布袋寅泰が語る最高傑作『GUITARHYTHM VIII』 Char、吉井和哉、石野卓球……進化し続ける音楽探求の衝動

 少しばかりレトロな響きのするシーケンス&シンセサウンドとソリッドなギターがせめぎ合う。どこか懐かしい80’sやニューウェイヴの香りを放ちつつ、鳴っているサウンドは紛れもなく最新鋭。デジタルに絡むバンドの生のグルーヴ感が心地好い。4月16日にリリースされた『GUITARHYTHM VIII』は、間違いなく今多くのリスナーが聴きたい『GUITARHYTHM』だ。

 布袋寅泰のソロキャリアスタートとともに1988年から始まった『GUITARHYTHM』も8作目。アルバムのすべてが『GUITARHYTHM』だった『IV』までとは異なり、2009年にリリースされた15年ぶりの『GUITARHYTHM』である『V』以降は、布袋自身が『GUITARHYTHM』を俯瞰しながら向き合っているように感じる。特にロンドン移住以降は“世界から見た日本のロック”としての在り方を投影するような作品も多くなり、『GUITARHYTHM』とそれ以外の作品の棲み分けが顕著だ。だからといって、共通のテーマがあるわけではない。コンピューターでロックをやるという、当時誰もやらなかったことをやろうと思ったのが『GUITARHYTHM』の始まりだ。要するに、布袋の先鋭的な音楽探求の衝動こそが『GUITARHYTHM』なのである。

 アーシーに鳴り響くシンセサイザーに重なるざらついた音色のギター、鍵盤によるブラスサウンドが煌びやかさを生んでいく「JUMP」。捲し立てるギターリフから挑発的なボーカルが重なる「No More Killing」。重心低めのビートに軽やかな布袋らしいキャッチーなメロディが、古くからのファンの胸を郷愁感でえぐっていく「憂鬱なジキル」。このアタマ3曲から、本作がリスナーが今聴きたい『GUITARHYTHM』であることを証明してくれる。

 音圧よりも各楽器の図太い鳴り方にこだわった、輪郭のはっきりした音像を持った本作。細部にまで行き届いた丁寧なミックスがビビッドなアートワーク同様、鮮明なサウンドプロダクトを創り出している。ギターサウンドはソリッドでありながら図太く、ピッキングのスピードを感じられる臨場感がたまらない。無機的に鳴るシンセサウンドとのコントラストも美しい。スピーカーでもヘッドフォンでも変わらない聴き心地。グッと前へ出た立体感のあるバンドアンサンブルのせめぎ合いが、心地好く耳に届いてくるのも本作の大きな特徴だ。

 無国籍でエレガントな響きを持つ「Love is」、ギターで描く幽玄な世界、抒情的なメロディで聴き手の情緒をまさぐるようなインストゥルメンタル「オフィーリア」も圧巻だ。そして、懐かしさを感じるハネたビートに乗せ、やんちゃな思い出を歌う「Finally」。キャリアと歳を重ねてきたからこそ歌える歌だ。そんな詞を『II』(1991年)から『GUITARHYTHM』の詞世界を彩ってきた森雪之丞が書いていることも、古くからのファンにとっては感慨深いポイントだ。ちなみに、先述の「No More Killing」も森による詞であり、『II』のテーマでもあった“天使”と“悪魔”が登場している。「Boogie Woogie Under Moonlight」は『I』を想起させるようなスペイシーなナンバーで、「Funk It Up」ではファンクなセッションのなかに「GUITARHYTHM」のフレーズがマッシュアップされている。本作は、『GUITARHYTHM』シリーズのヒストリーを随所から感じられる作品でもある。

 コラボレーションも豪華だ。オフィシャルYouTubeチャンネルでの対談&セッション、そして先日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)での共演も話題になったCharとの「Side by Side」。19年前の「Stereocaster」(2006年)とは打って変わって、お互いが寄り添っていくようなプレイを聴かせてくれる。それぞれのキャリアからの貫禄と余裕が至るところから溢れ出ている。さらに初タッグとなる石野卓球(電気グルーヴ)との「Move Your Body」は、これまで交わるようで交わらなかったセンスの融合が予想だにしなかった化学変化を生み、抜群の相性を見せている。「Dangerous」(2020年)のダンディズムなコラボで魅了した吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)は、ファンタジックな雰囲気と浮遊感のあるメロディが美しい「Falling」の作詞で参加。極上のラブソングを書き上げている。

 ラストを飾る、Netflix映画『Demon City 鬼ゴロシ』への提供曲「Ghost of Pain (G8 ver.)」まで、一分の隙ない圧倒的な完成度の高さで駆け抜けていく。デジタルレコーディングの先駆けと言うべき『GUITARHYTHM』1作目から37年。デジタルレコーディングが当たり前になった2025年に、あの頃のノスタルジーを感じる『GUITARHYTHM』が完成した。古くからのファンはもちろんのこと、最近布袋を知った、これから布袋を知るロックファン、ギターキッズにも薦めたいアルバムだ。最新の布袋が贈る最高傑作が『GUITARHYTHM VIII』なのである。

 さてここからは、本作『GUITARHYTHM VIII』について、ロンドンにいる布袋へのメールインタビューを掲載する。楽曲について、ツアーについて、そしてこれからの『GUITARHYTHM』はどこへ向かうのか? 一つひとつ真摯に応えてくれた布袋の想いを感じてほしい。

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