INI 尾崎匠海・藤牧京介は互いの信頼が一つの声になって表れる “おざまき”が生み出す染み渡るハーモニー
小芝風花と佐藤健がW主演を務めるAmazonオリジナルドラマ『私の夫と結婚して』日本版(Prime Video)。そのOST(オリジナルサウンドトラック)に起用されている楽曲の一つが、INIの尾崎匠海と藤牧京介が歌う「So You Can Shine」だ。
劇中で描かれる、小芝演じる美紗と佐藤演じる亘の切なくもあたたかな恋模様をなぞるように歌われるこの楽曲でひときわ印象に残るのが、尾崎と藤牧のハーモニーである。どちらが主旋律を担当しても自然に重なり合う和音は、まるで亘の一途な想いをそのまま音に変換したかのように感じられる。〈今日という日が 輝きますように〉という願いを乗せたフレーズが、2人の声を媒介にしてリスナーの心に染み渡っていく楽曲だ。
さらに、8月には尾崎と藤牧のオリジナル楽曲「Unrequited Love」が配信リリースされた。
本楽曲では、ピアノとストリングスを基調としたシンプルかつ繊細なアレンジになっており、2人の声質のコントラストをより際立たせている。尾崎の柔らかく深みのある声が楽曲全体に安定感を与える一方で、藤牧の透明感と伸びやかさを持つ高音がその上をすり抜けるように響き、まるで一つの旋律が二つの感情を同時に抱えているかのような立体的なサウンドを生み出している。
こうした2人の歌声の相性の良さには、単なる声質の違いだけでなく、その関係性や表現スタイルの親和性も大きく影響しているのではないだろうか。INIの中でメインボーカルを担う尾崎と藤牧は、ファンの間で“おざまき”の愛称で親しまれる同い年コンビ。1999年生まれという共通点に加え、互いの存在が成長を支え合う関係にあることはよく知られている。
尾崎は、中低音から高音域にかけての柔らかさと包容力に優れ、伸びやかなビブラートを武器に、感情を大きく広げるような歌い方が特徴的だ。声色からはまるで光が差し込むような清らかさを感じさせる一方で、楽曲によっては切実さや痛みをストレートに伝える芯の強さも持っている。対する藤牧は、心地よい響きを持つ低音域から一音一音に瑞々しさを含んだ高音域まで巧みに操り、言葉のニュアンスを丁寧にすくい上げるような歌唱が持ち味。深い水面に小石を落とすように、そっと心の奥へ沈んでいく響きを生み出す。
この“光”と“深み”の関係が、2人のハーモニーを特別なものにしているのではないだろうか。「So You Can Shine」では、尾崎の高音が空を突き抜けるようにまっすぐ響く一方で、その足元を支えるように藤牧の声が穏やかに寄り添う。加えて、こうした高低のコントラストだけでなく、歌詞に込められた感情をどう表現するかというアプローチにも違いがある。尾崎は心情を音の広がりで描こうとするのに対し、藤牧は言葉一つひとつを内側から温めるように響かせる。そのアプローチの差異が、同じメロディであっても二つの深みを与えている理由なのだと思う。
さらに2人は、互いの声を引き立て合うことに長けているように感じる。藤牧の声が持つ柔らかい質感は、尾崎のまっすぐで伸びやかな高音をより際立たせるフィルターのように働き、逆に尾崎の明るさが藤牧の声に隠れた哀しみや儚さを浮かび上がらせる。「Unrequited Love」で特に顕著なのは、2人がハーモニーを重ねるサビと、〈こっち向いてよ もう苦しいよ〉から〈瞳の先には僕じゃない〉までの主旋律とハモリを交代しながら歌う箇所だ。声質はまるで対照的なのに、ブレンドされることで一つの輪郭を持った新しい“おざまき”の声が立ち上がる。これこそが、単に“声の相性が良い”というレベルを超えた表現の強さであろう。
お互いを意識し合い、高め合ってきた歴史も、この相性の良さに寄与している。INI結成のきっかけになったオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』(TBS系/GYAO!)時代から、尾崎と藤牧は互いに刺激を受けながら成長してきた。グループ結成後も、数多くの楽曲をともに仕上げてきた経験が、自然な呼吸感を育んでいる。息を合わせようとわざわざ意識しなくても、同じタイミングでフレーズが膨らみ、同じ強さで音が抜けていく。歌唱における“間”や“ため”の感覚が共通しているからこそ、彼らのハーモニーは2人で一つの声なのだと感じさせるのかもしれない。
こうして生まれた“おざまき”の声が生み出す世界観は、INIというグループの音楽的な強みを象徴するものでもある。尾崎と藤牧のボーカルは、互いの魅力を打ち消すことなく重なり合い、1+1を2ではなく3にも4にも膨らませる。歌声が共鳴することでより大きな感情を描き出し、リスナーを魅了してやまないのだと思う。
「So You Can Shine」が物語に寄り添うOSTとして聴き手の胸を温め、「Unrequited Love」が2人の個性を映し出したラブソングとして響くのは、彼らの声がただ美しいだけでなく、互いを引き出し合う化学反応を起こしているからだろう。“おざまき”のハーモニーは、ただの声の重なりではない。尾崎匠海と藤牧京介という2人が歩んできた時間、積み重ねた経験、互いへの信頼までをも歌に変換した結果だ。彼らはこれまでもそうだったように、今後のINIにおける楽曲表現の可能性も広げていく存在となるだろう。