Penthouseの真骨頂は熟練を越えた“愛嬌” 初武道館ワンマン発表で歓喜に満ちたツアー『Midnight Diner』

 「悔いのないようにもっと声を出して盛り上がっていきましょう」という浪岡のMCから、ライブは後半戦へ。洒脱なAメロでメンバーの技が光る「Jukebox Driver」では、間奏で矢野と浪岡がステージど真ん中で向き合ってギターをプレイ。なお進化を続けるパフォーマンスを見せる。「Taxi to the moon」では、間奏をバンドメンバーたちのソロパートで繋いでいく。ロマンティックな矢野のギターから始まり、テナーサックス、トランペット、再びテナーサックスと繋ぎ、大原のベースは『サザエさん』オープニングテーマのフレーズからチョッパーへ。パーカッション、低音を効果的に使って見せた平井のドラム、浪岡のギター、そして軽やかでカオティックなCateenのピアノ。Cateenと目の前にいる矢野は、アイコンタクトを交わしながら演奏に異なる表情を加えていく。大島はステージ後方の一段高くなったセットのバーカウンターの横に立ち、小粋なステップを踏みポーズを決める。

 ビッグバンド形態では決して珍しくないソロの畳みかけ。通常ならば1人のソロが終われば拍手が入ることもある。しかしPenthouseのソロ繋ぎは、1人が終わっても拍手を待たずに、どんどん展開していく。しかも、(想像だが)ほとんどがアドリブだろうし、1人あたりの尺もビッグバンドに比べたら若干タイトだ。ゆえに次の展開が読めず、非常にスリリング。グルーヴ感を切らさずどんどん足していくような構成もダイナミックで、まるで1曲のインスト曲のようなストーリー性もある。脊髄までゾクゾクするようなPenthouseの真骨頂に、国際フォーラムはダンスフロアのように揺れた。

 ライブを観て痛感したPenthouseの魅力は、音源の最適解とライブの出音の最適解があり、それぞれが明確になっていること。この日、すべてのメンバーの出音に対して感じたことだが、音圧ではなく音の表情、粒の細やかさで勝負していた。例えば、ファンクのグルーヴが前面に出るアップチューンなら、手っ取り早く楽器の音圧を上げた方がダイナミズムに直結すると思うし、彼らにはそれを乗りこなすスキルもあると思うのだが、それをやらないのだ。あくまで丁寧に、細やかに、タイトだが研磨されたように丸みを帯びた音を出す。これが、Penthouseの看板である“男女のツインボーカル”をしっかり聴かせるための最適解なのだろう。

 ゆえに浪岡と大島の2人は、自由にサウンドの上でボーカリストとしての実力を発揮することができる。そして溶け合った2人の歌声には抜群の心地よさと包容力が宿り、特に同化する一歩手前の2人のユニゾンの混ざり具合は、音源からは見えてこなかった魅力だった。相手の音を聴きながら、自分の音を出す。相手がどんな音を出すのか、メンバー同士で楽しんでいる。そのワクワクがしっかりライブにも表れていることこそが、Penthouseというバンドの強さだ。

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