌っているOmoinotakeの3人は、モーションキャプチャによって動かされている3D CGモデルにすぎない……のかもしれない――ということが示唆されるのだ。あなたの見ているOmoinotake自体“フェイク”で、実在していないかもよ? というわけである。
そうした構造の可能性を暴き出すことによって、「フェイクショー」はドラマのテーマソング、あるいは単に社会風刺や皮肉のメッセージソングという枠を大きくはみ出して、ますますシリアスなテーマを帯びることとなる。〈ダンスフロア 世界中 踊ってるつもりで/踊らされてる かもしれない/「フェイクショー」〉という歌詞が、Omoinotake自身、そして彼らが属しているエンターテインメントの世界を刺す言葉として浮上してくるのだ。これはとても辛辣で、そしてリアルなテーマだ。
たとえば、ここ10年ほどでSNSを通してアーティストが発信することが当たり前になり、ファンとの距離感は縮まったと言われる。だが、そうしたバーチャルなタッチポイントが増えれば増えるほど、情報操作やイメージ操作が容易くなることも事実だし、虚像がひとり歩きして拡散されていく危うさも膨れ上がっていく。この「フェイクショー」のMVは、そうした状況に対しても、立ち止まって考えるきっかけを与えてくれているように感じるのだ。
もしかすると、現在のOmoinotakeにとってそれはより切実なテーマなのかもしれない。言うまでもなく、この一年で彼らを取り巻く状況は大きく様変わりをした。ブレイクの契機となった「幾億光年」を経て、バンドに対するパブリックイメージもある種定まったと言えるし、彼らに対して世間が求めるものもどんどん拡大しているだろう。そんな今だからこそ、この曲が生まれた意味はある。何が“正解”で、何が“本当”なのかがどんどんわかりづらくなっているからこそ、彼らは「それでも信じられるか?」と問いかけるのだ。
そして、言うまでもなく、その答えは音楽そのもののなかにある。映像やサウンドが仕掛けてくる“トリック”を覆すほどに、「フェイクショー」には3人の生身の熱量が込められている。“フェイク”に溢れた世界でも揺るぎない確かなものを、その熱から感じ取ってほしい。
※1:https://www.ytv.co.jp/doctorprice_drama/music/
■リリース情報
Digital Single『フェイクショー』
配信中
配信URL:https://omoinotake.lnk.to/FakeShow
■ツアー情報
『Omoinotake ONE MAN TOUR 2012-2025 "Shinka"』
2025年9月23日(火・祝)島根・島根県民会館 大ホール
OPEN 17:00/START 18:00
2025年10月3日(金)愛知・Zepp Nagoya
OPEN 18:00/START 19:00
2025年10月5日(日)福岡・Zepp Fukuoka
OPEN 16:00/START 17:00
2025年10月12日(日)大阪・Zepp Osaka Bayside
OPEN 17:00/START 18:00
2025年10月13日(月・祝)石川・本多の森北電ホール
OPEN 16:00/START 17:00
2025年10月19日(日)宮城・仙台電力ホール
OPEN 16:00/START 17:00
2025年10月25日(土)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
OPEN 17:00/START 18:00
2025年11月1日(土)北海道 Zepp Sapporo
OPEN 17:00/START 18:00
<チケット>
Zepp公演(愛知/福岡/大阪/東京/北海道)
・1F 全自由(一般):6,500円(税込/ドリンク代別/整理番号付き)
・1F 全自由(学割):5,500円(税込/ドリンク代別/整理番号付き)※FC/オフィシャル先行のみ取扱い
・2F 指定席(一般):7,000円(税込/ドリンク代別)
ホール公演(島根/石川/宮城)
・全席指定(一般)):7,000円(税込)
・全席指定(学割)6,000円(税込)※FC/オフィシャル先行のみ取扱い
※3歳以上有料、3歳未満入場不可
※学割チケットをご購入の方は、入場時に学生証を確認いたします。(特に高校生、大学生、専門学生の方は、学生証を忘れた場合は、一般料金との差額をいただく場合がございます。予めご了承ください。)
※お一人様1公演につき4枚まで申込み可
■公演情報
『Omoinotake Live at 日本武道館』
2026年3月15日(日)日本武道館
OPEN 17:00/START 18:00
<チケット>
指定席:8,800円(税込)
指定席(学割):7,000円(税込)
※3歳以上有料、3歳未満入場不可
申し込みはこちら:https://w.pia.jp/t/omoinotake-t/
Omoinotake オフィシャルサイト:https://omoinotake.com/
X(旧Twitter):https://x.com/Omoinotakey
Instagram:https://www.instagram.com/omoinotake/
YouTube:https://www.youtube.com/@Omoinotake