「舐めんじゃねえ」――野音に刻んだアユニ・Dの存在証明 BiSHから持ち続ける反骨精神、PEDROの軌跡と次なる“夜明け”
PEDROが8月11日、東京・日比谷野外大音楽堂でワンマンライブ『Special One-Man Show「ちっぽけな夜明け」』を開催した。この野音ワンマンが決定したのはおよそ2カ月前の6月。想定していなかったタイミングで野音でライブができるという話が舞い込んできて、アユニ・Dはやることを即決。彼女にとって、野音はBiSHとして初めて回った全国ツアーの千秋楽の公演をやった場所。そのメモリアルな会場にPEDROで立つことは彼女にとっても念願だったという。
パラついていた雨も開演前には止み、暑すぎないグッドコンディションの中、PEDROは全25曲、勢いよくパフォーマンスを繰り広げた。アンコールでは新作ミニアルバム『ちっぽけな夜明け』のリリースを発表し、そこに収録された楽曲を全曲初お披露目。PEDROが歩んできた道のりも、そしてこの先の未来も照らし出す、素晴らしいライブだった。
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夏の野音は、ライブが始まる時点ではまだまだ昼の明るさが残る。なんとも開放的な雰囲気で、ステージを見つめて開演を待つファンの気分も高揚していることが伝わってくる。そこに登場したアユニ・D(Ba/Vo)、田渕ひさ子(Gt)、ゆーまお(Dr)の3人。アッパーなリズムとギターリフが鳴り響き、アユニが歌い出した1曲目は1stアルバムに収録された「NIGHT NIGHT」だった。まだ明るいから、ステージ上のアユニの姿もよく見える。きっと彼女からも客席の様子がよく見えたことだろう。ノリノリで腕を突き上げるオーディエンスを見て、アユニは笑顔を浮かべている。楽しさと嬉しさが入り混じったようなとてもいい表情だ。あらためて、今のPEDROがファンととても緊密な関係性を築いて進んでいることが伝わってくる。
畳み掛けるように「GALILEO」へ。アユニの「日比谷野音!」という叫び声に歓声が上がる。さらに「夏」に「東京」と楽曲を繰り出すたびに、会場の一体感は増していく。一転してどっしりとしたサウンドとともに真っ直ぐに前を見つめながら「生活革命」を届けると、アユニは「ありがとう」と一言。音が止むと周囲の木々から蝉の声が聞こえてくる。挨拶を経て、田渕のギターから「ラブリーベイビー」でライブを再開させると、立て続けに「音楽」へ。「今日というめでたい日に愛を込めて」という言葉とともに披露された「祝祭」では、アユニの歌にも田渕のギターにも一層気持ちが乗って、力強く響いてきた。続く「愛愛愛愛愛」ではゆーまおのドラムが炸裂。3人それぞれに見せ場を作りながら、PEDROのバンドとしての進化を刻みつけていく。
中盤、田渕のギターがけたたましく鳴り響いて始まった「EDGE OF NINETEEN」で一気にギアを上げると、客席と一緒になって突っ走るパンキッシュな「万々歳」へ。汗まみれでベースを弾き歌うアユニの姿はとてもパワフルだ。そこからゆーまおがキックを鳴らし、田渕がギターノイズを鳴らす中、アユニが叫ぶーー「自分のことなんかいくつになっても好きになれなくて。いつも人の真似事ばかりして、外ではいい顔して、本当の気持ちを伝えるのが怖くて。でも情熱が嘘だったことなんか一度もなくて」ーー心の内を吐き出しながら、彼女はこう続けた。「だから、私はもっとここでできんだろって。もっとここで歌えんだろ!」。まるでずっと溜め込んできた本当の気持ちを爆発させるような言葉から「吸って、吐いて」が始まっていく。塊のようなバンドサウンドと、内側に秘めたドロドロしたものを全部ぶつけるような歌だ。それまでと空気がガラリと変わり、野音は壮絶な生き様を見せつける舞台へと変貌する。そのまま突入した「グリーンハイツ」で、アユニは〈みんなが僕をバカにすんだ〉と叫んだ。これは彼女がBiSHで初めて作詞をした「本当本気」のフレーズだ。「昔のほうがよかったですか?? 舐めんじゃねえ!」。鬼の形相で声を上げるアユニに客席から大歓声が飛び、アユニは最後、ステージに蹲りながらベースを弾き倒すのだった。